第14話
(※リンダ視点)
ウォーレンは、私を置いて帰ってしまった。
一人置き去りにされた私は、とぼとぼと車椅子を自分で押しながら屋敷に帰った。
周りの人たちからは「走って帰れば?」とか「今更車椅子に乗るのかよ」とか「自分の嘘を認めなさいよ」などと、好き勝手なことを言われていた。
車椅子を押しているので耳をふさぐこともできず、私は批判の言葉を延々と聞いていた。
今日は楽しい一日になるはずだったのに、どうしてこんなことに……。
私は泣きながら屋敷に帰った。
やはり、ウォーレンときちんと話すべきだ。
私は彼のことを、心から愛している。
婚約者がいる彼に近づくために、病弱なふりをして構ってもらったのは、確かに良くなかった。
ウォーレンが怒るのも無理はない。
そのことも、きちんと謝ろう。
そうすれば、ウォーレンだって許してくれるはず……。
私は、ウォーレンの部屋の扉をノックした。
数秒間待ったが、返事はない。
しかし、部屋の中にウォーレンがいる気配はする。
部屋の中から、すすり泣く音が聞こえていた。
「入るわよ」
私はウォーレンの部屋に入った。
「あのね、ウォーレン、今日のことなんだけど……」
「出て行ってくれ! もう、君の顔なんて見たくない!」
「お願い! 話を聞いて! 認めるわ! 確かに私は、あなたに嘘をついていた! 病弱だと偽って、婚約者がいるあなたに構ってもらった! でも、そんなことをしたのは、あなたのことが好きだからよ! 婚約者がいるあなたに振り向いてもらうには、こうするしかなかったの!」
「……言いたいことは、それだけか?」
ソファに座っていたウォーレンは、ゆっくりと立ち上がった。
「おれの気持ちを、考えたことがあるか!? こんな大事なことで、嘘をつかれていたんだぞ! 愛する人に裏切られて、おれは絶望した! もう、君のことは信用できない! 君がどんなことを言おうと、これも嘘なのではないか、と疑いながら接しなければいけない! そんなの、おれには無理だ! わかったら、二度とおれの前に姿を見せるな!」
「そんな! 待ってよ! 確かに嘘をついたのは、悪かったわ! それは、謝ったでしょう!? 私たちの愛は本物だったはずよ! こんなことで別れるなんて、馬鹿げてるわ!」
「こんなこと? こんなことだと!? おれがどんな気持ちか、まだわかっていないようだな! もう、君と話すのはこれが最後だ! 部屋から出て行かないなら、追い出すまでだ!」
ウォーレンが、私の座っている車椅子を勢いよく押した。
いつも優しく押してくれていたのに、今は突き飛ばすほどの勢いだった。
さらに、私の不運は続いた。
勢いよく走った車椅子が、階段から落ちたのである。
当然、私は車いすに乗ったままである。
体中に、衝撃が走った。
それも、一度だけではない。
何度も、何度も激痛が走った。
「うぅ……」
起き上がろうとしたが、それは無理だった。
意識が段々と薄れていく。
まずいわ。
このままでは、私は確実に病院へ連れて行かれる。
そこで、検査を受けることになるだろう。
そうなれば、私の病弱が嘘だと、完全に証明されてしまう。
それだけは、嫌だった。
今まで長い間貫き通してきた嘘が、バレるなんて……。
病院へなんて、絶対に行きたくない。
抵抗したかったが、私はそこで、意識を失ってしまった……。
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