◆ 23・寝ても起きても地獄(中) ◆
男の周囲には青い光をパリパリと走る。
見るからに不機嫌だ。
暴れるルーファを止める為に、良かれと思ってアーラのフリをしたってのに……!
〈ルフス、怒ってるかも〉
いや、言われなくても分かるけど?!
私の中の天使アーラは困ったような声を出している。困っているのは私の方だ。
待て待て待て、これまたも死亡パターン来てる?! 今度は対ルーファかよっ、愛するアーラのフリをしたのがそんなに気に入らないか?!
〈ルフス、待ってっ! シャーロットが困ってるのっ〉
なら、さっさと謝るか?
〈おねがい、ルフス〉
いやいやミランダとか思い出してみて? 今までのパターンで『ごめんなさい』にどれ程の意味があったよ!!
〈ルフス……聞こえないのね……〉
って、うるさっ!!!!
頭の中に一人増えているのだから、心の中すら穏やかな時間はない。
よし、ぶっちゃけよう。
「もちろん、私は! アーラではありません! あんたの相棒シャーロット・グレイス・ヨークよ! 忘れたとは言わさないわっ」
私の怒声に、ライラたちに笑みがこぼれる。肝心のルーファは無表情になっている。無意味に陽気なルーファばかり見てきただけに、気持ちが悪いし怖い。
「ええ、絶対に言わせない。私と手を組んで、あげくにアレを唱えさせて、どんな目に遭ったと思ってんの!! ルーファ、説明してもらうわよ! ……ち、ちなみに、私の中には、アーラがいるんだからね!? 私に攻撃をしたら、あんたのアーラも一緒に死ぬって覚えておくのね!」
とても大事な事を付け加えた。シャーロットである私が持つ影響力などたかが知れている。
空腹だ。
彼は私の死に戻りによって極限飢餓状態に戻される事を嫌がっていた。飢餓と愛を天秤にかけて見れば、どちらが重いのかは分からないが、己惚れる気もない。確実な生存のために、よりルーファが落ち着きやすい言葉を足したつもりだ。
案の定、最後の文言がきいたのか、ルーファの周囲を走る光は徐々に収まっていく。
大きなため息と共にルーファは顔を覆った。
「なんだ、チャーリー。お前だったか、早く言えよ」
顔をあげた彼は笑みを浮かべている。
あぁ、でも分かるわ。建前って仮面を被ったの、流石に分かるわ。
おそらく彼はガッカリしているのだろう。アーラだった私がシャーロットに戻ったことに――。
「なぁチャーリー、お前の中に『アーラがいる』って言ったよな? どういう状態なんだ? あぁ、他のヤツの耳が気になるなら削ぐぞ?」
普通に危険極まりない発言をするルーファに、ゾッとする。恐らく本人はうまく仮面を被れたでも思っているんだろうが、まだまだ前の状態には程遠い。
それは同時に私にも危険があると知らせてくる。
「いやいや、全然聞いてもらってて大丈夫なんで!!!! えーっと、ライラ達には後で詳しく説明するとして……簡単に話すとアーラと私って別人格で存在しちゃってる双子みたいでね」
「それで?」
「それで、私たち一段階上の世界とやらに行きかけてたんで……」
これを言っていいのか悩みながらも、言わずには進まないのだろうと腹を決める。
「堕天……してきたの」
「アーラも、か?」
「そ、そうね」
いやいや、いちいち怖いんだが?
ルーファの笑顔からは何も読み取れない。彼の陽気さは、本来の感情を覆い隠すためだったのだと気づいた。
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