第36話 トゥールネの帰らずのダンジョン4

魔族の本性であるたくさんの目達が赤く禍々しく光る。魔眼、僕を魅了する気だ。もし、魅了された者は例え愛するものでも殺してしまう事がある。ブルり、僕はヒルデや妹の首を自分で撥ねるシーンを思い描いて身震いする。そんなのは絶対に嫌だ!


「さあ、人間よ。お前の親しい者、愛する者を殺せ。安心するがいい、お前が一番好きな女は未だ使い道があるから、今は殺さなくてもいい。もちろん使い終わったら、お前にも楽しませてやる。それと、もちろん最後はお前に殺させてやるから安心しろ」


何なのこの魔族、人間みたいな倫理感持っているのかと思ったら、鬼畜じゃん。こんなヤツに負ける訳にはいかない。


僕は瞬歩の技術で一瞬姿を消すと、魔族の目を100個は剣で一閃した。


「残念だね。僕に魔眼は効かないよ。魔眼の術式が展開される度にキャンセルさせてもらった。僕にゆっくり術式が展開する魔法の類は何も効かないよ!」


「アルベルト様、素敵です。あの時、力強く首を撥ねられた光景が目に浮かびます!」


いや、普通恨まんか? 魔族って、感性が違うのかな? 単純に自分より強い者に惹かれるの? いや、そもそもナーガの首撥ねたの僕じゃないし! ナーガの下半身は蛇だけど、顔は可愛い女の子なのだ。その首を撥ねるのは魔物でも結構精神的にしんどい、ましてやこんなに懐かれると余計しんどい。


「ならば!」


魔族はたくさんの目を僕に向かって襲い掛からせた。ギリギリギリ! 異音を奏でて襲い掛かってくる眼はかなりの数だったのけど、僕の剣の腕前によってたちまち数百がブツブツっと切り裂かれる。しかし、それは戦術を間違えていたようだ。


「くっ!?」


「アルベルト様?」


切り裂いた眼から毒々しい色の液体が飛び散り、その一部が僕の身体にかかった。すると、ジュワっという音と共に煙が上がり、僕の服が焼けただれてしまう。


「毒液か? 魔物にそういう類のものもいるけど、魔族の目玉おやじもまさにそうだったとはね!」


「アルベルト様! 気を付けて!」


「ああ、わかっているよ。ナーガ」


僕が斬りつけた目玉は数百にも及ぶのに、目玉たちは分裂、再生を繰り返し、再び先ほどとほぼ変わらない数になる。少し位の斬撃では、大したダメージを与えられないようだ。敵の数が圧倒的であり、しかも下手に反撃すればこちらの方が甚大なダメージを負うことになる。僕はダメージを与える術がなく、回避に徹する。だが、いつまでもこんなことを続けていれば、僕の体力が底をついた時が僕の敗北の時となる。


「それなら!!!!」


僕の叫びと共にゴウッと唸りを上げて、剣に禍々しい魔力が渦巻く。それは、魔族をもってしても目を見開き、恐怖するしかないものだった。僕がありたけの魔力を集めると、僕の得意な光魔法を濃密に注ぎ込んだ、最後の斬撃。


神聖灰燼-激!!しんせいかいじんげき


魔族は、その攻撃が自身にとって危険であることは理解していただろう。だが、理解していてもそれを避ける術はなかった。僕の魔法剣は彼に逃げる場所等与えなかったのだ。周囲数十メートルがその影響範囲なのだ。そして、彼は少しでも防御する為だろう。目玉が集まり、再び魔族の姿へと変わる。そして、魔力を駆使して、魔法壁を作り、防御態勢を必死に整える。そんな彼を僕の魔法剣、神聖灰燼-激の魔力の奔流が飲み込む。


「人にしておくのは惜しいですね……ですが、この程度で私を倒すことができると考えていたのであれば、あまりに甘いですね」


魔族の声の直後、輝く聖なる光魔法の魔力が消えてった後には、一切ダメージを受けていない魔族の姿があった。いや、少し位はダメージ受けていると信じたい、しかし、魔族はなお、そこに無傷であり続けていた。


「なんだと……」


そして、再び魔族が多数の目玉に姿を変えると、目玉が剣の形に姿を変え、目玉の剣は僕の身体を貫いていた。

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