無駄に長い廊下があるお屋敷には大抵有能なメイドがいるものです

そえじろう

第1章 とあるメイドの日常

透明人間になったお嬢様 プロローグ

 【あらすじ】


 ミクリは大きなお屋敷の使用人。


 ある日、彼女が廊下の掃除をしていると扉の向こうから怒声が聞こえてきます。 


 そーっと盗み聞きをしてみると……。



――――――――――――――――――



 とんでもなく長い廊下でメイド服を着た少女がモップをかけていました。


 長いだけならまだしも幅もあって中々骨が折れるのです。


「ふう、ようやく半分。さて……」


 少女は辺りをキョロキョロと見渡して、誰もいないことを確認すると……。


「それじゃあ、あとよろしくね」


 モップに向かって指を差します。



 少女の掛け声と共に煌々と光り出すモップ。


 それは独りでに水入りバケツの中へ飛び込むと、自ら絞られ余分な水を払い取り……。


 床をこするように走りだしました。



「やっぱ、魔法は使ってなんぼってね。ほんとこの廊下無駄に長いんだから……」


 更に少女は魔法で出現させたパイプ椅子に座って読書を始めます。


 モップが突き当りまでやって来たその直後……。


 角の向こうから女性がやって来ました。


 何も知らない女性は気付かずモップを踏みつけ足を滑らせます。


「きゃあああああ!!」


 その大きな悲鳴に驚いて、少女が視線を向けると……。


 今まさに女性がひっくり返る瞬間だったのです。


「げ!」


 少女は青ざめます。


 転倒した女性は悶絶したかと思うとすぐさま起き上がって少女を睨みつけます。


「ミクリ!!」


「ご、ごきげんようメイド長。先ほどの朝礼ぶりですね」


「ごきげんよう……じゃないわよ! あなた一体何をやっているのですか!」


 女性は激しく怒りをあらわにします。


 因みに彼女は少女の上司。


 とても偉い人なのです。


 一方、その矛先の少女は目を泳がせ始めます。


「えーっと……何をって言われると……お仕事?」


「へえ、これがお仕事。椅子に座って読書をすることがあなたのお仕事ですか」


「いやあ、でもほら……結果的に廊下はピカピカになっている訳だし……この廊下長いし、ちょっと楽をしたいなあ……なんて……」


「楽をするのは結構。でもそれを悟られらないようにするのも我々のお勤めです。それに……あなたが楽をしようとした結果、私が転倒したんですよ! ええ、ええ、今回は百歩いや一万歩譲って大目に見るとしましょう。でも転倒したのがもし旦那様や――」


「ご、ごめんなさーい!」


 長くなりそうなお説教に耐え兼ね、少女は思わず逃走します。




 少女の名前はミクリ。


 この大きなお屋敷、カグラザカ邸で働く使用人です。


 でもいつも調子に乗っては失敗ばかり……。


 上司を怒らせ、周囲を巻き込むトラブルメーカー。


 そんな彼女の唯一の取柄……そう、ずば抜けた魔法の才能こそが彼女の代名詞なのです。

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