あまてらす水妖記
木島別弥(旧:へげぞぞ)
第1話 水蛇から太陽神まで
わたしはもともとただの水蛇でした。川の中で泳ぎ、時々陸に上がって小動物を食べる普通の蛇でした。別に強い力をもっていたわけでも、偉大なる血統を継いでいたわけでもありません。普通に、この山水の中に生きる水蛇でした。
それで、川の神である猿田彦にぐうたら文句をいって、最近、獲物の獲れが悪いぞなどと申しておりましたところ、どっかの男が来ていいました。この川は五十鈴川というのだが、この川は我が島における聖地である。その聖地の水蛇であるおまえは、これから偉大な神となれ。
まあ、話が全然見えません。わたしはただの水蛇です。「あのお、わたしのどこが偉大なんでしょうか。大丈夫ですか、あなたたち」。しかし、男たちは強い決意をもっているようです。
「ああ、この世界でいちばん強いのは太陽だろう。おまえの兄を太陽にする」
さっぱり、わからないのですが、その時、わたしはまだ生まれて二年ほどしかたっていませんでしたが、確かに兄の水蛇がいました。
しかし、兄の水蛇は生まれた時から体が弱く、とてもそんな大事を任せられるものではありません。
兄は「太陽神」として昼子と名付けられました。
「お兄さん、わたしたちただの水蛇なのに、太陽なんかにされたら、たいへんです。断りましょう」
「いいや。おれも一度はがんばってみんなを見返したいよ。まだ体も未成熟な奇形児のおれだけど、このまま太陽になれるならなりたい」
兄はそういっていました。五十鈴川の水の中で、兄は太陽になろうとしました。兄を国の柱として立て、これから国を建国するのだそうです。
「お兄さん、大丈夫?」
と心配していたのも束の間、兄はそのまま体が成熟せずに死んでしまいました。
「ひどい。あなたたちが兄を太陽になんかしなければ兄は死なずにすんだかもしれないのに」
わたしは男たちにいいました。しかし、男たちはまったく聞く耳をもたないようです。
「兄の昼子が死んだ今、妹のおまえが昼女(ひるめ)となって太陽となるしかない」
わたしは断れませんでした。
そして、わたしはオオヒルメノムチの神という太陽になりました。後に、天照大御神と呼ばれるのがわたしです。本当はただの水蛇ですのに。
弟の月読に聞くと、弟は名前を月夜見に変えたといっていました。
「この方が格好いいだろう。月夜見として、おれは月の神をやるからね。がんばってこの島国を盛りたてようよ」
なんとも調子のいい軽薄な弟ですこと。わたしたちはただの水蛇ですよ。
男たちがいいました。
「おまえたちの物語を枯山水に描くことを約束する」
あら、なんだか、凄そうなことになってきましたね。
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