第5話 変化
春になり、まいは受験勉強、春人はバンド活動に集中する為2人はバイトを辞めた。
毎日が忙しくかれんにも春人とも会えない日々が続いた。
ミーン、ミーン。
「世間は夏休みか」
クーラーの効いた部屋で机に向かうまい。
プルルルル。
春人からだ。
「もしもし、久しぶりだね!」
まいは少し嬉しそう電話にでる。
「たまにはパーっと遊びに行かない?」
春人は明るく言った。
「そうだね、ずっと勉強漬けだったからいいよね!どこ行く?」
「海とかは?」
「海いいね!」
「友達も誘ったらどう?」
「誘ってみるね!」
家に篭りっぱなしだったまいは久しぶりの誘いにテンションが上がっていた。
「いいね!ゆうたに車出してもらってみんなで行こうよ!」
かれんはノリノリだった。
当日。
「噂の春人君初めましてだわ」
かれんはニヤニヤして言った。
「変な事言わないでよね!」
「分かってますとも」
まいが住んでいるマンションの外で待ってると春人が歩いて来た。
「迷わずこれたね!」
まいは言った。
「初めましてー!いつもまいがそれはそれはお世話になってます!」
「こらこら」
「初めまして、こちらこそいつもまいちゃんがお世話になってます」
春人もかれんに合わせる。
「あんたたちねぇ」
呆れるまい。
しばらくしてゆうたも車で登場。
「かれん、まいちゃんおはよ!」
「今日はお願いします!」
まいが言うと春人も続けて言った。
「初めまして、春人って言います、よろしくお願いします」
「俺はゆうた、よろしくね!」
3人は車に乗り込み海へと出発する。
無事海につき春人とゆうたが2人の着替え待ちをしている。
そこに、まいとかれんがやってきた。
「可愛い」
春人は思わず言葉が出ていた。
「海だー!」
はしゃぐかれん。
「早く行こうよ!」
春人に手招きするまい。
春人はまいの方にかけていく。
暗くなるまで遊んで、かれんは家まで送ってもらう為、まいと春人を先にマンションの前で降ろして解散。
「ちょっと寄っていく?」
まいが聞く。
「えっ?いいの?」
「いいよ!」
「じゃあ少しだけ」
春人は緊張していた。
「おじゃまします!」
「あらいらっしゃい」
「初めまして、三輪春人と申します」
「丁寧にどうも、ゆっくりしてね!あっよかったら夕飯食べて行かない?」
「はい、お言葉に甘えて」
春人はお腹が空いていた。
3人で仲良く食事を楽しむ。
「ご馳走様でした!美味しかったです!」
春人が言う。
「お粗末さま」
「私の部屋で少し休憩する?」
「うん、見てみたい」
春人は興味津々だ。
「なんか不思議な感じ」
部屋をジロジロ見ながら春人は言った。
「普通でしょ?」
「なんか女の子の部屋って感じしない」
「なにそれ?」
「自分の家みたいに落ち着くって意味だよ!」
「それわかるかも、初めて春人の家行った時私も同じこと思った!意外とうちらって似てるのかも!」
「そうかも、あっそろそろ帰らないと!」
「駅まで送るよ!」
「いいって!今日は疲れただろうからゆっくりしてな!」
「分かった、気をつけてね!」
「おじゃましました!」
ガチャ
母がまいをじーっと見る
「なに?」
「あんた男の子連れてくるの初めてだよね」
「初めてじゃないよ、健がいるじゃん」
「健君以外で」
「だから?」
「安心した、てっきり健君が県外行ってどうなることかと思ったから、春人君いい子じゃないの」
「私もそう思うよ」
「何か訳ありみたいだわね」
「疲れたからお風呂入って寝るねー」
「変な子」
お風呂に浸かって考える。
(健の事忘れた訳じゃないけど、やっぱりあの胸の痛みは気のせいだったのかな、情ってやつ?)
その後も時々4人で遊ぶ事があり、ある時遊園地に4人で行った時。
春人とゆうたが飲み物を買いに行く。
「春人君はまいちゃんの事ほんとに好きなんだね」
ゆうたが春人に言う。
「えっ?」
キョトンとする春人。
「気付いてないと思ってた?バレバレだよ」
「ですよね、」
「付き合ってないんだって?」
「はい」
「俺には、まいちゃんも春人君に気があるように見えるけど?」
「それがよくわからないんですよね、誕生日祝ってくれたり、家にあげてくれたり、それっぽい行動はあるんですけど。前に俺のことどう思ってるか聞いたら、男としては見れないって言われちゃって、だからあくまでも友達なんですよね」
辛そうに答える春人。
「その時は、じゃないかな?女の子の心って難しくて、ある日突然変わったりするもんだよ。見てる方からしたら、もう付き合っちゃいなよって思ってしまって。まぁ春人君が良いならいんだけどね」
「良くはないですよ、良くないですけど、これでフラれたら今の関係が壊れそうで」
「深刻だな」
「だからこのままがベストです!多分」
笑ってみせる春人。
「おーい、遅いぞー!」
向こうからかれんが手を振る。
「ごめん、混んでて」
ゆうたが、小走りで戻る。
「はい」
春人がまいにジュースを渡す。
「ありがとー」
かれんとゆうたの後ろをまいと春人は歩いている。
「ゆうたさんと何話してたの?」
「あー趣味の話とかかな」
「そういえば、バンドはうまく行ってるの?」
「まだお客さんの入りは良くないけど、これからもっと頑張って大きい所でやりたいって思ってるから、そうなったら一回見に来てよ!」
「もちろんだよ!楽しみだなー」
遊園地も閉園時間になりいつも通りゆうたの車で送ってもらう。
「いつもありがとうございます」
まいと春人はお礼を言って降りる。
「今日はお疲れ、早く寝るんだよ」
春人はそそくさと帰ろうとする。
「今日はご飯食べてかないの?」
「いっつも悪いからさ」
「気にしなくて良いのにー」
「付き合ってるわけでもないしさ」
少し寂しげな顔をする春人。
「じゃあ」
そう言うと春人は帰って行った。
まいは何も言えなかった。
外もずいぶん寒くなった12月頃のある日。
「ただいまー」
「まい、ちょっといい?」
「何?」
「大事な話があるから、荷物置いたら来てちょうだい」
(何だろ?)
リビングの椅子に座り、紙を見せる母。
「何これ」
「お母さんこの前会社の健康診断行ったでしょ、そこで再検査の項目があったから病院行ってきたの」
「これってどうゆう意味?」
まいには意味が分からなかった。
「簡単に説明すると、お母さん病気なの」
「えっ?待って、急に?治るんでしょ?」
「手術で取った後、薬で治療していくと思うわ、幸い早期で発見出来たみたいだから、大丈夫よ」
「そう、ならよかった」
「心配かけるかもしれないけど、お母さんは大丈夫だからね、入院で家開けると思うけど、何か困ったことがあったら、お隣さんがいつでも言ってっておっしゃってくれてるから」
頭が真っ白になり何も考えられない。
「ちょっと散歩してくる」
「気をつけるのよ」
‥‥ガチャ
近所の公園。
(お母さん大丈夫って言ってたけど本当かな、お母さんまでいなくなっちゃったら私)
震える手でスマホを取り出し、電話をかける。
プルルルルル‥‥。
「こんな時間にどうしたの?」
電話をかけたのは春人だった。
「どうしよう」
「何かあったの?」
「私‥‥一人になっちゃうかも」
「今どこ?」
ただならぬ雰囲気に春人は焦る。
ップーップー。
「あれ?切れた?」
かけ直す春人。
おかけになった番号は現在電波の届かない場所におられるかーーー
「電池切れたのか」
春人は急いで上着を着て、駅に向かう。
寒い中、薄着で出てきた事も気付かないくらい気が動転しているまい。
春人がマンションに向かっている途中公園にいるまいを見つける。
左右バラバラのサンダルを履いてベンチに座っているまいを見て駆け寄る。
「まいちゃん?」
春人を見た瞬間、我慢してた涙が一気に溢れてくる。
「うぅっうぅっっ」
涙を溜めた目で春人を見るまい。
まいの横に座り抱きしめる。
「ぐすんっぐすんっ」
春人の肩で泣くまい。
「泣きたいだけ泣いたらいいよ、俺が側にいるから」
まいの背中をさする春人。
しばらく泣き続けると、
「もう大丈夫、ありがとう」
「うん」
春人はそっとまいから離れる。
「なんかごめんね電話しちゃって」
「それはいいけど、何があったの?」
「実はね、、、」
まいは母親の病気の事を話す。
「それはビックリしたね」
「うん、でも春人のお陰で落ち着いた」
「こんな薄着で出てくるなんて、寒いから家入りな」
「この顔で帰ったら心配させちゃうよ」
「そっか、じゃああと少しだけしたら帰ろう」
そう言い自分の上着をまいにかけてあげる春人。
「ありがとう」
「うん」
「入院中どうするの?一人で心細くない?」
「まだそこまで考えれないかな」
「まいちゃんが迷惑じゃなかったら俺おばさんが退院するまで一緒にいるよ」
「どうゆう意味?」
「よかったらだけど、俺がまいちゃんのうちに泊まるよ」
「えっ?それは流石に」
困った顔を見せるまい。
「絶対に変な事しないし、何より俺が側に居てあげたい」
「考えておくね、そろそろ帰ろう」
まいは立ち上がり言った。
「今日は早く寝なよ」
「ありがと」
「じゃあ」
春人はまいを見送った。
家に帰ると母がリビングで待っていた。
「遅いから心配してたのよ」
「今日は寝るから、明日詳しく聞くね」
「そうね、おやすみ」
まいは泣き疲れてすぐ眠った。
数日後、母の入院日が決まる。
春人に電話で報告するまい。
「来週から入院になった」
「そっか」
「それであの事なんだけど、来てくれる?」
意外な返事にビックリし言葉が出ない春人。
「もしもし?ダメかな?一応お母さんには了承貰ってるから」
「わかった、行くよ」
まいは考えていた。
(あの日すぐ駆けつけてくれて、側に居てくれて、こんなに思ってくれてるのに、私は見て見ぬふり、春人の気持ちをむげにしたらバチが当たるきっと)
入院当日。
「たった一週間だからすぐだよ!」
「手術頑張ってね!毎日来るから」
「あんたは勉強があるでしょ?無理させたくないの、分かってくれる?」
「うん」
「春人君居てくれるなら安心だわ」
「なんであんなむちゃな提案了承してくれたの?」
「春人君、あんたのこと本当好きなのね。なかなか出来ないわよ」
「だよね、私も答えなきゃって思ってる」
「そうゆう事だから一週間喧嘩せずに過ごすのよ!」
「分かってるよ!じゃあまた来るね!」
病院の外では春人が待ってる。
「着いてたの?」
「今来たとこ、おばさんは?」
「なんか春人の事やけに信頼してるっぽい」
「それは嬉しいな」
「帰ろっか」
「そうだね」
スーパーで買い物を済ませ帰る。
その日は一緒に料理して食べる。
「なんか、不思議な感じだね」
まいが言った。
「そうかな?見慣れたと思うけど」
本当は心臓が飛び出そうだが冷静を装う春人。
「先お風呂入っていいよ」
「わかった」
「春人はリビングでいいよね?」
春人はリビングに布団を引いて寝る。
「おやすみ」
リビングから春人が言った。
「おやすみー!」
翌朝、春人が目覚めると、まいが朝ごはんの用意をしている。
「夢みたい」
「なんか言った?」
「ううん、なんにも!」
頬が緩む春人。
「早く食べて出なきゃ!」
まいが急いでいる。
その日の学校でかれんにあった事を話す。
「何日も休んでたから心配してたんだよ、それにしても高校生で同棲とは」
「同棲じゃないよ、一週間だけだもん」
「で、春人君の事、それでも男として見れないわけ?」
「その事なんだけど、気付いちゃったの私、春人の気持ちに応えなきゃって」
「よく言った!てゆうか遅い!今更感!」
「今更感ないし!」
「今日言いなさい、絶対!」
「わかった!!」
「素直でよろしい!」
その日の夜。
「おやすみ」
春人が寝ようとしているところにまいが来る。
「ちょっと話ししていい?」
ソファーに座るまい。
「ん?なに?」
春人も横に座る。
「す、す、す、」
「なに?」
(今日言うっていったけど、やっぱ無理ー)
不思議そうにまいを見つめる春人。
(応えなきゃ、応えなきゃ春人に)
「あの夜、来てくれたじゃん」
「おばさんの話聞いた日?」
「うん、あの時、春人に電話したの無意識だったの、手が勝手に動いてた、自分でも気付いてなかったけど、会わなきゃって、会いたいって思った。」
「うん」
「あの後考えてたの、春人の事ばっかり」
「うん」
「で、気付いちゃったの。私、春人の事が、好きだって」
「うん、、、えっ?」
すごくビックリする春人。
「ごめんね、気持ちに気付いてたのに気付かないふりしてた」
「俺は‥‥実は、一目惚れだったんだ」
「えっ」
「俺は初めて会った時から好きだった。あの夜電話かかってきた事も、正直嬉しかったし、どんな事情であれ。側に居れるだけで良かった」
「そうだったんだ」
「でも、今は今までで一番嬉しい気がする」
「私達付き合うって事だよね?」
「当たり前じゃん!」
「なんか照れるね」
春人が手を広げて言う。
「来て!」
まいは勢いよく腕の中に行く。
春人が強く抱きしめる。
「幸せ、ありがとう、勇気出してくれて」
「春人の気持ちすごく伝わったから」
「もう、寝ないとだね、じゃあおやすみ」
まいは部屋へと戻る。
「おやすみ」
まだ離れたくなさそうに春人は言う。
翌日かれんに報告する。
「これでやっとカップルかー!」
「朝からぎこちなかったけどね!」
「まぁ、仕方ないか。おばさんが帰ってくるまでの数日間イチャイチャしときな!」
「春人はそんなことしませんから!」
母の退院日二人で迎えに行き一緒に帰る。
リビングに3人座る。
「お母さん、話があるの」
「なに?2人付き合ってんの?」
「え?」
「え?」
二人でハモる。
「なんで分かるの?」
「顔に書いてあるよ、うちら付き合ってますって」
「まいちゃんの事は大事にしますから」
「ありがとね、こんなバカな娘でも、私からしたら可愛い子だから」
「俺からみても可愛い子ですから」
「まぁ早速惚気聞かされちゃったわ!今日はおばさんがご飯作るから一緒に食べましょ」
「はい!」
春人は元気に返事をすると慣れた手つきで準備を手伝う。
ご飯もでき、3人で仲良く食卓を囲む。
(なんか、幸せだ)
まいは初めての感情に浸っていた。
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