22 もう大丈夫

 我慢の限界に達したクレイが渾身の一撃をディオルドさん達目掛け放つ―。


「「「――⁉」」」」

「危ない!」


 放たれたのは先程同様、風の魔法攻撃。

 クレイは風を剣に纏わせると、離れた位置から剣を振る。すると圧縮された風の斬撃がディオルドさん達目掛け飛ばされた。


 それに気付いたティファ―ナが一気に魔力を練り上げ、斬撃を防ごうと水の防御壁を出した。


 ――ザバァァァァァンッ!!!!!

 猛烈な風の斬撃と激流の水の壁が衝突し、激しい音と共に吹き飛んだ水が、辺りに雨となって降り注ぐ。

 両者の繰り出した技は衝突と同時に消え去り、ゲリラ豪雨の様に降り注いだ雨も数秒で止んだ。

 日差しがキラキラと反射し、今の雰囲気とは似つかない虹のアーチが上空に架かった。


「よく防いだなお嬢ちゃん」

「図体ばっかで役に立たないな本当に」

「お前だって何もしてねぇだろ!」


「いつまで人をおちょくれば気が済むんだッ!」


 クレイが凄い剣幕でディオルドさん達を睨みつけた。怒りの収まらないクレイは連続で今と同じ斬撃を繰り出す。いとも簡単に連発しているが、1発1発がかなり強い魔力だぞ。


 放たれた4つの斬撃が、地面を抉りながら再びディオルドさん達に襲い掛かった。


「お嬢ちゃん!半分頼む!」

「分かった!」


 ディオルドさんがティファ―ナにそう言うと、2人は斬撃を食い止めるべく動き出す。


 まるで竜巻の様に唸りながら向かってくる4つの斬撃の柱。左2つを止めるべく、ティファ―ナはさっきよりも魔力を高めた大きく厚い防御壁を出す。


 ディオルドさんも右2つを止めるべく動き出していたが、魔力も刀も抜けない状態であの攻撃を止められるのか⁉


 そう思った矢先、僕のそんな疑心は見事ディオルドに一刀両断された。


 ――ザバァァァァァンッ!!!!!

 ティファ―ナが2つの斬撃を止めたと同時、ディオルドさんは何と鞘のままの刀で対抗した。

 それも向かってくる斬撃にではなく、地面を思い切り斬った?砕いた?どちらと言っていいか分からないが、兎も角ディオルドさんの凄まじい一太刀で地面が大きく割れ、その衝撃で砕けた巨大な地面の塊が宙に浮いた。


「デカ筋!」

「応!」


 間髪入れす、まるで予め作戦を立てていたと言わんばかりの連携で、今度はゴーキンさんが魔法で宙に浮いた塊を瞬時に密集させ、岩山の様な防御壁を作り上げた。


 ――ズガァァァァァンッ!!!!!

 クレイの斬撃は、深くその岩山の壁を抉るも、ディオルドさん達には届かなかった。


「チッ。小賢しい」


 喧嘩する程仲が良いと言うのか。驚く程スムーズな連携だったな。


「よく対応出来たじゃねぇか」

「1人で止められんから俺を頼ったんだろ」

「まぁそれはお互い様だな。どうする?今の俺達じゃアイツ倒せないぞ」

「認めたくないが、そうも言ってられんな」


 クレイの実力に、ディオルドとゴーキンさんも少々困った様子。ヤバい奴だけどやっぱり強いのか。どうすればいい?ティファ―ナでも勝てないのかな?


「う~ん。私かなり強くなったのに、クレイも結構強いね。海なら勝てるのにな~」

「そりゃまたどういう事だ?」

「私人魚族なの!」

「人魚⁉ って事はその姿本物じゃないって事か」

「そう、プロトイズしてるからね」


 このティファ―ナの言葉に、急に大きく肩を落としたディオルドさん。


「ふぅ~。別に差別するわけじゃないけどよ、女の子の、それも年下の人魚族の子で、本来の力を発揮出来ない環境でのこの活躍。自分で言ってて恥ずかしくなるぜ。あまりに情けねぇ話だなぁおい」


 自身への不甲斐なさなのか、大きな溜息をつきながらディオルドさんは徐にそう呟いた。

 顔を伏せ、ガックリと項垂れた数秒後、今度は空を見上げた。落ち込んでいるのかと思ったが、その表情はまるで逆。今までの緊張感のない雰囲気から一変し、ゆっくりとクレイに狙いを定めたその目つきは、僕が初めてディオルドさんと出会った時と同じ、鋭い眼光ながらも安心感を抱く力強い目つきだった。


 何故だろう。僕はそれを見た時、クレイ相手に不利な状況にも関わらず、何となくだが“もう大丈夫”だと思う事が出来たんだ―。


「そこの少年!」


 ディオルドさんはクレイの方を向いていたが、僕の事を呼んだんだと直ぐに分かった。


「は、はい!」

「今の俺は余りに弱く不甲斐ない。年下のお嬢ちゃんに手を貸してもらい、その上彼氏の君にも助けを求めようとしている」

「え?ぼ、僕何かに頼ったら間違いなく死にますよ?」

「どの道このままじゃアイツに勝てねぇ。ただ無駄死にするぐらいなら……最後に俺を助けてくれ。お前のその力でよ」


 こんな状況で笑ってる―。


 今までの怖い顔からは想像できない柔らかい表情。少し口角を上げたディオルドさんのその表情は、何となく思っていたもう大丈夫だという僕の心に、確信に変わる、絶対的信頼感を生ませた。


 こんな顔するのかディオルドさん。ズルいよ。そんな顔で言われたら男の僕でも惚れてしまいそうじゃないか。


 それにディオルドさんの今の口ぶり。きっとそれは、僕の魔力商人の力を知った上で言っているんだね。何を無駄話しているんだと思ったけど、さっきティファ―ナとそんな事を話していたのか。


「ティファ―ナに聞いたと思うけど、僕が渡せるのはほんの少しの魔力。聞いたディオルドさんの刀の話が本当なら、僕の魔力なんて無に等しい。これまでの人生で、あんな奇跡が起こったのはティファ―ナだけなんだ」

「大丈夫。ダメで元々だ。もしお前が助けてくれたのなら、今度は俺がここにいる奴らを守る。約束だ」


 ディオルドさんはそういって僕に手を出してきた。


「ディオルドさん……」


 無意識の内に、僕は差し出されたディオルドさんの手を握っていた―。





――ブワァァァァァンッ!!!









~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

【あとがき】

お読みいただき有り難うございます。

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