◆ 7・歪が生むモノ(前) ◆
なぜか謝られた。
「あたし、知ってた」
は?
ライラの言葉を考える。考えれば考えるほど、訳が分からなくなる。彼女の方でも言葉足らずを感じたのだろう。逡巡するように視線を動かし、口を開く。
「世界が回り戻ってるって」
「は?」
今度は疑問を声に出していた。
彼女は意を決したらしく、私の方に向き直る。
「最初は、変な夢を見たくらいの……この光景、どこかで経験したような気がするって。あぁ、また……って。この場面、まただって。……あぁ、これは『夢』だって。何度も見る嫌な夢」
ライラの声が耳を素通りしていく。
何をすればリスタートになるのか分からず、気が付けば時間が巻き戻っているという異常事態。いつも法則性を求めて、彼女はもがいたのだと――。
それは当然だ。
私が基点で、私が死ぬ事によって世界が戻っているのだから、ライラには分からなかったろう。
でも……。
私はかつて『話した』ことがある。
親友だからだ。
親友だから話したのだ。
結果は……酷かった。
私の両親に告げ口しての『狂った人』呼ばわり。広まる噂、病院送り、監獄のような生活。
彼女の話を聞けば分かる。
ライラは全てを覚えてはいないし、正しく記憶してるわけでもない。それでもリスタートが起きていた、と理解していたのだ。
スライ先輩とミランダは、リスタートなど全く気付かなかったらしい。それどころか、この話を未だに信じがたいと言う。これも無理はない。
片方は大量殺人の嫌疑までかけられているのだから、認めたくないのは当然だ。
ミランダの方も今から殺そうとしていた相手に、すでに十分殺し合ってきたと打ち明けられたのだから混乱している。
「全部『夢』だと思ってやり過ごす事にしたわ。そうして、チャーリーを殺した」
私たち以外は、完全に引いている。
気持ちは分かる。
女同士の友情はドロドロのグッチャグチャだ。特に深くなればなるほどその傾向がある。
「だから、ごめんなさい。私は『どうせ』戻ると思っていたから、簡単に殺したわね」
……そうだったの。でもねライラ、私が怒るかって?
全然よ。
むしろ今、ホッとしている!!!! そうか、つまりライラはリスタートありきで殺しに来てたのよね?! それなら全然OKでしょう。彼女は私との関係を断ち切る為に、殺したわけじゃないんだって分かったんだから。
もちろん、親に告げ口された時は売られた気がした。彼女の裏切りに腹も立った。ある世界線では殺しもした。そう、私たちはお互いを殺し合っている。
お互いに――リスタートがあるという名目で。気軽に、だ。
だけれど、何が一番辛かったかと言えば、縁を切る行為だったからだ。私と彼女は幼い頃から友人関係を育んできた。
そんな彼女に絶縁と言う名のナイフをふるわれたのだ。
殺人とは、本来そういうものだろう。
息の根を止め、消去する行為。
心臓を突き刺されるよりも、心を断ち切られる方が万倍辛い。だが今の話から、全ては『やりなおし』でしかない。
関係を修復させる為、関係をもう一度始める為の――。
「同罪ね、私たち」
私は穏やかに呟いた。
心は洗い流されたように美しくなった気さえする。ライラにも感じられたのか、慈愛深い笑みを見せた。
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