第90話 鬼畜エーリヒの最期

「まったく、クソビッチ共めがぁ!! それにあの男ぉ! 美味しい思いをしやがってぇ!」


エーリヒは怒り狂って、自宅の屋敷に戻ってきた。それにしても、この男は一体なんの権利があって、 リーゼやエミリアを愚弄するのか? そもそも二人が性奴隷となったのは、エーリヒのせいで…アルに至っては正当な二人の所有者。その上、二人に何もしていないのだ。自身の思い通りにならなかったからと言って、悪態をつくのも大概にするべきだ。


「エーリヒ? エーリヒか? ようやく戻ってきたか? 話がある」


「父上! 私も話があります! 危急を要します」


「それは、おそらく同じ案件だろう?」


「ええ! なんとあのリーゼ! それにこともあろうにクローディアまでもが生きていたのです!」


「ああ、知っている…だから、エーリヒ…遺書を書け」


「―――――ッ!!!!」


エーリヒの顔色が変わる。彼には父親の言う意味がわからない。


「エーリヒ? お前、奴隷のサシャを殺しそうになったな? もう、お前を庇う事はできん。サシャの事はごまかす事が出来たとしても、クローディアの件はミュラー家が関わっているので庇いきれん、お前が一人、責任を背負うのだ」


「そ、そんな馬鹿な! 私はケーニスマルク家の次期当主ですよ! 父上?」


「残念だが、そのケーニスマルク家を守る為だ、許せエーリヒ! エーリヒをアレへ送れ!」


どたばたと黒い覆面を付けた騎士風の男達が突然エーリヒを取り囲みこん棒で殴りかかる、そして、目隠しをして、手足を縛りあげて、連れ去る。そう、エーリヒもまた、アレの処に送られるのだ。


☆☆☆


「う、頭が痛い? 殴られて気を失っていたのか?」


「目が覚めましたか? お兄様?」


「な? お前はリリー!? なんでお前が? いや、お前、生きていたのか?」


それは3年前より行方知れずになっていたエーリヒの末の妹リリーだった。


「お懐かしゅうございます。お兄様、私の憎い人…」


「なんだ、あの時の事を恨んでいるのか? 私はリリーの事が大好きなんだ。だから、許してくれよ? 男が大好きな女の子を抱きたいと思うのは普通の事だろう?」


兄は妹にそんな感情は持たない。この男の倫理感は完全に壊れていた。この男の前では女性は誰でも自身の快楽を満たす道具に過ぎないのだ。例え、肉親でも…


リリーは悲しそうにエーリヒを見つめて、こう言った。


「13才の誕生日の夜、お兄様に添い寝をして頂けると聞いて、リリーはとても嬉しくて…でも、お兄様は突然リリーに襲い掛かって…凌辱して…リリーはあの日から、何かが壊れました」


「何を言っているんだ? お前も大きくなったよな? 私が気持ちよくさせてやるから?」


この男は未だ罪の意識のかけらもない…僅か13歳の妹を凌辱した末に誕生したのが、殺人鬼リリー…ケーニスマルク家には他者を凌辱する最悪の遺伝子が脈々と流れていた。


「お兄様? 近すぎません? それとも、またリリーを襲う気ですか?」


「そうに決まっているだろう? 薄暗い部屋の中に男女がいれば仕方ないだろう?」


リアル妹がいれば、さぞかし、ビビる発言だろう。


「お兄様!! 人を殺した分だけ拷問です。ほじくり出す目玉があれば、直ぐにくり抜きなさい!」


「な、何を一体? そんな? 目玉をくり抜く? 自分で? 馬鹿な? な! 馬鹿なぁ!」


エーリヒの両の手は自身の意思とは関係なく、自身の目玉に向かって手が伸びる。


「ぎゃあああああああああああああああ!!!」


エーリヒの悲鳴が上がる、自分自身で両の目玉をくり抜いてしまっていた。すると、叫び声を聞いて、例の黒い覆面の男達がやってきた。


「リリー様? 本当におやめになりませんか? 陛下の最期のお慈悲です。この男を殺さないで我慢できれば、命だけは助かります、お考え直しくださいませ」


リリーは本当は前回のグナイゼナウ子爵殺害を持って、処刑される筈だった。しかし、ちょうどそこへ、ケーニスマルク家より、長男エーリヒを送りたいという申し出があり、延期された。リリーは生きる可能性を国王より与えられた。だが、彼女の答えは…


「ありがとう、でも、ごめんなさい。私、やっぱり、我慢なんてできないわ! だって、殺していいんでしょ? この人? リリーの憎い人なの? リリーをこんなにした人なのよ」


両目を自身でえぐり出してしまったエーリヒはリリーがアレだという事にようやく気がついた。信じられない会話に戸惑うが、自分が助かれば、リリーも助かる! そこの一縷の望みをかけた。


「リ、リリー止めろ! 止めたら、命が繋がるんだぞ! 私を助けろ! 頼むから!」


彼はサシャの懇願なぞ聞いた事はないだろう。それにも関わらず懇願する。だが、


「お兄様、内臓を引きずり出しやすいようにご自身で腹を切り裂きなさい」


がちゃりと音が聞こえて、一本の剣が覆面の男から差し出される。


「こ、これで、お前をこ、殺せばぁ!」


剣を取るエーリヒ、だが、彼の剣が向かった先は…


「ぐぁあああああああああ!!!」


彼は意思に反して、自身の腹を引き裂いていた。


「最上位の隷属の魔法がかかっているよぉ、お兄様には…リリーの言う事、何でも聞いてね」


「や、止めてぇ、止めて、止めてぇ!!!!」


「さあ、自分で内臓を全部出してしまってください、心臓も脳みそも、ね」


「あああああああああ!!」


エーリヒの絶唱が部屋中にこだまする。鬼畜、エーリヒの最期だった。そして、


「これで、満足されましたか?」


黒い装束、黒い目指し帽のようなフードを被った首切り役人が前に進みでる。


「はい、お願いします。私は十分生きた事を堪能しました」


そして、跪き、自ら髪をかき上げて、首を落とす首切り役人に配慮する。


そして、リリーも最期の時を迎えた。首切り役人の斧が躊躇する事無く振り下ろされて、彼女の首がコロンと転がった。

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