第66話 各々の着地点

「なんか、アンタら肝試しの前と違くない?」


 肝試しを終え、合宿所に戻って来た真白。

 そんな彼女は一足先に戻って来ていた亜亥・りりあ・エミの三人ペアを見ながらそう言った。


「いや~やっぱエミたんは私の思った通り面白い子でしたわよ〜」


 似非お嬢様弁で亜亥は答える。


「話すと気が合ったしねー。同類どーるいって感じ! ねぇエミリン!」


 そしてりりあがエミの方を見る。


心底マジそれ! 亜亥もりりあもバッチ通じ合えたっつうか? 昔っからの友達ダチって感じ?」

『うぇ~い!』


 亜亥、りりあ、エミは三人でハイタッチをした。


『んでもってぇ~』

 

 次いで、彼女たちはポカンと口を開けている真白に目をやる。


『うぇ~い!』

「……うぇ~い」

 

 が、流されるように、真白もまた彼女たちの手を叩いた。

 

「亜亥とりりあの友達なら、私とも友達ってことでいいよね?」

「ンないきなり……」


 陽キャ特有のコミュ力を放つエミに、真白は嫌そうな顔を向ける。


 真白はカテゴライズすれば当然カースト上位の陽キャという部類に入る。

 だがその中でも彼女はテンション低め(ダウナー)という珍しいタイプ。


 持ち前の顔の良さとファッションセンス、そして基本周囲に媚びないその姿勢……それが真白を陽キャたらしめている。

 

 そんな彼女は群れるのをあまり好まない。そして慣れ親しんだ人以外と積極的に関わろうともしない。


 だから今回のように普段全く関わりがなく、典型的な陽キャであるエミからグイグイとこられるのは基本的に苦手なのだ。


 ーーだが、


「あれ? そのブレスレット【Selly】の奴じゃん。いいよね、私も好き」

「……え、待って【Selly】知ってんの? 全然有名じゃないブランドなんだけど」

「知ってる知ってる。安い割にすっごい良い装飾品アクセ揃ってるよね。誠くんとのデートの時よく着けてる。バイトしててもそんなにお金使えないからいつも助かってんだー」

「……」


 エミの意外な側面を垣間見た真白。

 彼女の中で、エミに対する懐疑心のようなモノが、瞬く間に溶けていく。

 

「あはは~、ましろんもうエミたんのこと好きになってるじゃん」


 そんな真白を見ながら、亜亥はケラケラと笑う。


「べ、別に……そんなこと無いし。で、でもまぁ……ウチのおススメブランド、色々教えてあげてもいい」

真剣マジ!? サンキュ、助かるわ~。【オシャ女帝】に教えてもらえるとか最高にアガる!」

「ちょっと待って何その二つ名みたいなの!?」

「アレ、知らんかったの? ましろ裏ではそう呼ばれてるよ」


 そこに追い打ちを掛けるようにりりあは告げた。


「……くっそ恥ずいんだけど」

 

 思わず顔を覆った真白は、ポツリとそう呟く。


「まぁまぁ。そんじゃあとりま、迅たんとどこまで進んだか聞かせてもらお〜か〜」

「そうそう、本題はそれよそれ」


 そんな彼女の情緒を気にすることなく、亜亥とりりあは彼女を問い詰めるように顔を近づける。


「何々? 真白って唯ヶ原のこと好きなん?」

「そうなんよエミりん。しかも初恋なんよこれが」

「うぇー真実マジで? 真白って彼氏と付き合って別れてを何回も繰り返してそうだったから意外」

「意外でしょ~。身持ち硬いの、ウチのましろんは」

「三人ともうっさい!!」


 好き勝手言われることにシビレを切らした真白は腕を大きく上げ、無理やり会話を中断させた。


「あはは、ごめんごめん。でもさー、それなら私ちょっとは力になれんじゃね?」

「……どういうこと?」

「私彼氏持ちだから相談とかだったら全然乗れるし、助言アドバイスもしようと思えばできる」

「そ、それは助かる!」


 真白は目を輝かせ、エミを見る。

 ある意味で彼女は真っ直ぐだ。


「あ~この中じゃ唯一の彼氏持ちだもんねエミたんは」

「たしかに、あーしらロクな恋愛してこなかったからそっち方面でマトモなこと言えないかんなー」


 エミに同調する亜亥とりりあ。

 そんな彼女らを目にしながら、真白はボソリと言った。


「……たしかに」

「んぁ!? ましろん今『たしかに』って言った!」

「酷い!! あーしら友達誹謗中傷ディスるなんて!」

「二人が自分で言ったんでしょ!?」

「自分で言うのと友達に言われるのは違う〜」

「分かってほしいなーこの乙女心」

「アンタらぁ……!」


 ウザ絡みする亜亥とりりあ。

 そんな彼女らに対し、容赦なく苛立ちを見せる真白。


 そんな彼女たちを見て、エミは思わず微笑んだ。

 

 誰も気を遣わず、周囲の目を気にせず、どこまでも対等であろうとする。


 自身を守るため、周囲に罵声を飛ばしていたエミにとって、彼女らの関係はとても魅力的だった。

 

「ほ〜らほら、そんな怖い顔しないで。ましろんは笑顔が一番だよ〜」

「ちょっ!? なにくすぐって、止め……はははは!!」

「いいね〜このすべすべ肌、くすぐり甲斐がいがあるよ〜」


 真白の柔肌に触れながら、亜亥はニヤリと笑う。


「マジで死ぬから! ってリリ!! アンタもなにしてんの! 放せぇ!」

「そうはいかないよましろー。Youのもだえる顔が最高にテン上げだからさー」

「くっ! 沢渡ウチを守って!」


 エミに助けを求める真白。対するエミは、

 

「……おりゃあ!!」

「ひゃははははははは!! なんでぇぇ!!??」


 真白の脇腹の上で、精いっぱい指をなぞった。

 仲良し陽キャギャル三人組に一人、新メンバがーが加わった瞬間である。



 迅と真白が合宿所へ到着した数分後、隼太と誠二もまたゴールである合宿所へと戻って来た。

 と、言っても彼らは肝試しを終えたわけではない。


 戦闘不能になった間宮痣呑が【道化衆】の少女によって回収されたあと、隼太と誠二は既に肝試しを回る気力は無く、地図通りに従っても辿り着ける気がしなかったため、もと来た道を戻り、しれっとゴールしたていを装ったのである。


「隼太、一体どうしたんだ? それに、咢宮くんまで……」

「い、いやぁそれはぁ……」

「……」


 そんな彼らは今、妙に服が汚れているのを迅に指摘され、首を傾げられていた。


「じ、実は拙者たち……山道を転げ落ちてしまいまして……」

「マ、マジかよ!? 大丈夫なのか?」

「大丈夫でござるよ。こうしてゴールもできましたし」

「隼太の言う通りだ。問題ねぇ」


 隼太と誠二は、口を揃えて言った。


「そ、それならいいけど……」


 見た所、確かに怪我らしい怪我は見当たらない。これなら二人の言う通り、大丈夫か。


 内心で、迅はそう自己完結する。

 そして彼を誤魔化せたことに、隼太と誠二の二人は内心で安堵した。


 隼太と誠二は今回の件を言った所で誰も信じない、そして他者を危険に晒す可能性があるという理由から、二人だけの秘密にすることにした。

 奇しくも、迅たちと同じ方針を取ったというわけだ。


「そ、そんじゃあと、とりあえず温泉入りに行こうぜ。戻って来た奴からどんどん入ってっていんだろ!? な!?」

「そ、そうでござるな! いざ山の秘湯へ!!」

「いやぁ!! 疲れた体に温泉、最高に染みるんだろうなぁ!!」

「ですなぁ!! 楽しみでござるぅ!!」


 これ以上詮索されるのを避けるため、畳み掛けるように隼太と誠二は言葉を重ねながら、足早に合宿施設の方へと向かう。


 そんな彼らの背を見ながら、迅は不審な目を向ける。

 だが、それは彼らの態度に……ではない。


 ――なんか、あの二人仲良くなったか?



 各々の思考が絡み合い、すれ違う。

 彼らがどうなっていくのか、それはまだ神のみぞ知るところである。

 

 うぉぉぉぉぉぉぉ!! 早く証拠を隠滅し、替のパンツをぉ!!


 ちなみにだが、優斗は気付かれないように宿泊部屋へと駆け込み着替えたそうな……。

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