プロローグ

00 裏切りの追放

~異世“海”~


 この異世界の海の総称を異世“海”と呼び、そんな異世海でも危険度が高いと知られる“バビロン海域”に俺はいた。


 船に乗り、港を出てから早3日が経つ。

 危険だと言われる海域に入ったが今の所下級モンスターの1匹も出やしねぇ。


 豪雨と潮風に煽られながら、荒れ狂う波を乗り越える……なんて事も想像していたがそれもない。多少風が強く船が揺れる事もあるが全然普通だ。


 ――ギッ……ギッ……ギッ……ギッ……!


 木の軋む音が船内のどこからか聞こえる。船がどっか損傷しているんじゃないかって? 大丈夫、それは無い。船も俺達もダメージを負うような航海はしていないからな。


 だってこの音は――。






「あッ、あんッ……ダメっ……ねぇ……ッ!」


 ――ギッ……ギッ……ギッ……ギッ……!


「ダメとか言って自分で腰振ってんじゃねぇか」

「そ、んな風に言わないでよッ……あッ……んんッ……ダ、ダメッ……イクぅ!」


 もう分かっただろ?

 軋む音の原因はコレ。だから心配は一切ない。あ~、何もやる気しなくなってきた。このまま寝ようかなぁ……。


「――ラウギリッ! “奴”が現れたぞッ!」

「何⁉」


 騒々しく開けられた扉の音とその声で、俺の眠気は一気に吹き飛んだ。


「やっと出やがったか、勿体ぶり過ぎなんだよ。皆! 奴を仕留めるぞ!」

「「おおぉぉッ!!」」


 俺は剣を手に取り船内から船首へと走って向かった。他の仲間達もやる気満々。早くも戦闘態勢に入ってる。俺達が見つめる視線の先……そこには3日間も待ちわびた今回の討伐クエスト獲物、“海王・リヴァイアサン”の姿が――。


「準備はいいかお前ら! コイツを仕留めて俺達“フレイムナイツ”の名を更に上げるぞッ!」


 俺は気合いを入れて皆の士気をより高めた。


 おっと、そういえばもう戦闘間近だが俺の事を言っていなかったな。


 俺の名前は『ラウギリ・フェアレーター』

 冒険者であり職種は【剣士】だ。剣術と火属性の魔法が得意でフレイムナイツというギルドのマスターもやってる。


 俺とギルドメンバーは全部で9人。

 その中でも幼馴染みの『ラミア・ガルシリ』、『エミリー・ショワール』、そして『ジル・インフィニート』はフレイムナイツ創設メンバーだ。


 ちなみに、ラミアはさっき俺の上で腰振ってた女な。


 俺達は強い――。


 その証拠に、俺達フレイムナイツは15歳のパーティ結成時から僅か1年で仲間も増え、自分達でギルドを創設するまでに至った。ただのパーティとこのギルド創設には大きな差がある。


 一般的には冒険者ギルドでクエストを受注し、成功したら報酬を受け取る。冒険者ギルドにはクエストが山ほどあるから選び放題だし面倒な手続きも最低限で済む。


 しかし自分達でギルドを創設すれば面倒な手続きは勿論、クエスト依頼依頼も自分達で探さないといけないし、ギルドには何かと金も掛かるから資金調達に経営までもしなくちゃならねぇ。


 確かに大変ではあるがデメリットだけじゃない。


 実力と名声が上がればクエスト依頼は自然と集まるし、冒険者ギルドを通すと取られる手数料がないから成功報酬も全て自分達の懐に入ってくる。それに有名になれば女も寄ってくるしな。勿論ラミアには内緒だけど。


 まぁ、そんなこんなで俺はもっと有名になって、金も女も富も名声も、欲しい物全てを手に入れてぇ!

 

 だから俺はこのフレイムナイツをもっともっと有名にして、異世界一の最強ギルドを築き上げてやる。


 お前もその踏み台となれ、海王リヴァイアサン――!


 ♢♦♢


「ふぅ~、何とか倒したわね」

「動かないな。仕留めたか?」


 今まで討伐してきたモンスターの中で、リヴァイアサンは確かに1番手強かった。だが、そのリヴァイアサンも俺達の視線の先で、全く動く気配無くその巨体を海面に浮かべていた。


「やっと倒せた!」

「よっしゃー! これでまた俺達の名が広まるぞ!」


 見事リヴァイアサンを討伐した俺達は喜んだ。メンバーの皆は“フレイムナイツの名”が広まることを嬉しがっている。それは俺も嬉しい。だが俺はあくまで“俺の名”が広まればそれでいい。


 悪いが命を懸けて危険を冒しているのは最前線で戦っている俺のみ。


 【剣士】の俺は常に最前線。


 ラミアは【魔法使い】で中距離から攻撃するし、エミリーは【ガンナー】だから完全に長距離。


 他にも【タンク】は一応攻撃防いでくれてるからまぁ使い道あるし、【ヒーラー】も攻撃力は全くねぇけど回復魔法は重要。


 残りの【料理人】と【鍛冶師】と【建設】は戦闘時はまるでお荷物だし、基本クエストは同行せずギルドにいるのが仕事だけど。生活やら武器の手入れやらで何かといてくれたら便利な奴らだから“雑用係”はやっぱ外せない。


 皆それなりに頑張ってくれてるから別に文句はねぇ。

 

 ただ1人を除いて……。



「――お疲れ様!やっぱ強いねラウギリは!」


 俺にそう声を掛けてきたコイツはさっき話した幼馴染みの1人、『ジル・インフィニート』


 今回のクエストは、俺、ラミア、エミリー、タンクの男とヒーラーの女、そしてコイツ……【商人】のジル。この6人で討伐に来ていた。


 パーティを組んだばかりの頃はタンクの男とヒーラーの女を除いた、俺達幼馴染みでよくクエストを受けていたのだが、商人のコイツは基本戦力外。タンクとヒーラーが入ってからは基本この5人でクエストを受けている。


 自分に戦闘能力がない事は本人も自覚しているからか、一応パーティの頃から金の管理や資金やクエストの調達を担当していた。


 最初の頃は雑用全部コイツ1人でやっていたし、俺に盾突く訳でも害がある訳でもねぇから、まぁいてくれたら楽な便利屋みたいな存在だったが、残念ながらそれも“ここまで”だ。


「ラミアもエミリーもお疲れ様!これでも飲んで少し休んでよ」

「……どうも。あんたは楽でいいわねホント」

「そうそう!戦わなくてもいいんだからね」

「ゴメンね。でも僕は、戦えない代わりに皆のサポートをするからさ、“出来る事は何でも”言ってよ!」

「じゃあ“出ていけ”――」


 俺の言葉で会話が止まった。


 ちゃんと聞こえなかったのか、ジルもタンクもヒーラーも今いちピンときてねぇ面だな。分かった。もう1度はっきり言ってやるよ。


「ジル、お前はもう要らねぇ。このフレイムナイツからお前を追放する!」

「――⁉」


 ここまではっきり言ったのに、ジルの野郎は目を見開いたまま現実を受けきれていない。


「キャハハッ! そういう事だからねジル、あんたともこれでお別れ!」

「やっと目障りな奴が消えて清々するわ」


 状況がまるで理解出来てねぇ。まぁ無理もない。俺に急に追放とか言われた挙句、ラミアとエミリーにまで要らないと言われているんだから。


ジル、お前の事だから何の疑いもなく「何で?」って思ってるよな。


「な、何で? 急にどうしたの皆……? ハハ、嫌だなぁ、冗談やめてよ」

「ジル。今俺達が言った通りだ。お前はもう必要ない。要らねぇんだ。冗談でも悪戯でもない。お前は今日限りでクビだ! 分かったな」


 ジルもさることながら、タンクとヒーラーも驚いてる。そりゃそうか。これを知ってたのは俺とラミアとエミリーだけ。いつまでも仲良しこよしの幼馴染みだと思ってんのはテメェだけなんだよジル!


「そっ、そんなッ、どうしていきなり⁉ 嘘だよねラウギリ! ラミアもエミリーもッ! 僕達ずっと一緒に頑張ってきたのにッ……どうして⁉」

「それが鬱陶しいのよアンタは! 何が一緒に頑張ってきたよ。 アンタ何もしてないでしょうが!」

「むしろ今日まで見捨てられなかった事に感謝してくれる?」

「――⁉」


 最強を目指すのに邪魔なお荷物は捨てるのみ。


「そう言う事だ。出来る事は何でもって自分で言っただろ。ならここから出て行ってくれ。それが一番皆の役に立つサポートだ」

「何その被害者面! マジでキモイんだけど!」

「アンタみたいな無能の商人じゃ稼ぎが足りないのよ」


 当たり前だが、商人の仕事は“利益”を生み出す事。


「ジル、戦闘力がない事は最早どうでもいい。それぞれ得手不得手があるからな。だが、お前は自分で商人を名乗っているにも関わらず何だ?この利益の少なさは。

1回で大量の金を稼いでこいとは言ってねぇ。トップクラスのギルドともなれば【商人】や【経営】のスキルを持つ奴らは戦闘員と同じぐらい重宝される存在だ。何をするにしても資金は重要だからな。なのにお前のその無能さときたら……。


最強のギルドを目指してる俺の邪魔をするなッ! 腹が立ってしょうがねぇッ!

“魔力商人”なんて聞いたことがないスキルだからどれだけレアなもんかといざ蓋を開けてみれば、何も出来ないゴミスキルじゃねぇか!


今までそれで何が出来た⁉ モンスターを1体でも倒したか? 豪華な飯が食える様な利益を生み出したか?  あ"ぁ?

誰もお前を仲間だなんて思ってねぇんだよ! いつまでも友達面してるお前を見る度虫唾が走るわッ!」


 今まで溜まりに溜まってたもんを全部吐き出した。


 清々しい。流石の馬鹿ジルもここまで言えば分かるか。たかがギルド追放されただけでこの世の終わりみたいな顔しやがって。まぁいい、取り敢えずこれで大人しくなったし、港に戻ったらそこでお前ともおさらばだ。


 さて、気分転換に1発ラミアでも抱いとくかッ『――ギギィィィッ!』


「――何だ⁉」

「急に波がっ……!」


 一瞬、目の前の光景を疑った。


 急に波が荒れ、それが原因で船が大きく揺れたのかと思ったが、その考えが違うという事をすぐさま理解させられた。


「リヴァイアサン」


 船が揺れた原因……それは倒したと思ったリヴァイアサンが再び動き出したから。


「ヤバい、全員武器を取れぇ!」


 俺の言葉に反応した皆も直ぐに戦闘態勢へ入った。しかし、さっきの戦いで皆体力も魔力も限界に近づいていた。ここで再びコイツとやり合うのは分が悪い。


「ラミア、エミリー! 今回は一旦引くぞ! 死んだら元も子もねぇ!」

「賛成! 命には代えられないわ。逃げるのが最優先!」

「でもこの状況で逃げ切れるの⁉ 」


 俺はラミアとエミリーに作戦を伝えた。


「OK! もうそれしかないわ」

「魔力練るから援護宜よろしくね」


 この状況を乗り切るにはこれしかない。作戦を聞いたラミアとエミリーが動き出す。


 俺も俺の役割を果たすとしよう。


「ジル! 危険だから俺の近くへ来い!」

「えっ……⁉  あ、うんっ!」


 さっきあれだけ言った俺を、この期に及んでまだ信じてるのか? だからお前は要らねぇんだよ。


 じゃあな。


「ッ⁉」


 ――ドボンッ!

 俺はジルを海へ投げ飛ばした。


 間髪入れず、俺はリヴァイアサンの顔面に攻撃魔法を放った。威力は無いが視界を奪うには十分。


 そして今の攻撃を合図に、エミリーが残りの魔力を全部使い渾身の魔力砲を海面にぶっ放す。その勢いでロケットの様に船が飛んでいき、瞬く間に数百メートル以上奴から距離を取る事が出来た。リヴァイアサンはまだ顔に食らった衝撃と爆破の煙で俺達を捉えていない。そこから更にラミアも全魔力を使い、更に数百メートル船を移動させた。


 2人共もう限界。だが作戦は笑える程上手くいった。奴の姿はもうかなり小さく見える。それに奴は今やっと攻撃態勢に入ったみたいだ。


 勿論、リヴァイアサンが向いているのは俺達じゃなく、直ぐ近くで溺れた様に藻掻いている“ジル”だがな。


 これで何もかも終わりだ。俺達が逃げる為の囮になってくれてありがとう。役立たずのお前でも、最後の最後で俺の為になって良かったな。

 

 あばよ。


 俺はこんな所でやられねぇ!

 俺はこの異世界で最強のギルドを築き上げるんだ!

 これはそんな俺の、異世界最強を目指す成り上がりストーリー!!
























 …………………………ではなく、


 これは、たった今ギルド追放された挙句に海に突き落とされた【商人】の僕、『ジル・インフィニート』の物語だ――。











~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

【あとがき】

お読みいただき有り難うございます。

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