12 騎士団入団試験
「――うわ!何だあれ⁉」
思わずそう声が出た。だって、スライムぐらいしか出ない静かなこの森に、人が大勢いる! 数百人は優にいるぞ。しかも皆何かと戦っているっぽい。何のモンスターだアレは……見た事ないな。ってか、人もそのモンスターも凄い数入れ乱れてるなぁおい!
なになに⁉ 何が起こってるのコレは。
「うわ~、盛り上がってるね!楽しそう!お祭りかな?」
絶対にそれは違うよティファ―ナ!
逆にコレを見てよくその発想が出て来たな。
何か分からないけど、コレはそんなお祝いとか和やかな祭りの雰囲気じゃなくて、もっと禍々しい生気に満ちた決闘の様な雰囲気を感じるぞ。
「うらぁぁ!!」
「狩って狩って狩りまくれ!」
「そっちにも行ったぞ!」
「遅れをとるな!」
「まとめて倒せ!」
こんな森の奥で何をやっているんだこの人達は。さっきの男の人達もそうだったけど、皆やっぱり剣や武器を持っているな。それにあっちにいる2人、あの人達だけは動いていないし、1人は何か魔法を出してる? ひょっとしてアレは召喚魔法か? って事は、この見た事ないモンスターはあの人の召喚獣だ。
「やべぇ出遅れた」
「大丈夫!こういう時こそ冷静に行こう」
「何甘ったれた事言ってんだ。さっさと倒すぞ」
さっきの3人組の人達……あの人達もやっぱりコレの参加者?なのかな。
「戦えない奴が“騎士団”など笑わせる」
「テメェ目ん玉付いてんのか?十分戦ってるだろうがよ」
「だからこんな時に揉めるなって!」
騎士団……?
そっか。ひょっとしてコレ、騎士団の“入団試験”なのか?
だとすれば色々辻褄が合うぞ。皆が武器を持っているのも、こんな森の奥で戦っているのも全部。あそこで動いていないのは現役の騎士団員だ。
この入団試験の担当者だから何も動いていないんだ。大量にいるモンスターも騎士団員の人が試験用に出していたのか。納得だ。
じゃあこの3人組の人達も騎士団への入団希望者達か。何故さっきから険悪なムードかは分からないけど、さっきからの話を察するに、皆今だけそれそれグループ分けでもされているのかな。それであのモンスターを多く討伐する為に、遅れをとるなとか他の人よりも早く倒そうとしているんだきっと。
仲裁に入ってる男の人が言う様に、今は喧嘩なんかしてる場合じゃないと僕も思うよ……。余計なお世話だけど、少し心配になっちゃう。
だけど入団試験を行っていると分かった以上、僕達も撤退だ。危なすぎる。
こんなのいつ巻き込まれても可笑しくないからね。
「ティファ―ナ!危ないから僕達はもう行こう」
「えー。何か凄い盛り上がってるのに」
「これは騎士団の入団試験だよきっと。僕達がいたら邪魔になって迷惑だよ」
「そっか~残念。私も参加したいな……してもいいかな?あのモンスター私も倒せるよ!」
「ダメだってば!帰るよもう」
好奇心旺盛過ぎて困るなホントに。自分も参加しようなんて何ともまぁアグレッシブな性格だ。今更だけどね。
兎に角、皆の邪魔にならない様に帰らなく……「ジル危ない!」
――え?
僕が振り向くと、そこにはこれまた獰猛そうな召喚獣がいましたとさ。
めでたしめでたし。
『グゥゥゥッ!』
……とはいかないだろッ!! 何がめでたしめでたしだッ!! 滅茶苦茶僕の事睨んで威嚇してるじゃん!どーすんのもう!
「ジルから離れなさい!」
ティファ―ナが魔力を練り上げ、攻撃魔法を繰り出そうとしている。
ありがとうティファ―ナ。早く助けて下さい。急な事に僕は腰を抜かして動けません。情けない話です。
――ボゴォン!!!
「まず1匹……」
僕の目の前にいる召喚獣を倒したのはティファ―ナ……ではなく、3人組の中の1人の男の人だった。
「あ、ありがとうございます」
「大丈夫か?お前入団希望者じゃないよな。こんな所にいると危ねぇぞ」
鋭い眼光。だが、どこか優しくもあり強さも感じられる、安心感のある目つき。目にかかるぐらいの髪の長さに、深紅の赤髪を靡かせながらその人は僕に言った。
手には召喚獣を倒したと思われる剣が握られている。よく見ると、その剣は鞘に収まったままだった。
「おい!急にどこ行くんだよお前!やる気あんのか?」
3人組の1人。先程からこの赤髪の人と揉めていた人が僕達の方に向かって言った。かなりガタイが良い。それに加え、無造作に伸びた髪と髭が一層ワイルドさを醸し出している。
「もういい加減にしろ!今はそんな事よりも試験に集中するんだ!このままだと3人共受からないぞ!」
止めに入ったのは3人組の最後の1人。黒髪に爽やかな顔が印象的な人。誰にでも受けそうな和やかな雰囲気で如何にも誠実そうだ。こんな状況にも関わらず他の人の喧嘩を止め、まとめようとしている。周りから頼りにされそうな彼は、リーダーに向いているタイプだと思う。
「ああ。お前より遥かにな」
「いちいち癇に障る野郎だな」
「俺に突っかかる暇がるならさっさと倒せよデカブツ」
「あ"ぁ?どこまで舐めてんだこのガキ!召喚獣の前にテメェを葬ってやらぁ‼」
一触即発。試験を無視して、赤髪の人とワイルドな人は今にもやり合いそうだ。
「――何度言えば分かるんだ」
ゾゾッ……!!
「「――⁉」」
何だ。何だこの背筋が凍るような冷たい空気は……。この人、雰囲気が明らかに一変したぞ。
威勢の良かったワイルドな人も急に大人しくなってる。
「“ディオルド”、“ゴーキン”。僕も別に仲良しごっこをしろとは言っている訳じゃない。この組み合わせも今だけだ。これはあらゆる事態を想定し、柔軟に対応出来るかどうかというただのテスト。ただ召喚獣を多く倒すだけならスリーマンセルを組ます意味がない。少しは冷静に考えたらどうだ」
やっぱりこの人は自然と人をまとめる事が出来る人なんだな。ディオルドとゴーキンと呼ばれた2人も落ち着いたみたいだし。
「ふぅ。確かにそうだな。すまなかった“クレイ”」
「分かってくれたならいい。ディオルドもいいよな?」
「……ああ」
「よし。そうと決まれば僕達も早く倒しまくろう!大分出遅れたぞ」
「おいおい!今さっきスリーマンセルがどうとかうんちく垂れたくせに結局数かよ」
「スリーマンセルを組ませたのは、きっと連携や協調性といった部分も見る為だろう。しかし、召喚獣を倒しまくって試験に落ちる事は絶対に無い。もっとシンプルに言うなら、どんな勝負でも負けたくない!僕が1番多く倒す!」
「なッ⁉ 何て勝手な奴だ! しかもホントに行っちまった……クソッ! 俺も負けてられねぇ!」
黒髪の爽やかな人はどうやらクレイと言う名前らしい。
そしてガタイのいいワイルドな人がゴーキンで、赤髪の人がディオルド。
よく分からないけど、何か話はまとまったみたいだから僕達もこの場を離れよう。
「ティファ―ナ行くよ!」
「OK!」
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