◆ 8・フローレンスの秘密(後) ◆


「フローレンスから採取された涙とかって、流石に本人も気づかないって事はないよね?」

「血はともかく、そうですね。どれくらいの量かにも寄りますが……フローレンス様の所へ?」

「ええ、妹に会いに行くのは変じゃないもんね?」

「……変ですね」

「そ、そう?!」


 ミランダはわざとらしく肩を竦めた。


「お嬢様に限って、自分から会いにくなど。格下相手ですからね。基本呼び寄せるでしょう、待っていて下さい」


 去っていく後ろ姿を見送る。

 かつての自分を思い起こせば、納得もする展開だ。ミランダには私が本当に16歳だった頃の記憶しかないのだから当然かもしれない。



 まぁ……どんな風に心を入れ替えようが、ソレを見せられなきゃ意味がないって事よね。フローレンスとの関わりも今回が『初』みたいなもんだし……。



「聖女かぁ……」



〈フローレンスは苦手?〉

 そりゃ苦手よ。比較的お母様には懐いてるし、私の事もあっちは気に入ってるみたいだけど、こっちはどう関わるか悩むし! 私は昔っから、あの子の事は分からないっていうか……何考えてるか読めないし、変な子だからなぁ。

〈変な子?〉

 動物や植物と話したり、宙を見つめて話しかけてる事あるし……。



 幽霊とでも話してるのかと、子供の頃は怯えたものだ。



〈それは『嫌い』とは違うの?〉

 ……嫌い……では、ないかな。無関心だったから。嫌いだったら、いじめてたかもね? 逆に無関心で良かったのかもしれないなぁ、今の状況から考えると。



◆◇◆



「どこにも……っ、いらっしゃいません!!!!」


 飛び込んできたミランダが叫ぶ。

 この場合、主語を察する事は容易だ。


「フローレンスまだ帰ってないの?」

「いいえ!! ここ数日お見掛けした方がいないのです!!!!」



 いや、逆になんでそうなった? 仮にも侯爵家の令嬢だぞ? なんで数日見てません状態が家で起きるのよ。



「フローレンス付きのメイドに聞きなさいよ」

「そんなもの……いるわけないじゃないですか! 馬鹿ですかっ」

「は?」


 いきなりの暴言に素で返すも、相手は苦虫をかみつぶしたような顔で舌打ちする。


「ちょっと何なのよ」

「お嬢様は……所詮、お嬢様ですねっ」



 なんかめちゃくちゃ馬鹿にされてない??

 ミランダが元々フローレンスと親しくしてるのは知ってたけども……これはなくない?



「何なのよ、言いたい事があるなら言いなさいよ。大体ねぇ! 今更あんたの敬語とか気持ち悪かったんだから!」

「じゃあ、言うわ。どこの馬の骨ともしれない汚らしい子供の世話なんて、上流家庭のメイドが世話をするとでも? しませんよ!」

「なっ?! じゃあ、フローはどうやって生活してたってのよ!?」

「フローレンス様はいつも自分の事は自分でなさってましたし、食事やその他の扱いも平民と同等! いえ、それ以下に等しい事だって!」


 怒鳴り合って、明かされた出来事に呆然とした。


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