秘密の花園からの脱出

いつもありがとうございます。

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王城の近衛騎士団訓練場で、今日も剣術の訓練をしているカインとアルンディラーノ。

打ち合いをするときに顔を寄せ、こっそりと会話をしていた。


「公務について行くというお話を、王妃殿下はうけてくださいましたか?」

「渋いお顔をなさいましたが、カインの言う通りに話したら連れて行ってくださるとおっしゃられた」


カインは、渋るようなら「同じ年頃の庶民の暮らしを見てみたい」「親のない子から直接話を聞き、自分にできることを考えたい」「同じ年頃だからこそ話してもらえる事もある」「自分の年齢の頃から国民の生活に関心があるとなれば、王家の人心掌握の一助となるだろう」などと訴えてみろと助言していた。

カインは「幼いのに感心ね!作戦」と言っていた。作戦名のセンスはいまいちだなぁとアルンディラーノに笑われていた。


「許可を貰えたのですね。よく説得しました。えらいですよ、アル殿下」

「えへへ。カインのおかげだよ」


背の高さがディアーナと同じぐらいのせいか、ついディアーナと同じようにほめてしまう。ほめられてエヘヘと笑うアルンディラーノを見てカインは渋い顔をした。本来、王子殿下を褒めるのはカインの役目ではない。



「では、次の作戦を実行しましょう。今日は王城を抜け出しますよ」

「ええぇ!」

「声が大きい!」


ドガッ


ごまかすように、カインは打合っていたアルンディラーノをはじき飛ばし、しりもちをついた相手に手を差し出して引き起こすそぶりを見せる。

通常の訓練中にやりすぎてしまった風にまわりには見えるように。アルンディラーノは強く打たれて大きな声を出したように周りから見えるように。


いつも通りに訓練が終わり、食堂へ移動して昼食をとる。

カインを出口まで見送るとメイドに言って二人で食堂を出ると、メイドが一人だけついてきた。

食堂から出口へ向かう途中、中庭に面した回廊を歩くことになる。カインが、中庭の花に気を取られたふりをして、アルンディラーノへ向き直った。


「アル殿下。中庭の花をすこし見ても良いでしょうか?妹の好きな花が咲いている様なのです」

「うん。よければ一輪持っていくといいよ……二人で庭の花を見てくるから、そこで待っていて」


アルンディラーノが、メイドに待機を伝えて二人で中庭へ入っていく。

中庭には小さな四阿が一つあるが樹木は無く、花ばかりが咲いているので見通しがよい。メイドも廊下から見守っていても王太子を見失うことは無いと判断したのだろう、アルンディラーノに言われた通り中庭の入り口から二人の行動を見つめていた。


四阿あずまやのベンチの下に、一枚だけ色の違うタイルがある。それを外すと取っ手が現れるので引き出せば下り階段があるはず」

「カインはなんでそんなこと知っているの…」


花を見るふりをしながら、コソコソと話す。

カインが秘密の通路を知っているのは、もちろん前世の記憶があるから。ド魔学の王太子ルートでアルンディラーノと主人公ヒロインが夜のお忍びデートをするのに使うのである。

ゲームで出てこないので中の通路がどうなっているのかは知らないが、出口の位置は知っている。「わぁ!本当に外につながっているんですね!アル!」とかヒロインが感激する場面がゲームにあるのだ。


花ばかりで見晴らしがいいとはいえ、コスモスや女郎花みたいな見た目の花がもさもさ咲いている区画では、子供二人がしゃがんでしまえば見えなくなる。


「この花だったかな。一番きれいに咲いているのを貰いたいんですが」

「こっちは?あ、こっちのほうが色が綺麗かな」


と、わざとらしく声を出して会話して存在をアピールしつつ花の向こうにしゃがみ込み、四阿の隠し通路の入り口を開ける。アルンディラーノを先に下ろし、カインは蓋を閉めながら「どれも美しくて、迷ってしまうなぁ~。じっくり選ばせてください」と大きめの声で言ってから蓋を閉めた。


「スパーク」


真っ暗な通路にカインの声が響くと、パリパリと音を立てながらカインの手のひらの上に火花が現れてあたりを照らした。


「本当は、光魔法とかでライトとか使えたら良かったんですがあれは上位魔法なのでまだ使えないんです」

「すごい。カインはもう複合魔法がつかえるんだね!」


スパークは、火と風の複合魔法である爆裂系の中で一番弱い魔法である。こめる魔力を調整することで線香花火ほどの火花を出したり、手持ち花火程度の火花を出したりできる。


「スパークが複合魔法だと知っているなんて、勉強熱心ですね。アル殿下。えらいですよ」

「でもぼく、まだ全然魔法使えないから」


全然だめなんだよ…と、褒められたのにしょんぼりするアルンディラーノ。それを見て、カインは心の中で舌打ちをした。

王太子という立場にある子供のくせに、褒められ慣れていない。もしくは、以前に魔法ができないことを叱られるかなんかした事があるに違いない。


前世のサラリーマン時代、幼稚園や保育園の園児たちと向き合う事が多かったカインは「他人の子だから」という無責任さでとにかく会う子供会う子供ほめていた。

褒められて照れる幼児たちはとにかく可愛かったし、褒めてくれるカインにとても懐いてくれたのだ。

子供たちが気を許し、懐いているとわかるとその親も気を許す傾向があって営業活動がしやすかったというのもある。

自分の子供であれば、叱ることも必要だったとは思うが他人の子だからと気軽に気安く褒めていた。

そんな中で、褒めても可愛くない…言い換えれば自信のない子がたまにいたが、そういう子を見るたびに前世のカインは悲しくなっていた。


幼児と老人は、年齢を正しく言えるだけで褒められる生き物なのに。


「さあ、行きましょう。出口で僕の侍従が待っているハズです」


カインはアルンディラーノのふわふわの頭をひと撫でしてからはぐれないように手をつなぎ、小さな火花の明かりを頼りに隠し通路を進んで行った。




隠し通路の突き当り、階段を上ったところにあるドアを開けると目の前には蔦植物がびっしり生えていた。手で触れば半分は造花の蔦で、隠し通路の出口を隠すために植えられている様だった。

隙間から誰もいないことを確認してそっと表に出る。振り返れば、もう蔦が生えた壁があるだけでそこにドアが隠されているとは分からなくなっていた。


「なんのためにあるのか、なんで建て直さないんだろうって思ってた小屋だ……」


振り向いて目を丸くしているアルンディラーノの肩を押し、カインは使用人用の小さな門に向かった。


「これから向かうのは、僕がたまに行く孤児院です。王妃殿下と慰問で訪れる孤児院とは別のところですが予習にはなるでしょう」

「孤児か…。大丈夫かな」

「同じ年頃の、同じ人間です。何の心配もいりません」

「同じ人間…」


使用人用の門は馬車の出入りができない小さなもので、人間一人が出られる程度の大きさしかない。カインはそっと門扉を押し開けて首を出すと、きょろきょろと左右を見渡した。


「あれ。イルヴァレーノいねぇじゃん…」

「誰が、居ないって?」


カインの独り言に、背後から問いかける声がかかった。背後にはアルンディラーノしかいないはずだったが、聞き覚えのあるその低い声はアルンディラーノの声ではなかった。


「か、カイン…」


後ろから小さく袖を引きつつカインを呼ぶ、小さくつぶやくような声は今度こそアルンディラーノの声だった。

カインが恐る恐る振り向くと、そこには小脇にイルヴァレーノを抱えたファビアン・ヴェルファディア近衛騎士団副団長が立っていたのだった。

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異世界転生/転移の恋愛ジャンルで月間ランキング1位になっていました。

皆様のおかげです。いつもありがとうございます。


これからも頑張って書いていきますので、今後ともお付き合いいただければ幸いです。

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