愛のアイドルアーサー!

第1話













どうしてこうなった?………






「やっ!やめ!……やめて、ください!お願いしますぅ!!」

涙声で抵抗する声を発する

この時の俺は必死だった


既に脱がされた上京して初めて買ったTシャツお値段三万円が冷たい地面にクシャッとシワを作って落ちている



「ほら、……さっさとしてくれないかな?やっぱり、いい筋肉してますね」

「ひぃやぁあ〜!!」

脇腹の凹凸をなぞる様に指でなぞられてその刺激に抵抗が緩む


「…!」

「あっ!あぁ!!」

スポーンっとダメージジーンズお値段千五百円が宙を舞って落ちる


あっ、あーー!!あれー!!

「と、とと都会こわか!!こわかぁ!?」

「うるさいですね!さっさと、着なさい!」

「ちょっ!?お、お尻が出ちゃう!それ、パンツ!バンツゥ!?」

お父さんお母さん

柴犬のもち助

俺は今、都会の真ん中で貞操の危機です


涙目で見た光景は

お値段三枚で千円の青いトランクスが空中に飛んだ姿だった








「はぁ……」

残金…三百円

給料日は、月末

今日は、六月二日…

親からの仕送りは……そういえば弟の塾代で厳しいって話してたから断ったんだ

はぁ……


またため息を吐く


プップー!

ねぇ今日カラオケ行かない?

いいね!

てか〇〇くんの?

先月さぁ髪切ったらこうなった

やっべー!あははは!

ですから、今そちらに向かっておりますはい、おいタクシー!チッ!

早くしないとコスプレイベ遅れる!!

まて鶴!これ!女装じゃないか?俺聞いて、おい!

ハッピーセット注文すれば幸せになれますか?


さまざまな声が聞こえてくる

地元だったら虫の声と牛の声しか普段聞こえなかった

あとじいちゃんのトラクター

ばぁちゃんの歯軋りと母ちゃんの父ちゃんをしばく音

それぐらいだった


はぁ…


となりの犬の石像の横に蹲る

ハチ公……もち助元気かな…

愛犬のもち助を思い出す

ふわふわで可愛いやつ

喧嘩して家出した時黙って着いてきてくれたもち助

そして先に帰ったもち助

奴にとってはただの散歩だったらしい

あの後泣きながら帰ったのは懐かしい思い出だ

はぁ…

癒しが恋しい…

お腹すいたなぁ

蹲ったまま

顔を伏せて俺はいつのまにか眠ってしまったらしい




「……」

「き……いて」

「んん……」



「君!起きなさい!」

「は、はい!」


飛び上がって起きた

あーよく寝た

てか体いてー


「………?」

目の前には田舎者でもわかる

帽子を被ったお巡りさんが二人いた


「な、なんですぅ?おらなんもしてなかと!?」

慌てて方言が出てしまったが気にしてはいられなかった


「あのねぇ君、一回落ち着いて」

「そうそう」

おじさん達がそう言って宥めてくれた

い、いい人

ちょっと涙が出そうになった

「ふぅ」


「落ち着いたかね?」

「はい…。あの、何か御用でしょうか?」

冷静さを取り戻した

都会ではクールでできる男になるために練習したのだ!

弟に見られて鼻で笑われたのはショックだったけど


訝しむ様な視線に俺はたじろぐ

こ、こわかぁ

田舎のべこちゃん(牛♀三歳)が恋しい


「今何時だと思う?」

「えっ、えっとあれ?…あれれ」

ポケットからスマホを探す

二つ折り携帯から脱却してピカピカのスマホを買ったのだ

まだ操作が慣れていない

「な、ないない……あれ、お、おかしいな」

慌てて探す

けれど無い

血の気が引いた

その行動におまわさりさん達が凝視する

既に俺は涙目だった


「君」

「は、はい!!」

俺の大声の返事に嫌そうな顔をされた

すみませんです

「今ね、夜の十一時」

「じゅ、じゅういちじ」

「そう。それで、君未成年?だよね」

「はい…」

「なら補導しなきゃいけないんだよね」

「ほ、補導!?」

俺は初めて生で言われ言葉に驚愕した

は、はじめてだがや…

おらわりぃごになっちまうんだにゃ

しょんぼりと項垂れる

「とりあえず身分証持ってる」

「……身分証です、か」

尻ポケットに入れたかっこいいチェーン付きの財布が………ない!?ないないない!

俺は項垂れた


「よくあるんだよねー。普段は酔っ払いとかだけど盗まれちゃうの」

「……そうですか」

「親御さんとか連絡できるとこないの?」

「親は……」

出身地を言ったらえって顔をされた

失礼やさ!

「はぁ……では保護者の方はいないのね。住所は?大学生?」

「はい…」

俺は今在学している体育大を言った

「おお!あそこか!じゃあ俺の後輩だな!」

おまわりのおじさんの片方が言った

「せ、先輩!」

「まぁそれが本当、だったらな」

「えー….」

突然刑事ドラマの様な雰囲気を醸し出す

母ちゃんが見てた奴だや!


どうしよう

実は寮は隣の先輩の寝タバコでボヤ騒ぎで水浸しになってしまい

さらに建物の構造が法律に引っかかったとかで追い出されてしまった

よくわからないまま荷物一つで彷徨い

大学の友達の家でお世話になっていたが一月もいたので申し訳なくなり止められたが飛び出してきた

そして、情けなくも親に言えなくて漫画喫茶生活だ

あぅ、おらがなんやしたね…

つらやんよ…


それをおずおずと話すと

明らかにおじさん達が面倒臭そうな顔をした

なんもそんな顔せんくてええなんかぁ

うぅ

上京したテンションまま入った小洒落た古着屋で買ったお高いTシャツが防寒具の効果を発揮させずに

ダイレクトに夜の冷たさが身に染みた



「どうかなさいましたか?」

綺麗な声が聞こえた

三人で声の方に顔を向ける

「おやこんばんは。先日はどうも!」

「こんばんはです。お加減はどうですか?」

「ははは、すっかり元気ですよ!勧められた店で治療してもらったら腰が若い頃みたいによくなりましたよ」

「それは良かったです」

「お仕事帰りですか?」

「はい。会議が長引いてしまって…それで、何かありましたか?」

再度尋ねた

「それが……ねぇ」

二人のお巡りさんが顔を見合わせる

そんな厄介なものを扱うみたいに

都会人は冷たかやー

ううぅ…


「かくかくしかじかで」

「ふむふむ。なるほど」

現れた人はまじまじと俺を見る

その視線に俺は固まる

こ、こんな美人さんに見つめられるなんて、は、は、はずかしかぁー

赤くなった顔を隠す

ポニーテルにした黒髪が凛とした顔にあっていて長いまつ毛と澄んだ目が美しかった

と、都会の美人すげぇ

俺は緊張した

黒いロングコートの下のニットがインテリっぽさの中に柔らかさを感じさせた

た、タイプ!

つい見惚れてしまった


「つまり、この子は宿なし金なしで年齢身分不明の自称大学生……なんですね」

あまりの言われ様に俺は傷心した

そ、それはそうやかそこまでいわんとね…


「ッ!?」

「ふーーん…」


ぐっと距離を詰めてきて呼吸が止まる

端正な顔が近い

香水なのか甘い香りの中にスッキリとした柑橘の香りがする

ほあぁ〜

つい鼻で息を吸う

はぁ、田舎では一生縁のない香りやんな

俺は内心で拝む

ありがたやありがたや


「わかりました」

「わかっちゃいましたか」

変な事を口走ってしまった

冷や汗が流れたが相手は気にしていないようで腕を掴まれた

うわー柔らかい指が触れて、ドキドキした


「連れて行きます」

「ほぇ?あっ、ちょ」

グイッと引っ張られて連れてかれた

後ろの方でお巡りさん達が手を振っていた




「ど、どこに行くんですか?」

ピタッと動きが止まった

危うくぶつかりそうだ

この人は俺の胸の高さに頭があって

ぶつかったら怪我をさせてしまうかもしれない

俺は学力はあまりないが、肉体だけはすくすく育ったと親に言われた

あれ?馬鹿にされてね?




「私の家です」

歩き出した

低い位置の細いポニーテルが揺れる

可愛い



………



「えっ?」

まだ俺は、ねぼてけいるのかも知れなかった




ガチャン…

「どうぞ」

「あ、お邪魔します…」


そこは高い、まさに都会の象徴の様な建物だった

カードキー(初めて見た)をピッとして(初めて見た)ガチャっと音がして入室した

玄関に入るとピッと勝手に灯りがついて(初めて)感動しながら

差し出されたスリッパ(もこもこ)を履いて家に上がる


い、いい香りがすんにゃ…

薔薇の様な香りにエキゾチックな香り、あってる?

に、甘い香りがして落ち着く香りだった


ダウンライトが廊下を照らす

壁には小さな額縁の中の絵が飾られており

品のある空間を作っていた


「どうかしましたか?」

「あっ、いえ」

慌てて進む

部屋に入るとさらにすごかった

「はへー、ひろ、すごっ」

まるでテレビで見た芸能人の部屋の様で

べこの搾乳室六個分ぐらいで驚く

これが都会

俺は都会の洗礼に慄いていた



「荷物はこちらに。どうぞ座って。お疲れでしょう今温かいお茶を淹れますので、お待ちください」

微笑んでアイランドキッチン?とやらの奥に行った


改めて見ると部屋はモダンな洋室で

淡いベージュのふわふわのソファと黒いテーブルに白いテーブルクロスがあってその上に一輪の花が生けられていた


べこちゃん(牛♀三歳)ぐらい大きなテレビが鎮座していて

俺は場違いじゃないかと今更怖くなった

お、おれどうなっちまうやんの?つい美人さんについて来ちゃったけど

よくわからないままついて来てしまった


「あれ、好きなとこに座ってください」

「あはい…」

……もっこもこ!!

ソファの柔らかさに感動していたら前から小さく噴き出す様な笑い声が

「ッ……すみませんです」

「いえいえお気に召したなら良かったです」

そう言って俺の前にお洒落な木のトレイに乗ったティーカップを置き

その中にガラスのティーポットから湯気の立つお茶が注がれていく

あー、いい香り

よくわからないけど落ち着く

お得用のお茶じゃないな


「ブレンドティーです。良かったらこれ、美味しいんですよ。なかなか売り切れちゃって買えなかったんですけど、やっと買えて」

嬉しそうに微笑む姿に見惚れてしまった

知的な女性がいたいけな少女の様に喜ぶ姿に俺は一目惚れしていた

か、かわいかぁー!!


「あれ、熱かったですか?」

「へあ!?い、いいいえ!全然ってあちゅっ!?」

誤魔化す様にお茶を飲んだのでその熱さに驚いた

お、俺ダッセー

恥ずかしさで顔が赤くなる

田舎者って笑われないかな

不安になる


「落ち着いてください。火傷、してませんか?」

「あっ…」

頬に手を添えられ見つめられる

その真摯な瞳に目が離せなかった


「……大丈夫、みたいですね」

「……はい」

「あっ、すみません馴れ馴れしくて」

パシッ

「えっ」

離れようとしたその手を俺は反射的に掴む

そして俺の方に寄せた

「あの…俺」

うるさいくらい自分の鼓動が鳴り響く

俺、大人の階段のぼっちゃすんや

薄桃色の唇に、俺は顔を寄せる


ピーー!!

「ふにゃ!?」

「あっ」

美人さんは慌ててキッチンに走っていった

…………

お、惜しかった様な

ホッとした様な


「お湯。沸いたのでお風呂どうぞ」

「えっと、はい。ありがとうございます」

慌てて風呂場に行く

広くて間違ってしまい玄関にいた

美人さんに案内されて、俺は風呂に入った


……


「ふう」

気持ちのいいお湯でした

広くて清潔で

シャンプーとかも沢山あっていい香りがしてすごかった

俺の短い黒髪がサラサラになっていい香りがする

湯船からでて脱衣所に戻るとふわふわのバスタオルと

未開封の下着のセットが置いてあった

至れり尽くせりだ




「お風呂、上がりました」

「はい。湯加減はどうでしたか?」

「えっと最高でした」

クスッと笑われたが、嬉しい気持ちになった


「髪」

「はい?」


「まだ濡れてますね」

伸ばされた白い手が髪に触れる

「こっち来てください」

言われた通りにソファに座っていると風呂場に置いてあった高級そうなドライヤーを持ってきて俺の髪を乾かそうとして来た

大丈夫だと言ったがまぁまぁと押されて、大人しく従うしかなかった

結果的にサラフワと髪がなってヘアセットしたみたいに自然な形になった

さすが都会人


「ご飯できてますからどうぞ」

と一悶着あったが結局御馳走となり

金目鯛の煮付けやら筍ご飯や刺身の盛り合わせなど

豪華な食事でもてなされて

どこの旅館に来てしまったかと錯覚してしまうほどだ

「さぁこれもどうぞ」

「あっ、俺まだ未成年で…」

十九歳の俺は今年で二十歳

まだ酒は飲めない

「大丈夫です。アルコールは入っていませんから」

笑顔でそう言われて、薄いガラスのコップに注がれた液体を飲む

うっま!

「これ美味しいっすね!」

「でしょ?お気に入りなんです」

茶色い瓶に入った謎の液体を空いた容器にまた注がれて飲む

ほんとおいしかね〜!

段々と楽しくなって来た俺は

飲み食いをして騒いで、いつのまにか眠ってしまった様だった




「おやすみなさい。白瀬将虎くん…」

微睡の中で、ソファに転がって涎を流した俺に

柔らかな毛布をかけた人が

そう言った気がした





≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫





「起きて」


「ん……」


「起きてください」


「んー………ん」


「起きろよゴミクズ!」

「うひぃ!?」

俺は飛び上がって起きた

その際揺れるカーテンの隙間から暖かい日差しの中を雀が飛び立つのが見えた


「…起きましたか?」

「えっ?あっ、はい!おは…うっ」

正座して挨拶しようとしたが途端にズキッと頭が痛くなった

なんでだろう

「あら、きっと疲れていたんでしょうおかわいそうに」

心配そうに俺を見る美人さん

あー綺麗、可愛かねぇ

朝からいいもん見れた!

ぐっと背伸びした

「朝ごはんできていますから、食べれそうですか?」

「はい!いただきます!」

見ると美人さんは白いエプロンをしていた

朝だからかポニーテールの髪は肩にかけてある

それも艶めかしくてお似合いだった

か、彼女とかお嫁さんとかできたらこんな感じなのかな…

ついこの疑似的な結婚生活を想像してしまいニヤつく

まだ名前も知らないのに…

「将虎君…私、貴方に一目惚れしたの!好き!大好き!」

「いけませんよ。俺たち出会ったばかりじゃないですか」

「時間なんて関係ありません!…私じゃ…ダメですか?」

潤ませた目で俺を見て、薄いシャツのボタンを上から外す

「ダメです!そんな俺ッ!」

「いいんです…せめて、こんな体でも….」

「違うんです!俺は、貴方を大切にしたい」

「ッ!将虎君、どういう事?」

頬を染めながら見上げる

俺はその頬に手を添えて

「こういう事です…」

柔らかい唇に自身を重ねる

そこからは熱い吐息と共に呻き声が漏れる

「んっ………将虎君……あっ!あん」

「んっ……はぁ………将虎、将虎って呼んでください」

「……将虎」

「!好きだ!貴方が好きで好きで堪らない!」

「私もです!!」

ぎゅっと二人は抱きしめあって愛を囁き合う

そしてベッドに重なる様に倒れた

「俺、初めてで…」

「ふふ……、一緒ですね」

「ッ!絶対、気持ちよくさせますから!」

「あっ!激しすぎます!将虎!」


「白瀬君?」

「あっ!?はい!!!」

「ッ……ボリューム下げてもらえますか」

「す、すみません」

「ご飯が冷めてしまいますよ?どうかしましたか?」

「あ、いえ、なんでもないです…」

目を逸らしていう

あんな、破廉恥な妄想するなんて

俺はなんて事を…

申し訳なくて見れない

「す、すぐ行きますんで!」

「そうですか。お味噌汁、お豆腐ですよ」

「や、やったー!」

「ふふ、では」

去っていく後ろ姿を見て息を吐く

………暫く立てなさそうだったのは朝のせいだけではなさそうだった







「ではいきますか」

「ズズッ。…どこへ?」

食後のお茶を堪能している時だった

朝食は日本人らしく和食で

焼き鮭とお味噌汁にお漬物、蛤の佃煮と五穀米ご飯だ

幸福で朝から凄かった


美人さんは着替えていて

白いシャツに若草色のカーディガンに白銀の時計

それに白いロングコートを着ていた

お、お洒落!

これが本物かと感じた

自分のTokyo Dog と書かれたシャツが恥ずかしく感じてきた


俺はされるがままに髪を整えられて広くてでかい家を出て、美人さんの運転する高級車の助手席にのって

朝の東京の街を移動していた



はて?どこにいくんだ

疑問が顔に出ていたのか

運転席の美人さんが笑う

「まだ眠いですか?」

「いえ、昨日しっかり寝れ様で平気です」

そうだ。お世話になりっぱなしじゃないか


「あの、今更なんですが、なんでこんな俺に、良くしてもらえるんですか?」

大学の友達が言っていた

美人局には気をつけろ

お前は騙されやすそうだと

まさか、これからヤのつく事務所になんて

その想像に俺は震える

お前は図体ばかり育って中身が残念ね

と母ちゃんに言われたことがある

怖いものは怖いんだよー


「着きました」

「えっ」

「降りてください」

「は、はい」

慌てて降りる

ここは…

来る途中見た立派なビル

ではなく、駅前にありそうなごく普通のビルだった

「さぁ早く」

「はい…」

促されてついていく

ピー

ピー

「チッ」

ガタンッ

「ヒッ」

ドアのセキュリティなのか、カードをかざしても反応せず

美人さんは舌打ちして蹴った

そしたらランプが緑色に光る

中に入るとなかなか綺麗だった

ここはどこなんだ?

でもさっきの様子を見て聞くことはできなかった


「こちらへどうぞ」

「……はい」

ガクブルだった

怖くて手が震える

何が起きるんだ?内臓売れとか、詐欺に加担しろとか、漁船とかほんと勘弁してんろ!おらわるいことしてげねぇんだぁ!

まさか、大学の友人が酒の席で言っていた(俺は飲まなかった)エッチなビデオ(古い)に出演とか?

た、たしかに体つきには自信あっけどもおら、ど、どどど童貞やしそんな、初めてがそんなのなんて、やだなぁ

ちなみに友人が言っていたタチなら五万ウケなら十万ってなんたいね?むずかしかねんおらわからんね



「動かないでください耳なくなりますよ」

「ひゃい!」


気づいたら散髪されていた

チョキチョキと鳴るたびに俺の黒髪が落ちていく

なぜこんなことに?

「……できました」

フゥと首元に乗った髪を吹かれゾクッとした


「移動します」

淡々と告げられる

心なしか、美人さんの態度が冷たい気がする

てか名前、ずっと気になっていたけど

聞くタイミングを失っていた



着いていくと沢山の服が並べられていた

カシャン

カーテンが閉められた

ん?何事なんね?

俺は振り返る


「……はい、はい。こちらは恙無く。なかなか良いですよ。はい、では夕方で、……我儘言わないでくださいお気に入りの酒瓶捨てますよ?………はい、それでは」

スマホで通話していた様だ

こちらを見て微笑んだ

なんか、かっこいい

そんな笑顔だった


「さて、白瀬君」

「はい……あれ、名前」

「昨日洗ったパンツに名前書いてありました」

「あっ!?ほんとかにゃ!?か、母ちゃんに書けって言われてて、あの、好きで書いてなんとちゃちゃくてぇねげて!」

「すみません後半何言ってるかわかりません」

「あぅ。しゅみません」

俺は小さくなる


「それより時間がないので着替えますよ」

「着替え?何でです?」

「何でって、これから宣材写真撮るからです」

「??なぜ?誰の?」

「あなたに決まってます」

「んんん?」

腕を組んで頭を傾けて悩んでいると

Tシャツの裾を美人さんが掴んだ

「な、なにすっとねぇんでか!?」

「時間が押しているんです。こちらだってわざわざプロ雇ってふんですから、はやく」

「意味わかんーー!意味わかんーー!」

抵抗すると意外と力が強く脱がされていく



そして、冒頭へと戻る


「うぅ……グスッ」

「こんな事で泣かないでくださいよ。確かに、無理やりしたのは申し訳ないですが」

真新しい、お洒落な服を着らされた

青いニットに白いラインが入っていて

ズボンはフィット感のあるスポーティなグレーのズボンだった


そして俺は隅で体育座りをして泣いていた

泣かせたせいか、美人さんは申し訳なさそうに背中を撫でてくれている

み、み、み、見られた…

お尻どころか、前まで…

辛すぎる


お嫁に行けない

あれ婿か?


「お願いですから、ね?白瀬君」

俺は僅かに顔を上げてみる

そこには困った様な顔をした美人さんがいる

当たり前か

その顔を見たら、困らせるのはダメだと思った


「………俺は、どうしたら、いいんですか?」

「……これから撮影に向かいます」

「そもそも、よくわからないんですが」

「ん?契約したじゃないですか?」

「けいやく?」

ポカンとして聞き返す

美人さんはそばに置いてあった鞄から一枚の紙をファイルから取り出して見せて来た


…………


!?!?

「あ、あ、あいどるぅ〜!?」

でかい声で読み上げてしまい

慣れたのか美人さんは耳を塞いでいた

「ど、どういうことなね!?」

「昨夜、話したじゃないですか。お金もなくて家もなくてお先真っ暗、都会は怖い。誰か助けって。ですから、なら私が諸々お助けしますのでアイドルになってくださいって言ったら快くサインしてくれました。ほら判子だってあります」

確かに、この字は俺の字で、ハンコも俺の指だった

まっっったく覚えていない

「あの、今からでも断ったり」

「嫌、ですか?」

手を両手で握られ顔を覗かれる

うぅ、良心が痛む!!

美人はズルかねぇ!かぁーかわいかぁんなぁ!



「……」

「どっちみち、学費も住むところもないんですから、諦めてくださいよ」

「ほぇ」

「それとも、退学して実家、帰ります?」

笑顔だったが笑顔じゃなかった

こ、こわい!


「…お願いです。本当に嫌なことさせませんから。助けてくれませんか?」

凭れ掛かるように俺にくっつく美人さん

いい香りがたまらなかった

「………それで、あなたが喜んでくれる、なら」

つい、見栄を張ってしまった


「本当ですか!嬉しい」

ぎゅっと抱きついて来た

う、うわーやべー!



「ではさっさと撮影に向かいます。上の階ですから階段でいいですよね」 

「あっはい」

切り替えはや

「……あの」



「なにか?」

階段下から小ぶりな形のいいお尻を見ながら

ってちがう!

尋ねる

「ここってなんなんですか?あなたは…」

今更のことをやっと尋ねた俺


振り返った美人さん



「ここはシリウスプロダクションです。遅れましたが、私はこういうものです」

スッと名刺を手渡される


………



!?!?

「げ、芸能事務所!?……マルチプロデューサー、最上結弦……さん?」


「はい。これからよろしくお願いしますね」

笑顔で手を差し出され

条件反射で握手した




こうして俺の

波瀾万丈なアイドル活動と恋の物語が始まったのだ














《未完結作品です。今のところ、特に更新予定はありませぬ》


プロフィール


▼白瀬将虎 ♂19

田舎から上京して来た好青年

都会への憧れだけでやってきた素直な体育会系スペックの青年

初っ端騙されて都会人不信となったが大学の友人と仲良くなりなんとか生活できた

ファッションセンスがない

すぐ感動しすぐ泣く

善人

童貞

結弦の手料理が一番好き

普通に馬鹿


▼最上結弦 ♂22

謎の多い人物

将虎をスカウトした人物。多岐に渡る才能がありなんでもこなす美人

お淑やか系腹黒

スパルタで厳しいが真面目な人間には好感を抱き甘くなる

人をダメにする才能がある

金が好き

家事はただの作業だと思っている

秀才

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