第17話 底辺奴隷とこれからの事

奴隷のリーゼを購入してしまってから3日間が過ぎた。僕とヒルデはギルドの仕事をこなす一方、リーゼの世話をした。主に僕が買い物に行き、ヒルデが身の回りの世話をした。さぞかし辛い思いをしたのだろう。彼女はほんの3週間前まで貴族だったそうだ。だが、別荘に向かう途中、賊に襲われて、奴隷として売り飛ばされた。非合法な奴隷だったのだ。


リーゼの為のものを買いに行くのはとても恥ずかしかった。最初は女性用の下着や洋服を男が買いに行くと、みなに白い目で見られた。でも、段々僕らが衰弱した女の子を介抱している事がわかってきた様で、協力してくれる様になった。


「リーゼ、冒険者ギルドに頼んで、君の家に君の事を知らせようとしたんだけど……どうやら、君の家はお取り潰しになったらしい」


「この下僕は何を言っているのかしら? そう…そんなにご褒美の鞭が欲しいのね、全くドMはこれだから…」


「「…」」


いや、僕はドMじゃないからね。リーゼの前だと大抵の人がドMにされてしまうよ。


「リーゼ、良く聞いて。僕らの調べだと、君の実家グリュックスブルク家は2週間前に取り潰しになった。罪状は麻薬の売買に加担していたそうだ」


リーゼの目が大きく見開かれる。


「そ、そんな訳が、お父様がそんな事をする筈が…」


彼女の反応は当然だろう。これからリーゼに話す事は憶測でしたかない。しかし、限りなく真実に近い憶測…僕達はギルドのお姉さんのコネで、情報ギルドに依頼してリーゼの事を調査した。情報ギルドはスパイみたいなものだ。情報収集と…暗殺。


「君のお父さんがそんな人じゃないという点は、僕もそうだと思うよ。ギルドの情報では、君のお父さんはとても立派な人だった。領地経営の結果は抜群で、領民への税負担は軽い。裁判などの判定には公平を規していた。領民から慕われていた」


「そ、そうよ! お父様は、立派な人よ。悪事なんて…」


僕はヒルデの方を見ると、ヒルデが頷いて、僕を言葉で促した。


「アル、本当の事を教えてあげて、辛い事だと思うけど、知った方がいいと思います」


ヒルデが唇を噛み締める。


「本当の事って? 何?」


「君のお父さんは嵌められたんだよ。憶測だけど、ケーニスマルク家。君のお父さんに嫉妬したり、都合が悪かったりする貴族が君の家を陥れたんだ。貴族同士の抗争だよ」


「お、お父様は? お父様はどうなったの?」


僕は辛い気持ちを抑えて伝えた。


「麻薬の売買への刑罰は死罪だよ。君のお父さんも、君のお母さんも…弟さんも…」


「そ、そんな…嘘よ!? そんな筈が無い!! でたらめよ!?」


リーゼは泣き伏して、涙声で泣き続けた。でも、泣き止まぬうちにこう言った。


「失礼しました。ご主人様…多分本当の事…お父様からその心配を聞いた事があります」


賢い子なのだろう。直ぐに判断したのだろう。そもそも貴族の彼女を奴隷として売り飛ばすのだ等というリスクが高い事をするのはおかしいのだ。おそらく、リーゼのお父さんを陥れるのにリーゼの命が使われたのだろう。彼女は結論に達したのか、静かになった。


「私の境遇を調べて頂いてありがとうございました。今日から、私は性奴隷としてご奉仕させて頂きます。なんなりとお申し付けください。どんなご要望にもお応えします」


リーゼが何もかもを悟ったかの様な顔で話すが、ヒルデは溜息をついた。


「リーゼ、そんなやけっぱちになるのは止めて! アルはあなたを性奴隷として買った訳じゃないのよ!」


「いっそ性奴隷となって壊れてしまった方がいいわ! 中途半端な優しさを見せないで!」


「あなた、頭がいいのでしょう? お父さんから受け継いだ頭脳があるのでしょう? あなたアルザス王立学園の首席だったのよね? こんな目に遇って、復讐もしないの? 私ならするわ」


「復讐?」


リーゼの目に生気が戻った様な気がする。僕達にできる事はしよう。だけど、その方法を考えるのは彼女の役目だ。


「君の家を陥れた直接の犯人はエーリヒ・ケーニスマルク…君の元婚約者だよ」


「…エーリヒ」


一旦生気が戻った彼女から生の火が消えそうになる。しかし、


「婚約者とは言っても、親が勝手に決めただけ…私の縁談は家の為のもの。復讐したい」


彼女の目に生への…復讐の炎が灯ったのを確認すると、僕は切り出した。


「君の復讐の手伝いをするよ。その代わりに君の頭脳と力を僕達のパーティに貸してくれないか? その見返りに僕達は君に協力する」


「パーティ? 一体、私に何をしろと?」


「僕達はSクラス冒険者パーティなんだ。僕達の仲間になって欲しい。君の才能は僕の鑑定スキルで悪いけど見させてもらった。君の才能は底辺剣士、だろ?」


リーゼは一瞬むっとするが、


「私の才能は期待しないでください。☆一つの剣士にも勝てない程度のものです」


「それはどうかな? 僕、底辺回復術士なんだよ」


リーゼが僕の方を見て、驚いた顔をする。


「て、底辺回復術士?」


「そうだよ。でも、僕はレベル999だよ。それに君が僕のパーティに入ってくれたら、君のステータスは10倍になる。僕らのパーティに入ってくれないか?」


リーゼは唖然とするが、その双眸はぎらぎらと輝き始め、リーゼはゆっくりと頷いた。

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