第33話 トゥールネの帰らずのダンジョン2
「……さて、みな気を引き締めて。これから2階層を攻略する……ここから先は帰って来た人はいないからね」
「うん。SSS級の冒険者も帰還できなかったわ。何か特別なものがこのダンジョンにはある」
ヒルデが珍しく真面目な意見を言う。現在僕達が知っている事は、この2階層から先へ進んで帰還したパーティは存在しない。勇者パーティと同等の力を持つSSS級の冒険者ですらだ。
「ダンジョンは基本、迷路だけど、迂回路や行き止まりがあっても、一方通行で帰還できないダンジョンは歴史上記録がない。考えられるのは、信じがたい強力な魔物がいるか、あるいは未知のトラップがあるかだ」
僕の言葉にみな頷くと、真剣な顔で剣や装備を握り直し、更に先に進んでいく。
「先輩! サラマンダーです!?」
「
僕が前方に光の生活魔法で明かりをともす、そこには龍の亜種、サラマンダーが潜んでいた。
サラマンダーは潜んでいるのがバレた事を悟ると、いきなりブレスを吐いてきた。
「
もちろんサラマンダーの炎のブレスは僕の魔法の壁に当たって跳ね返る。
「サラマンダーは炎のブレス以外、大して怖くない。ただのでっかいとかげだ。見ての通り、僕の防御魔法で、ブレスは無力化できるから、何も問題はないよ、みんな!」
「はい、アル!」
「はい、先輩!」
「うん、お兄ちゃん」
「ちゃんと理解しているわ。その物欲しそうな顔……お仕置きを要求しているのよね?」
「いや、だから違うから!」
どうもリーゼだけ違う方向に絶えず話が向くから困る。
ヒルデが先陣を切り、サラマンダーに斬りかかる、サラマンダーの顎は器用に剣でいなす。もちろん隙をついて、聖剣による攻撃を怠らない。そして、ロッテのデバフが入り、ナディヤのバフが入る。そしてリーゼの剣による陽動に魔物は大きな隙を作る。
僕はその隙を逃さなかった。
「闇黒灰燼‐宵闇!」
ドスンとサラマンダーの首が落ちる。僅か3分で僕達の勝ちだ。
「きゃぴーん☆先輩ーい!」
「……ええっ?」
魔物を倒したばかりの僕に、後輩のナディヤが僕を襲う。ナディヤは村の中学校の後輩だった。その頃から散々僕にまとわりついて、僕を揶揄うんだ。凄く、ウザい。
ナディヤは僕の背中に飛びついていた。
「へへへっへへ☆せぇんぱ~い♪」
「ばっ、馬鹿、いきなり背中に抱きつくな! ここダンジョンの中!?」
ホント、ナディヤのウザさはこんな処でも、健在だ。
「せぇ~んぱ~い☆私、今ブラしていないですよ」
「な、一体何を? 何を言ってんの?」
いつも以上にこの後輩はウザいが、なんかいつもより攻めが激しい。少しご褒美でもあるが、背中に胸を押しつけてきて、無駄にでかい胸が鬱陶しい。ナディヤの胸はかなり大きい。前に擬視したら、あふれんばかりのたわわなでっかいふたつの果実がこれでもかと存在をアピールしていた。これでやたらとウザくて、僕の事、馬鹿にしてなければむしろ好感が持てるのだけど、こいつはひたすらウザく、僕を馬鹿にする。だからメンドクサイ。
「ふふふ、先輩可愛い。先輩を凌辱しているみたいで興奮しちゃいます」
「凌辱ってそんな言葉、どこで覚えてきたんだ?」
「先輩のコレクションの中ですよ」
「―――――――~~~~ッ!!!!」
「宿舎の先輩のベッドの一番下に何故かあんな物が☆」
僕はいつもバレないようにベッドの下におかずを隠していた。あれが見つかったのか?
「息が荒いわね。女の子に辱められて凄く興奮しているようね?」
「五月蠅いよ! 女の子がそんな破廉恥なことしちゃ駄目だよ!」
「でも、『女子高生制服のわななき』……私達をそんな目で見てただなんて……」
「お願いだから、エロ本のタイトルを言わないで? 僕も慣れたからといっても何でもスルーできる程A☆フィールド強くないんだ」
リーゼがナディヤに輪をかけて僕を責める。
「そう言いながら、私達を目で犯しているのね、熱い視線がねっとり絡みついて気持ち悪いわ」
「目でなんて犯していないよ!」
「じゃあ、妄想で何度も犯しているのね、気持ち悪い」
「だから、ホント、目でも妄想でも犯していないから!」
「嘘をつきなさい、本当に気持ち悪い豚ね。死んじゃえばいいのに……」
それは本当なんだ。流石にパーティの女の子にそんな気持ちを抱いてはいけないと自重しているんだ。
しかし、僕は気がついてしまった。僕の戦闘服は軽装だ。所々は皮で補強されているものの、ほとんど普通の布の服だ。特に背中は。そして、背中に感じる今日のナディヤの柔らかい双丘の感触はいつもより柔らかい様な、まさかマジでノーブラ?
僕は無関心を装いながらも、内心ドキドキしていた。すると、あっさり、ナディヤが僕の背中から降りた。僕は思わずナディヤに振り返ってしまった。ナディヤがノーブラかもしれない事を忘れて。
「―――――!!!!」
ナディヤはマジでノーブラだった。前のシャツがはだけて、二つの胸のふくらみのぎりぎり先っちょだけは隠れていたけど、半分はみ乳になっていた。
僕はナディヤに抗議しようとした。いくらなんでも女の子が揶揄いの為にそんな事しちゃ駄目だよね。しかし、僕の抗議より先にナディヤが物憂げな表情で僕に訴えた。
「先輩、ナディヤはそんなに女の子として魅力ないですか?」
目を下に向け、その瞳には涙を湛えている。えっ? どういう事?
「わ、私、先輩の事が好きです。必死にアピールしてきたのに、先輩全然応えてくれなくて…」
ええっ? あれってアピールだったの? あんなにも僕の事馬鹿にしたのに。でも、僕は不本意ながら四人も愛人がいる事になっているけど、初めて女の子に告白された。
ヒルデには告白もしないで、恋人になる処か2号さんで結婚をする事に無理やりされているし、ロッテも勝手に四号さんになるとか言っている。妹なのに。みな順序も論理もおかしいよ。
「先輩、ナディヤの事、嫌いなんですか?」
「い、いや、そんな事はないよ。むしろ好きだよ」
ナディヤの顔に満面の笑みが広がる。でもそんな時、ヒルデの能天気な声が聞こえてきた。
「あら、こんな処に宝箱がある、開けてみよーっと」
いや、それ、絶対ダメなヤツ。大抵宝箱には罠が仕掛けてあるから!
ヒルデが宝箱を開けてしまうと、突然視界が歪んだ。
「転移のトラップだ!?」
僕達はどこかに転移させられた。
そして、視界の歪みが収まると、黒い騎士風の鎧兜に、漆黒の髪。セリアのダンジョンの魔族に似た特徴的な禍々しい姿。
2階層から突然、転移させられて、そこには、魔族がいた。
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