底辺回復術士Lv999 ~幼馴染を寝取られて勇者に追放された僕は王女様達と楽しく魔王を倒しに行ってきます。ステータス2倍のバフが無くなる事に気がついて今更戻ってこいと言われても知りません~
島風
第1話 追放
僕は勇者パーティの一員アルベルト、勇者と共に魔王を倒す為に修行を続けている。もっとも僕はパーティから落ちこぼれようとしているが…
パーティは幼馴染で勇者のエルヴィン 、幼馴染で剣聖のフィーネ 、妹で賢者のシャルロッテ、後輩で司祭のナディヤ、同郷の剣豪アンネリーゼ、そして底辺回復術士の僕の計6名だ。
「さすが、勇者エルヴィン様、魔物を一撃ですね。フィーネ憧れちゃいます」
「本当、エルヴィン様は凄い」
二人の女の子の声が聞こえる。僕の婚約者と妹だ。僕にも可能性はあったと思うが、今は天と地程の差だ。もう、彼女らと話をした記憶は2ヶ月はない。
フィーネとは子供の頃からの付き合いで、家もお隣さんだった。幼馴染というやつだった。ほんの2ヶ月前まで二人は僕に天使の様な笑顔を向け、旅の苦労を分かち合っていた。それが、今では二人に蔑まれる様になった。僕が戦力外になったからだ。
彼女達は命をかけた戦いをしている。でも僕はいつも勇者エルヴィンに助けられてばかりで…助けてもらわなければ、とっくに死んでいた。戦力外の僕と二人の間で、戦いの共感を得る事はもうできなかった。
そして、僕の顔は引きつっていた。無理もない事を理解して欲しい。僕の足元には何もない、ダンジョンの中の断崖絶壁から勇者エルヴィンに喉首を掴まれ、正に突き落とされようとしていた。勇者のその瞳は氷の様に冷たく、僕は虫けらか何かの様に写っている様だった。
「すまんな。お前は勇者パーティをクビだ。邪魔だから、死んでくれ」
「何故だ? 僕だって、邪魔なのはわかっていたよ。どうせ足手まといだ。明日にでもパーティを抜けようと思っていたんだ! 何で死ななきゃならないんだ?」
「死んでくれないと困るんだよ。お前、頭悪いのか? お前が死ななきゃ、フィーネを正式に俺様のハーレムに迎えられないだろう? お前は面倒な事にフィーネの婚約者だからな。わかっているよな? 俺とフィーネの関係を?」
「ああ、良くわかったよ。昨日言って…いて…」
「じゃあ、そういう事だからな」
ニヤリと半笑いを浮かべ、彼はそう言った。そして、僕は落ちていった。奈落の底へ……何処までも。
髪が風で激しく舞う、頬を打つ風は痛い程。僕は死ぬんだ……と、思っていたが……昨日の事が頭に過る
明日はいよいよ初めてのダンジョン攻略に挑む。そんな日の前の夜、幼馴染のフィーネが僕の部屋を訪れた。
「アル、いる?」
「いるけど、どうしたの?」
声の主は幼馴染で婚約者のフィーネだった。正直、会いたくない。こんなに差が開いて、僕も彼女もお互い避ける様になった。でも、久しぶりに彼女の顔を見たくなった。
「私、今日は久しぶりにアルと話したくて…」
「うん…少しだけなら…」
僕はつれなくそう言った。本当はフィーネと話したかったけど…やはり顔を見ると話しづらい。それに僕はフィーネの顔色が悪い事に気がついた。風邪でもひいたのか?
「フィーネ、どうしたの? 具合でも悪いの? 顔が赤いよ」
「え、な、なんでそんな事思うの?」
「顔が少し赤いよ、それに汗ばんでるじゃないか? 熱でもあるのか?」
「えっ……う、うん、そう……違うの。うん、でも、具合は悪いかな。お腹が気持ち悪い気がするし…でも、どうしてもアルの顔が見たくて、私…」
「嬉しいけど、今日は早く寝た方がいいよ。明日は初めてのダンジョン攻略なんだから」
「う、うん、そうね……」
僕は咄嗟にこんな言葉が出た。
「フィーネ、君の事が好きだよ。いつまでも」
「…………」
フィーネから私もという言葉はなかった。以前なら当然帰ってきた言葉がなかった。
それからフィーネは戻って行ったけど、悪い予感がした。そして誰かの足音が聞こえて、僕の部屋に誰かが近づいてきた。
「ひどいなぁ、アルベルト」
勇者エルヴィンだった。何の事だ? と思っていると、彼は扉から半分顔を覗かせて、半笑いで僕に話しかけてきた。
「フィーネ、泣いてたぜ、あんなに傷ついている女の子、慰めてあげなくてもいいのか?」
「何の事だよ?」
僕はエルヴィンが鬱陶しかった。底辺回復士の僕を守ってくれるけど、いつも僕を見下していた。できれば、話なんてしたくなかった。
「フィーネは俺にお前を助けてもらう為に、無理やり俺にヤられてたんだぜ」
エルヴィンは突然とんでもない事を言った。
「……は?」
僕は思わず素っ頓狂な声が出た。
黙ってやり過ごすつもりだったけど、あまりに衝撃的な言葉を聞いてしまって、脳内がパニックになった。今、この男は、何て言った? フィーネは僕の婚約者だぞ?
「何だ、怒鳴ったりしないのか? つまらねぇな~、気づかなかった? さっきまでフィーネと俺は同じベッドで仲良くしていたんだぜ。わかるでしょ、普通?」
フィーネは汗ばんでいて、具合が悪いのかと聞いたら、お腹が気持ち悪いと言っていた。 それは、つまり、
「可哀そうにね。自分の好きな男を守る為に股開くんだもんな。お前、フィーネに手をつけてなかったんだな? ホントに馬鹿なヤツだな。まあ、フィーネはそっちの才能もあるようだからな。躾けたらどんどん良くなりそうだから安心しろ」
「……」
「なんだよ、反応ねえとかつまんねぇじゃないか?」
僕は何も言えなかった。何も考えられない。全身の力が抜けた。力は入らない、気力も抜けた。僕は何もかもを失った様な気がした。
長い…随分長い時間が経過したように思えた。死の間際生前の事が走馬灯のように巡ると聞いた事がある。それとも僕はもう死んだのか?
しかし、僕は生きていた。そして…目が覚めた。
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