15 赤い旗の行方①

 試験官の掛け声で再び皆に緊張感が生まれる。

 一同が揃って試験官の方を見ると、最終試験の内容が説明された。


「泣いても笑っても次が最後の試験だ! 試験内容はサバイバル! この場所から10㎞北へ進んだ場所に谷底がある!そこの崖に突き刺さった赤い旗を手にしたグループ1組は、その場で合格とする!」

「「「――⁉」」」

「勿論、これまでの試験結果で合格者を選ぶが、これは1発逆転のラストチャンス試験だ! よって、! 赤い旗を手にしたグループ1組は合格。早い者勝ちだ!それでは試験開始!」


 開始の合図と同時に、一瞬戸惑いを見せた皆も我先へにと走り始めた。

 しまった。まさか間髪入れずに次が始まるとは……。


「よっしゃ! この勝負俺達が貰った!」


 遠くから大きな声が聞こえた。叫んだその男が魔法で虎の様な召喚獣を出現させると、その男と同じグループと思われる2人も一緒に召喚獣に乗り、凄まじいスピードで森を駆けて行った。


 そういう事ね。だからルールが無しなんだ。赤い旗を手にするだけという究極にシンプルなルールだからこそ、瞬時の決断力や動き出しの瞬発力が物凄く重要なんだこの試験は。


 既に虎に乗ったグループともう1組。

 グループの誰かの魔法だろう。召喚獣と同様、あれは絨毯だろうか?魔法によって出されたその絨毯に乗ると、更に魔法で繰り出された突風で一気に飛んで行ってしまった。


 開始数秒―。

 トップは虎グループと絨毯グループになった。


「チッ!また出遅れたじゃねぇかよ!便利な乗り物ねぇのかこっちは!」


 ゴーキンが焦った様子で物申している。発言から読み取るに、恐らく自身はそういう魔法を持ち合わせていないのだろう。移動用や召喚魔法の使い手はあまり多く存在する訳じゃないから、仕方が無いと言えばそうだ。僕も使えない。


「慌てるなゴーキン。試験官も言っていただろ? ルールは無し。逆を言えば“攻撃”もアリって事だよ」


 クレイさんはその場でいきなり剣を一振りした―。


 ――スゥゥ……ン……。

 その刹那、もう姿が小さくなっていた虎グループと絨毯グループの2組が、いきなり吹き飛んだ。


「「――なッ……⁉⁉」」


 勢いよく進んでいた彼らは、それぞれ虎と絨毯から放り出されてしまった。


 ま、まさか……今のクレイさんが……⁉ こんな離れた位置から一体何をしたんだこの人は!


 100m以上は離れていたであろう。吹き飛ばされ、地面に転がった彼らも状況を理解出来ていない。魔法で出された虎も絨毯も消えてしまっている。


「さぁ行こうか!」

「化け物だなお前……。行くぞ赤髪」

「俺に指図するんじゃねぇ髭ゴリラ」


 クレイさん、ゴーキンさん、ディオルドさんの3人も、赤い旗を目指し北へと向かって走り出した。


「私達も行くよジル。レッツゴー!」


 クレイさん達に続いていくティファ―ナ。こうなったらとことん参加してしまえば良いよ。乱入した君が赤い旗を手にする結末も非常に面白いと思う。まぁそうなったらきっと大問題にはなるけどね。


 暴走するティファ―ナを止められない僕は、せめて面倒を起こさせない為に、ティファ―ナを追いかけることにした。どのグループが旗をてにするかもちょっと気になるし。


 って、クレイさん達早いな!……って、ティファ―ナも早いな!

 これはイカン。とても追いつけない速さの上に、10㎞以上あるって言ったっけ? 他の希望者の人達もそこそこ早くて既に僕がビリ。ダメだ終わった。これはもう無理。追いつけない。


 ティファ―ナ。

 僕は大人しくここで待つ事にするよ。



 ♢♦♢



~3㎞地点~


 先頭グループは既にここにいた。

 さっきクレイさんの攻撃で吹き飛ばされた虎グループの人達。


 彼らはあれから再び虎を召喚して走ったが、思いのほかダメージを受けていたのか、途中で魔力が尽きて虎が消えてしまった。


「すまねぇ……」

「何を謝っているんですか?あなたのお陰て独走状態ですよ!」

「そうよ。まさか一気にトップになれるなんてね。ありがとう!」


 虎グループの3人はそんな会話をしながら走り続けている。その虎グループに続くのは、同じくクレイさんの攻撃を食らった絨毯グループと、別のもう2組のグループ。絨毯グループの人達も大分ダメージがあったのか、絨毯は出せずに自らの足で走っている。


 そしてそこから少し後方。


「――まだ先頭の姿が見えないな」

「大丈夫。そんなに離れていないから、あっという間に追いつくさ」

「赤い旗は絶対に私が手に入れるからね!」

「そうこなくっちゃ!やはりティファ―ナ君は張り合いがあるな」

「つか誰だよこの子⁉」

「そうか、紹介がまだだったね。この子はティファ―ナ君だ!」

「よろしく!」

「いや、そういう事じゃねぇ!他のグループの奴か?」

「違う!ティファ―ナ君はジル君とデートの最中なのさ。実力がありそうだったから勝負してみたくなったんだ」

「……もう意味が分からねぇからいいや」


 2㎞地点に早くもクレイさん達の姿が確認出来た。当然の如くティファ―ナも一緒。


 ん?

 何で僕が今その“状況”を確認出来ているかって? 追いかける事を諦めた僕がここにいるのは確かに不思議だよね。


「――落ちない様にしっかり捕まっているんだぞ」

「はい!“乗せて”頂いてありがとうございます!」


 そう。

 僕は今、試験官さんの召喚獣に乗って、空を優雅に飛んでいる―。


「今までにこんな事はないが、“見学”したいという強い君の気持に免じて、今回は特別だ」

「本当にありがとうございます!この貴重な経験を絶対に活かしてみせます!」

「どの道あんな所に置いていく訳にもいかなかったからな」

「ハハハハ……」


 優しい騎士団の人達で良かった……。





 時は遡る事数分前―。

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