覚えていること、感じたこと

枕返し

第1話 彼との思い出

「ねえ、覚えてる?」

私は指さし言った。

「いや、あんまりだな。」

彼はそう答えた。


彼は幼馴染の男の子で、私は毎朝一緒に登校している。

学校まではそんなに遠くないのだけど、通学路を通ると凄く遠回りになる。

原因は近所にあるとても大きな公園を迂回するように指示されているから。

通学路通りに行くと十五分以上時間がかかる上に狭い歩道しかないので、本当は良くないのだけどいつも公園の中を通っている。

この公園は子供の頃から二人で遊んだ場所。

たくさんの思い出がある。


「えー?覚えてないの?ほら、木登りとかしたじゃん、それで二人して下りられなくなってさ。」

泣いている私を恐がらせないように、自分は不安定な枝で我慢して、私に座れるくらいしっかりした幹の窪みを譲ってくれて。「なんとかするから」って言って安心させてくれた。

「そうだったか?まあそんなこともあったかもな。」

覚えてないんだ・・・。

凄く大きな木。木登りしたり、木陰で昼寝したり、かくれんぼとか色んなゲームする時も何回も使ってたのに。

そんな思い出の木は、もうない。

何年か前に病気になっているとかで切り倒された。

家からも見えてた木がなくなって、凄く寂しかった。

そっか。覚えてないんだ。

「私にとっては、この公園といえばあの木、みたいなところあったから、ないの少し寂しいな。席が空いちゃったみたいな感じで。」

「あー、多少はあるかもな。でもほら、最近新しく生垣ができたから遊歩道はちょっと洒落た感じになったよな。」

彼が指さす生垣は公園の再整備で新しく植えられた生垣。

私の思い出のなかにはいない新参者。

彼は忘れちゃったのかな。あの生垣のあった場所でおままごとをしてたこと。私、凄く楽しかったんだけどな。


私は子供の頃みたいに彼とずっと一緒にいたいのに。

「変わっていくんだね。」

大人になるってそういうことなのかな。

「そうだな。変わっていかないとな。」

私達、今までみたいな関係じゃ、駄目ってことなのかな・・・。

嫌だな・・・。

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