第20話

 (※リンダ視点)


「誰か! いないの!? 助けて! 火事よ!」


 私は何度も必死に叫んだ。

 しかし、いくら繰り返しても、誰も返事をしてくれなかった。

 誰も、私を助けてはくれない。

 そのことが分かった以上、私のとる行動は一つしかない。


 私は、車椅子から立ちあがった。


 迷っている暇はない。

 自分の命が何よりも大事だった。

 私は駆け出し、部屋の扉を開けた。

 部屋に充満していた煙と共に、私は部屋の外に出た。

 そして、急いで階段を駆け下りた。


 しかし、一階まで下りた時、私はあることに気付いた。

 

 一階は、ほとんど煙がない。

 いったい、なぜだろう。

 煙は上に登っていくから、というだけではないような気がする……。

 いや、そんなことを考えている場合じゃないわ!

 こんなことをしている間に、家が焼け落ちたらどうするの?


 私は、急いで玄関の扉を開けて家の外に出た。


「……え?」


 私は、目の前に広がっている光景を見て、それ以上言葉が出なかった。

 庭にいるたくさんの人たちが、全員私の方を見ていた。

 彼らは、私を見て驚いている。

 当然、私も驚いていた。


 そうか……、今日は、レイラが近所の人たちを呼んでパーティをしていたのね。

 だから、こんなに人がたくさんいるのか。


「あの、お嬢さん、あなた、病弱だから、車椅子で生活していたんじゃ……」


「あ……、えっと……」


 また見られてしまった。

 私が病弱ではないという決定的な場面を。

 でも、今回は仕方がない。

 私の命が、危うく失われる危機だったのだから。

 それに、ここにいる人たちにだって、危険が及ぶかもしれないのだ。

 とにかく、火事の話をして、話題を私のことから逸らせよう。


「みんな、急いでこの屋敷から離れて! 火事よ! 屋敷が焼け落ちるのも時間の問題だわ!」


 私は皆に知らせた。

 しかし、彼らは茫然としたままで、その場から動こうとしない。

 ……何を暢気に突っ立っているのよ!

 嘘つきの私の言葉が信じられなくても、火事になっているのは、屋敷を見れば一目瞭然でしょう!

 早く逃げなさいよ!


「リンダさん、いったい、なんの話をしているのですか?」


 たくさんの人たちをかき分けながら、私に近づいて話しかけてきたのは、レイラだった。

 そして、彼女は驚くべき言葉を口にした。


「屋敷が焼け落ちるですって? 特に燃えているようには見えませんけれど……」


「そんなはずないでしょう!? あれだけ煙が充満していたのだから……」


 私は振り返った。

 振り返って、屋敷を見た。


 驚いたことに、屋敷は燃えてなどいなかった……。

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