◆ 10・行方捜し(後) ◆


 ひたすら待つのも落ち着かない。

 足先からジワジワと焦燥が駆けあがる。



 天使の特殊能力で、聖女の居場所とか分かったり?

〈今のわたしは……、前とは違うから〉

 前?

〈だって、堕天しちゃぅた〉

 あぅ、……私のせいかよ!



 結局、翌朝になっても芳しい報告は得られなかった。



 もし、聖女に何かあって、例えば死んでたりしてた場合って……。

 もしかしてしなくても、私、自分でリスタートしないといけなかったり? いやいや運命共同体として、ルーファがそこはちゃんとしてくれてるはずよね?? って、思っていいんだよね? 

 流石に人を当てにしすぎてるかっ。

 いや、私のやり直しはルーファの飢餓スタートでもあるわけで……。



 父も戻ってこないまま、日常を送る。

 どこかで何かをかけ違えたような気分だった。



◆◇◆



「え?」


 悶々とした一日が過ぎようとしている夜。突然母に呼び出され、衝撃の言葉を放たれた。


「もう一度、言いましょうか?」

「いえ……えっ、と……確認させて下さい。フローレンスは依然として行方不明、お父様は誘拐。誘拐犯本人が来ている、と?」

「ええ、ちゃんと伝わっていて安心しました」



 冗談キツい!!!! フローレンス捜しで心はいっぱいなのに、お父様が誘拐!?



「お母様、言い値を払いましょう」

「お金は要求されていませんよ?」

「金をチラつかせて、金に食いつかせましょう」


 こんな時こそ財力に頼るべきだと進言するも、母は首を振る。


「チャーリー、犯人の要求は貴女です」



 は?



「私?」


 真っ先に浮かんだ事と言えば、過去の過ちの数々だ。

 権力を振りかざした虐めに威圧行為――諸々がよぎる。



 土下座謝罪はしてもいい……だが、命は勘弁してほしい。



「会いましょう。……ミランダと」


 一応の対策にミランダを見る。

 彼女も心得たとばかりに黙礼する。意図が伝わったのだろう。


「いえ、相手の要望は貴女一人で……との事です」



 そんなのありか?! こう見えても貴族の、結構デカい貴族家のご令嬢ですけど?! 一人でヤバそうな人と会えって????



「チャーリー、これを」


 母の白い手が手斧を差し出した。


「餞別です」

「お母様?!?!」

「いざと言う時はお使いなさい」


 慈愛の笑みを浮かべる母に、顔を引き攣らせながらも受け取る。

 肘下程の尺がある斧は隠しようもない。

 銀色に光る鋼を見つめ、しっかりと手に持った。


「行ってきます」


 気分は捨て鉢。

 だが、私も侯爵家の令嬢である。誘拐犯の一人や二人で怯えはしない。



 お父様には悪いけど、ヤバそうだったら保身第一でやらせてもらうわ!

 幸い、人の目はないんだし……どうとでもなる。



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