神を赦さないと言った救いの神子は巻き戻った人生で婚約者に溺愛されています
金峯蓮華
神を赦さない
救いの神子である私は今朝も礼拝堂で祈っていた。
進むべき方向を間違えようとしているこの国が軌道修正をし、正しい道に戻るように。
そして王太子殿下やその側近方と私の婚約者であるジークハルト様が目を覚ましてくれることを祈り続けていた。
足音が聞こえてきた。誰だろう、こんな時間に礼拝堂に来る人などいないはずなのに。
顔を上げるとこちらに向かってくる人達が見えた。
王太子妃のシャロン様と王太子殿下が側近方を従え近づいてくる。
その中には私の婚約者のジークハルト様の姿もあった。
皆は私の姿を見つけて立ち止まった。
そして王太子殿下の腕に絡まっているシャロン様は私を指差した。
「早く始末して。この救いの神子は偽物よ。救いの神子と偽りこの国を破滅させようとしているわ。この者は本当の救いの神子である私を殺そうとしたのよ」
王太子殿下が冷ややかな声で告げる。
「始末しろ」
その声に反応した、騎士であるジークハルト様が私の腕を掴んだ。
「私は殺そうとなどしておりませんわ。ジーク様、目を覚まして下さいませ。いつまでこの者に惑わされているのですか」
ジークハルト様に向けた私の言葉を受け、シャロン様が叫ぶ。
「私は殺されたかけたのよ。ジークハルト、あなたの婚約者でしょ。私に忠誠を誓うならあなたが始末しなさい」
シャロン様に夢中になった王太子殿下は婚約者とその家族を無実の罪で断罪し、シャロン様を王太子妃にした。
王太子の側近方もシャロン様に危害を加えたという冤罪で自分達の婚約者を次々に断罪している。
いよいよ自分の番かと私は思った。邪魔者は消すつもりだろう。
ジークハルト様とは家が決めた婚約者ではあるが、それなりに心を通わせていた。それなのにシャロン様が現れてからみんなおかしくなってしまった。シャロン様が何かしているはずだ。
私は救いの神子などと呼ばれているが、祈る以外何もできない。
私の力でシャロン様を皆から引き離すことができたらこんなことにはならなかったのに。
何が救いの神子だ。私は自分の無力さに絶望していた。
私が存在し、祈りを捧げていることがこの国を守っていることはここにいる王太子殿下や側近方、そしてジークハルト様も知らない。知っていたのは私だけだ。
いや、シャロン様は知っているのだろう。だからこそ邪魔になる私を消そうとしている。
「ジークハルト何をしているの! この者は悪魔の術で私を殺そうとしてるのよ。早く!」
シャロン様はヒステリックに叫ぶ。
「レティシア、お前には幻滅した。この国や王太子妃を害するのなら消えてもらうしかない。何度も王太子妃に従えと言ったはずだ。あの世で後悔するがいい」
ジークハルト様はそう言い終わると素早く剣を抜き、私を斬り捨てた。
「ジーク様……」
こんなに祈ったのに、神様には届かないのか。
ジークハルト様に私を殺させるなんて。あの女は救いの神子なんかじゃない。
次の救いの神子がいない今、私が消えれば国も滅ぶ。シャロン様はそれが狙いなのか。
シャロン様も神も赦さない。
絶対に赦さない。
そう思いながら私は倒れ息絶えた。
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