第7話






……………

「おい、黙ってないで話せよ」

「怖くてかたまちゃってんの?ウケる」

「ねぇわかってる?なんとか言えよ!」


バンと隣の壁に何も入ってなさそうな鞄が叩きつけられた



「…………ひぃん」

どうしてこうなった?

最近、そう思うことが多くなったなぁ

プルプルとチワワの如く震えながら俺はそう思った

あ、パンツ見えそう


雲がゆっくりと流れていった



≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫



あの俺を見ろ見ろうるさい陽キャ金髪俺様受けの芝崎くんを回避しながら放課後になった学校を颯爽と帰宅活動に精を出している時だった



「おいあんた」

「…」

「無視すんなよ!」

「おん!」

肩を掴まれて振り返る

俺のことだったのね!?

そこにはこちらを愛想が皆無の表情で見ている女の子の三人組が下駄箱前の俺の前に立ち塞がっていた



「ツラ、貸してよ」

ほんとにそんなこと言うんだーと思って笑うと

舌打ちされた

怖くてちびりそうになったのは俺だけが知っている


そして校舎裏に連れてこられた

なんですぐ連れてくの?流行ってんの?

現実逃避しながら俺は連行された

今日も空が綺麗だぁーああいたい!引き摺らないで!てか力強いね君!前世ゴリラ?


片手で俺を引きずる彼女が怖くなった

女の子怖い…

俺は一つ知った。お利口になったねぇ(帰りたい)


「ねぇ聞いてんの?アァン?」

下を巻いて発音しているのはボブヘアーの見た目はゆるふわ系の女の子

今はガチこわ系の女の子

俺の股の間に足を入れて壁を蹴っている

処す感じ?


なんとか意識を取り戻して現実にチューニングして話を聞いて見ると

芝崎なんちゃら君に近づくな。まとわりついててきもいんだよ地味オタクと言っているようだ泣きそう

後ろでスマホを操作しながら我関せずな子と真ん中の仁王立ちしている子がいる

「ほんとみんな迷惑してるからさ。わかった?」

みんな迷惑?それはいけないことだけど

ええと、俺が何したっけ?

表情で察知したのか舌打ちされた

足がガクブル。子鹿のようだ

あれ、迷惑?まとわりついてるつもりもないし…ウォッチングのこと?なら最近あの人が勘がいいのか察知されて確保しにくるので最近は近寄ってない

むしろ迫ってきてるから逃げているのだ

俺の静かで健全な学生生活を邪魔しないでほしいよ全く

あと普通に芝浜君が怖い。あのズコーって音が耳から離れないんだ

うぅ、怖いものが増えていくよ


「こいつあたしらのことナメてる?シカトかよ」

舐めるとか女の子が言っちゃいけませんお父さんそういうの好きじゃないなあごめんなさいごめんなさい

長くて派手な付け爪の指が俺の顎を捉える

うードーナツとキ○ィちゃんの飾りが刺さってて地味に痛い


「ねぇもういいんじゃない?あたし帰りたい」

スマホ子が言った

そうだね帰ろう、帰ろうよ

あったかいおうちが待っているよ

「ちょっとユイ!あんたはムカつかないの!?」

「とにかく!尊に近寄らないでよね!」

仁王立ちの髪をくるくるさせて茶髪の子が言った

「う……」

「「「う?」」」

三人が異変に気づいた

「うぇええーーん!!」

「な、泣いた?」

「なんでよ?ちょ、泣きすぎ!」

「うわぁ小学生みたいウケる」

一人以外慌てている

俺はそれどころじゃない

怖い!もう怖くて溢れ出してしまった

情けなくも女の子に囲まれて大泣きしてしまう俺

男とか女とか関係ないよ怖いものは怖い!

俺のトラウマが追い詰める

『お前のせいだ!消えろ!』

黒い影がそう言った

みんなが囲んで笑っている

心が死んでいく



「ちょ、どうしようもう、泣くなよぉ」

「ほら、お菓子あげるからさ、ね?」

「激辛煎餅とかあげたら追い討ちじゃん」

二人が大泣きする俺を宥め始めた時だった



「おい!!」

明らかに怒りが混じった声が轟く

みんなが振り向く

俺は無視して大空に向かって泣いていた

そう、大地から産声を上げるように

なんか壮大じゃない?


「んあっ!?」

力強く掴まれて抱き寄せられた

覆われて前が見えない

前にあるのは硬いしっかりした胸板だった

温もりを感じる


見上げると

そこには険しい顔をしたイケメンがいた

怒っててもかっこいいんだな

そんな場違いなことを考えていた

もう一度俺をぎゅっと抱きしめた芝崎君(中身が出ちゃうよ)は女の子たちを睨む

イケメンに睨まれて彼女らはバツが悪そうにしていた

「お前ら。御子柴に何やってんだよ」

威圧感が半端なかった

おしっこ漏れそう


「ち、違うの!そいつが、芝崎君に付き纏ってるから」

「そうよ!尊困ってるからどうにかしようと思って私たち、お願いしてたの」

「私はクレープ奢ってもらえるから付き添いです」


その言葉に芝崎君はプルプルと震える

チワワ化が伝染した!?

「ふざけんな!!」

大声を出した

そのせいで僕と彼女たちは黙る

「いつ、誰が頼んだ!余計なことすんなよブス!」

派手な子が目を潤ませた

な、泣いちゃう

「い、いいよもう芝崎くん。おれき、気にしてないし」

情けなくも声が震える

他人のマジギレって初めて

いや勝手に三日月の髪を脱色してピンクにした時ぐらいだったかな?

若気の至りですへへ

「御子柴……お前自分が虐められてんのに、優しいんだな…」

違うから。女の子泣かしちゃダメだってお母さん言ってたし

「大丈夫だ。俺に任せろ!お前は俺が守るからな」

すっごくかっこいいけど、話を聞いて

ぎゅってされる度心臓が痛いしシュークリームのクリームのように中身が漏れ出してしまう

なんで心臓が痛いんだ?


「御子柴泣かせやがってテメェらゆるさねぇからな!女でも顔面プーさんにしてやる!!」

こ、こわい。プーさん?かわいいの?いや黄色くてふっくらしてたらアウトか

そんな女子は見たくない

「だ、だって」

「酷いよ尊!」

「酷いのはどっちだよ!あと名前呼ぶな気持ち悪りぃ!誰だテメェ!」

その言葉に派手な子はその場で崩れた

容赦ないね

女の子は本格的に泣き出してしまった

俺は芝崎くんに抱きついて止める

エヴァの試作機を止める時ってこんな感じかな

ミサトさんはやく!!ミサトさん!


カシャ

異音に反応する

「なぁーにしてんのー?」

ミサトさん!じゃかった芝浜様!

後光が見える

「あ「なるほど御子柴くんをシメてたら尊に見つかってボコられそうだった感じ?なら尊は男女平等パンチ(自分より強そうな奴にはメンチ)得意だから仕方ないね」えっ…」

女の子が話そうとしたらぶった斬ってそう言った芝浜くん

いろいろと怖い人だ


「ほら、もう満足っしょ?俺たちも忙しいんだよね」

「でも深く「馴れ馴れしいなブスのくせに」……」

芝浜様の方がよっぽど悪質だった

俯いて泣いてるこの顔を連写している

鬼畜だ


「今回は見逃してあげるから、さっさと帰りなー」

「おい深!」

「この子らより御子柴くんのケアしてあげたら?震えてるよ?」

「ッ!わかってる」

焦ったような顔をして芝浜くんから顔を背けた芝崎くん



地面に膝をついていた俺を立たせて心配そうに見つめてくる

それに居心地の悪さを感じた

芝崎の背後で旗を持って笛を吹き女の子たちを連行していく芝浜くんたちがこの場から去っていった

これで一件落着

こんなとこ三日月に見られたらなんて言われるかたまったものじゃない

帰ってBLゲームしよー滝沢くんルートまだ攻略してないしー

そう思って校門の方に向かおうとすると引っ張られた

これは、伝説のバックハグ

まさか実体験するはめになるとは

「……ごめん」

?なんで謝っているんだろう


「芝崎くんは何も悪くないですよ。むしろ助けに来てもらって助かりました。一番怖かったですけどね」

つい正直にそう言った

「……悪かったな」

その声にいつもの覇気がなかった

ううむ……

調子がでないなぁ

なんとなく背中をトントンする

されるがままだった

まるで大きな犬だ

ワンコ攻め、好きです


「……怪我もなかったし、俺平気だよ」

「……………うん」


「……助けに来てくれて、嬉しかったですよ」

「…………でも」


「でも?」

「……………」


「はよ言って」

「…俺の、せいだ」

そうなのか?そうかもしれない

でも

「俺が纏わりついていた、つもりはないけど。まぁウォッチング活動でそう見えたかもしれないし。俺、ほら陰キャ地味男だし、ね。ああいう人にとってゴミみたいなものだし」

ゴスッ

「ひぇ」

壁に背中がくっつく

壁と芝崎君に挟まれる形となった

どんな展開であるかぁ?


見上げると芝崎くんが熱っぽいような声で見ていて

俺は言葉を失う

そんな目を現実を見ていない俺は知らなかった


「言うなよ」

「え?」

「そんな、悲しいこと言うな」

囁くように、だが切なげな声だった


「………うん」

思わず俯く

こんなの、耐えられるか!

こんな、BLみたいな展開、やめてくれよ

俺はそんな、舞台には立てないよ


「絶対自分を悪く言うな。言いたいなら、俺に言え。俺を悪く言え」

思わず見上げた

その顔は何かを堪えるような顔だった

「なにそれ。変なの。芝崎くん悪くないのに悪く言えないよ」

「べ、別になんでもいい。なんでもいいから、俺に言え。俺のそばにいろ」

まったくなんの話かわからないけど、俺様セリフに興奮してテンションが上がるわけでもなく

二人っきりで密着し見つめ合ったり体温が伝わったり

いい匂いがするなぁなんて思ったり

思考を停止しながらまぁいいかと

自分より大きな体にくっついて

筋肉っていいなーと思っていた





放課後

いつものように俺を盗み見ている御子柴を探している時だった

チャイムと同時にあいつはクラウチングスタートをして走っているのを知っているのはきっと俺だけだろう


悔しいがあいつの足の速さについていけない俺は捜索する羽目となった

下駄箱には外靴はあった

だからまだ校内にいるはずだ

俺から逃げられると思うなよ

既に目的とか見失っていて捕獲することしか考えていなかった


そして一階の階段横の自動販売機でスパイシーパフェと書かれた既に飲み物ではないパックジュースを買っている深と遭遇した

「よぉ」

「やっほー」

軽く挨拶する

「なぁ「御子柴君ならさっき下駄箱でアホそうな女子に連行されたよ」なんでだよ!?」

俺は慌てて詰め寄る

「知らないよー。裏校舎だと思うよ」

「まさか、告白、はねぇな」

「ないね」

二人で意見が一致した瞬間だった


そして嫌がる深を連れて裏校舎に向かった

そこで御子柴はかわいそうに、プルプルと震えながらビビっていて着く頃には大泣きをしていた

俺は初めて他人のためにブチギレた

相手が男だったら手始めにぶん殴っていたから理性が働いてまずは会話からして、殴ろう

そう思っていたが俺に抱かれている御子柴は目を潤ませながら俺にしがみつきやめろと言う

かわいい

仕方なく、仕方なく深に任せて俺は御子柴のケアをした


こいつは自分自身を蔑んだ

俺はそれにひどく嫌な気持ちになり

悲しくなった

なぜそうなったか俺はわからなかったが

言わなきゃと、伝えなきゃと思ってただ言葉を投げる

やっぱり御子柴はわかっていないようだが顔を上げて

笑ってくれたからもうそれでいいかと、俺は思った


今更御子柴と二人

密着してる事実に俺は動揺した

悪い気分ではなかったから

御子柴は怖い目にあったし、こんな時ぐらい

胸を貸してやらなくもない

決して嬉しいとか、くっつきたいなんて思ってない

誰に対しての言い訳を内心言う



「………ッ」

「ん?どうした?」

我ながら、甘い声だったと思う

その声にビクッと震えた御子柴

このまま時が止まればいいのに

そうらしくない事を思った


「………た」

「も、もも」

「桃?」

俺は御子柴の艶のある黒髪を優しく指で掬い

そして顔を上げさせる

頬が赤く染まっていて目が潤んでいた

黒い瞳が俺を映す

……ゴクッ

俺の喉が鳴ったらしい

あと少しで、唇が触れる

目を細め、顎を支える


「も」

さっきからももももうるせぇな

恥ずかしいのか?可愛いとこあんじゃねぇか



「も!」

「さっきからなんだよ!?」

折角の雰囲気を壊すな!


「漏らしちゃった……」

「…」

下を見ると青いズボンに濡れたシミが広がっていた


俺は急いで御子柴を隠して

保健室に急いだのであった







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