周囲から陰キャとバカにされる俺、実は全国制覇を成し遂げた不良グループの元総長~引退しても何かと不良たちに絡まれるが推しのVtuberの配信があるから邪魔をするなら容赦しねぇ。そこんとこ夜露死苦ゥ!!~

三氏ゴロウ

第一章 最強は隠居したい

第1話 その陰キャ、最強につき

『はーい! それじゃあ今日はそろそろおしまい! 見てくれたリスナーの皆ありがとう! 今日初めて観たって人はチャンネル登録よろしくね! それじゃあ乙くる~!』


 モニター越しの美少女がそう言うと、配信が終了した。

 美少女の名はVtuberの【小鳥遊たかなしくくる】。僕……唯ヶ原迅ゆいがはらじんの推しであり生きる意味である。


「ふぅ……アーカイブ視聴完了」


 僕が観ていたのはくくるちゃんの昨日の配信のアーカイブ。

 当然リアタイでも視聴をしたが、『くくっ子(くくるのリスナーの名称)』としてリアタイとアーカイブ両方見るのは当然のことだ。


「おいまたニヤついてるよ唯ヶ原の奴w」

「キモイわぁ~。あんなのと同じクラスとかついてねぇ」

「ちょ、聞こえるって声デカすぎだしw」


 すると、そんな声が僕の耳に入る。

 声の主はこのクラスでカースト上位の集団? だ。

『カースト上位の陽キャ集団に目つけられるなんて、俺だったら不登校になってるわ』とクラスの誰かが話してたのを聞いた覚えがある。


 何で疑問形かと言えば、僕が陽キャだのカースト上位だのの定義が良く分からないからだ。

 一体何を基準に陽キャだの上位だの決めているのだろうか。

 分からないから腕っぷしの強さとかで決めてほしい。


 何気なくそんなことを考えていると、


「ちょ、何かこっち見てるしぃ。キモーい」

「あぁ? おい唯ヶ原! てめぇ人の女ジロジロ見てんじゃねぇよ!」


 何故か僕をバカにしていた男の一人が、そう難癖をつけてきた。


「え、見てないけど」


 というわけで、即座に否定する。

 面倒になりそうな誤解は解く。それが平穏な生活を守るための第一歩だ。


「嘘! 今コイツアタシのスカートの中見ようとしてた!」

「ほら! エミもこう言ってんじゃねぇかよ!!」


 言い掛かりもいいところだ。証拠も何も無く、ただ自意識過剰なこのエミとかいう女が勝手に興奮しているだけなのに……。


 とは言ってもこちらもスカートの中を見ていないという証明はできない。

 とりあえず、こちらに敵意や下心は無いということをアピールしよう。


 まずはこの男の方に向けて……。


「えーと……」


 ――……。


「君、名前なんていうの?」


 すまん。名前分からんかった。


「はぁ!? てめぇこの俺の名前を知らねぇだぁ!? この【終蘇悪怒オズワルド】のメンバーの一員である俺をぉ!?」


 オズワルド? 何だそりゃ?


 謎の単語に疑問を抱く僕だが、何故か嫌な予感が頭の中をよぎる。

 が、その最中に目の前の男は拳を握り締め大きく振りかぶった。


「なら覚えとけぇ!! 俺の名前は咢宮誠二がくみやせいじだぁ!!」


 誠ニか。

 見た目とは裏腹に随分と真面目な名前だな。


 欠伸が出るほどの遅さでこちらに向かう拳を見ながら、僕はそんなことを考える。


 んー、どうするか。


 ここでコイツを倒すと折角手に入れた僕の平穏が崩れてしまう。


 ……よし。


 というわけで、僕は大人の対応を取ることにした。


「ぐあー!!(棒)」


 咢宮の拳を顔面で受け、わざと後ろへ吹き飛んだ。

 

「う、うぅ……!!(棒) 痛いぃ……痛いよぉ……!!(棒)」


 普通の奴の振りはここ数ヶ月で大分上手くなった。

 これで少しでも満足してくれればいいが……。

 

 俺はそう思いながら、チラリと咢宮を見る。


「きゃー! 誠君すてきぃ! ……ってあれ? どうしたの誠君?」

「……っ!? う、うん!? い、いや何でもねぇよエミ!! はは、ははははは!!」


 すると咢宮は、拳を抑えながらわざとらしい笑い声を上げていた。


「ふ、ふん!! おい唯ヶ原!! きょ、今日の所はこれで勘弁してやる!! 優しい俺の心意気に感謝するんだな……!!」

「は、はい……」

「えぇ!? ちょ、誠君!! 私まだ……!!」

「いいんだよ!! 俺が殴ってやったんだ! 十分だろ!!」

「そ、それは……まぁ」


 な、何だが良く分からんが収まってくれたのか……?


 何とか留飲を下げてくれた二人に、僕はホッと息を漏らす。



 ってぇ……!? 何だ、俺が殴ったのに、何でこんなに痛ぇんだよぉ……!!


 あまりにも激しい鈍痛に、誠二は自分の拳を見る。


「っ!?」


 すると、そこには信じられない光景が広がっていた。


「な、何で……!! 俺の拳が、こんなに腫れ上がってんだよ!!」


 人を殴ると、自分の拳が痛むというのは、良くある話だ。

 しかし、それは慣れていない人の話である。

 

 褒められた話では無いが、不良である誠二は人を殴り慣れている。

 どうすれば自分の拳が痛まないのか、その殴り方と力加減を十分に心得ている。

 そして、それでも誠二の拳は腫れた。それは純然たる事実だ。


 だが、無理も無いことである。

 ただの一般人が、厚い鉄の壁を殴ればどうなるか? 想像するまでもないだろう。


 誠二がしたのは、そういうことだ。 


 落ち着け俺……! さっきのはたまたま運が悪かっただけだ!! そうに決まってる!! 俺は【終蘇悪怒オズワルド】に入ったんだぞ!! 俺は強い!! 自信を持て!!

 【終蘇悪怒】を踏み台にして、不良界のてっぺんに立つ!! 次の【悪童神ワルガミ】は俺だ!!


悪童神ワルガミ】。

 その正体を知る者はごく少数。

 周知の事実として知られているのは全国制覇を成し遂げた不良チーム【羅天煌らてんこう】の総長であること、最強であること、男であることだけだ。

 何故ここまで情報が無いのか。理由としては【悪童神】が滅多に表に出てこなかったことに加え、チームの抗争などでは、彼が出るまでもなくその部下たちだけでほとんどの決着ケリがついてしまったからである。


 そんな【悪童神】だが、彼は数か月前に突然姿を消した。同時に【羅天煌】も解散し、彼の部下たちは散り散りとなった。

 あまりにも突然すぎる出来事に、不良界は騒然。次に全国制覇をするのは自分たちのチームだと、不良たちは息まいていた。


 そして、伝説となった【悪童神】が今どこで何をしているのか……それを知る者は誰もいない。

 


 不良を卒業し、イメチェンを果たした僕。

 湘南から東京にはるばる上京し、この『大散事学園だいさんじがくえん』に入学して、早二週間が経過した。

 何故か僕は周囲からバカにされていた。理由は良く分からない。

 強いて言えばクラスの自己紹介でくくるちゃんの魅力をこれでもかというほど紹介しただけだが、当然それが原因なわけがない。

 彼女のことが嫌いな奴など存在する訳がないのだから。


 まぁ、『平穏な日常』が送れるならどうでもいい。

 

 僕はこれまで平穏とはかけ離れた日常を送って来た。それに比べれば周囲からバカにされる程度、どうということはない。むしろこの程度で済むのなら安いモノだ。


 そう思いながら、僕は今日も推しへの思いを馳せる。



◇◇◇

読んでいただきありがとうございます!

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※現在『ギャルにパシリとして気に入られた俺は解放されるために奮闘する。』というラブコメも連載中です!

かなりとても面白い感じになってると思いますのでよろしければこちらも読んでいただけると嬉しいです!

作品URL:https://kakuyomu.jp/works/16817330649946533267

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