サイオシ
キリの都合でちょい短め。その代わり明日の朝も更新あり。
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アウロラの独り言から、カインはアウロラが転生者であることは間違い無いと確信した。
相手にもゲーム知識があるのであれば、イルヴァレーノやディアーナとの接触を邪魔するだけでは破滅の回避は難しい。
アウロラはイルヴァレーノや職人に対して顔を背けて独り言を言っているため、イルヴァレーノにはアウロラの独り言は聞こえていないようだ。しかし、作業をしつつも時々後ろを向いてはブツブツと独り言を言っている美少女というのは怖いのだろう。イルヴァレーノの目は据わっていて、口を引き結んで無言で羽ペン作りをやっていた。
「あー。セレノスタ、あの娘って頭大丈夫なかんじ?」
転生者で、おそらくド魔学のストーリーを知っている上に隠すのがこれほどまでに下手くそなのであれば、端から見れば大分ヤバい人なのではないだろうか。カインは作業用テーブルに身を乗り出して、セレノスタへとこっそり耳打ちした。
「アレで、俺の勉強の先生なんですよ。読み書きや計算も教えてもらいましたし、わかりやすい、人に伝えやすい文書の書き方なんかも教えてくれて、頭良い子なんです。……ちょっと、独り言とか多いけど人の悪口いったりしてるわけじゃないし……悪いやつじゃないんです」
セレノスタは、アウロラをかばうようにそう言った。少なくとも、孤児だからとか足が不自由だからといった理由でセレノスタを差別するような娘ではないということだろう。
「カイン様、ディアーナ様」
セレノスタの言葉に、ふむと頷きながら思考に沈みそうになったカインに、イルヴァレーノが背中から声をかけた。
「僕の羽ペンはできあがりました。そちらでお手伝いしてもいいですか?」
振り向けば、若干困ったような顔をしたイルヴァレーノが羽ペンを手に立ち上がっていた。ずっとブツブツと独り言を言いつつ、時々「今元気?」「今幸せ?」「友だちはいるの?」「良かったねぇ」といった田舎のおばあちゃんが孫を心配するかのような声をかけてくるアウロラに辟易してしまったようだ。
「イル君できたの? 私もちょうど出来たところですのよ、見せっこしましょう!」
「いいよ、こっちおいで」
イルヴァレーノの声にディアーナが振り返って自分のペンを手元で振って見せた。カインも一緒に振り返ってイルヴァレーノを手招きしてやる。独り言を言い続ける人の隣に座るというのは、存外ストレスのたまる物なのだ。
と、その時。
ガラガラガシャーン。
と音を立てて、アウロラが椅子から転がり落ち、そのまま転がって壁にぶつかった。
カーン。
と音を立てて、壁にぶら下がっていた細かいパーツ入れ用の金属カップが落ちてきてアウロラの頭に落っこちた。
「……良い音したね」
「どうしたのでしょう? 大丈夫かしら」
突然の事に、カインとディアーナは目を丸くして事態を見守るしか出来なくなっていた。壁に背を預けた状態で座り込んでいるアウロラは、椅子から落ちてぶつけた尻や、金属カップが当たった頭に出来たたんこぶには取り合わず、丸い目を更に丸く見開き、あわあわと口を開いてカインとディアーナを凝視していた。
「か、か、か、カイン様?」
はくはくと口をさせつつも、アウロラがカインの名を呼んだ。イルヴァレーノがすっとカインの前に立ち、目を細めてアウロラを見つめた。
セレノスタが立ち上がり、見守り役の職人もアウロラに駆け寄って立ち上がるのに手を差し出した。
「事情があって特に紹介はしなかったけど、俺もイル兄も名前呼んでたじゃん。なんで今更びっくりしてるの」
セレノスタが、あきれた声でアウロラに声をかけた。
貴族のお忍びなので、カインとディアーナは初対面であるアウロラにあえて自己紹介はしてないし、セレノスタや見守り役の職人も紹介していない。自己紹介をしたのはアウロラだけである。
しかし、セレノスタが言うようにその名前を隠してもいなかった。来店時には普通に「お待ちしていました、カイン様、ディアーナ様」と呼びかけているし、作業開始時も「じゃあカイン様とディアーナ様がこちらのテーブルで、イル兄とアウロラがこっちね」という感じで普通に名前で呼んでいる。カインとディアーナがセレノスタにそれを許しているからだ。
しかし、どうやらアウロラは他に気を取られることがあったのか、カインとディアーナの名前を聞き流していたようだった。
カインは立ち上がると、アウロラのそばへと足を進めた。ディアーナがいる手前、女の子が転がって頭にたんこぶを作っているのを黙ってみている訳にはいかない。格好良く、女の子に優しい兄で居なければならないからだ。
「アウロラちゃん、大丈夫? 凄い音がしたけど、痛いところはない?」
にこりと笑ってカインが手を差し出せば、アウロラはガクンと力が抜けたようにその場に跪いた。
せっかく見守り役の職人が手を取って立ち上がらせたというのに、ガンとまた痛そうな音をさせて膝を床に打ち付けている。
ぷるぷると肩を震わせている姿に、痛くて声も出せないのかとカインは一緒にしゃがみ込もうとした。そのカインの肩をイルヴァレーノがつかみ、グッと後ろへと引き寄せた。
間一髪で、カインの目の前をアウロラの拳が下から上へと振り上げられた。
(え? 今殴られそうになった?)
グッと眉間にしわを寄せ、アウロラの次の行動に注意を払ったその時。
「サイオシキタアアアアアアアアアアアアア」
三軒向こうの帽子屋まで響きそうな少女の叫びがこだました。
その姿は、まるでワールドカップサッカーで決勝ゴールを決めた選手が膝立ちでガッツポーズをし、雄叫びをあげる姿の様だった。
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大阪名産、馬肉の燻製 それはサイボシ
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