第243話 不穏な同窓会?

 夕食は以前と同じバイキングだった。

 ウィリアム兄がセリーナさんに同行して、料理をとったり足下に注意したりする姿がいつもの雰囲気と違ってなかなか良い。


 あと皆さん貴族なのに割とガチで取る料理を選んでいるように感じる。

 我が父ジョフローワ・トレビ・シックルード伯爵も例外ではない。

 

「一般的なフェリーデ料理とはかなり違うものが多いな」


「ウィラード領や北方・東方の料理が多いようです。ウィラード領直営でそうした料理や特産物を研究・調査・開発する施設を設けていて、領内の施設や商会へはそこからレシピや食材の提供を受けています。ここの料理もそうしたものが多いそうです」


 この辺の説明は前回クレアさん、いやクレア領主代行に教わったものだ。


「なるほど、領の活性化の為にそういった事まで行っている訳か。今までになかった試みだな」


 感心しつつ、さらに料理を確認している父を置いて僕は自分達のテーブルへ。

 ローラは既に戻ってきていた。


「やはりここの料理は面白いですし美味しそうです。寒い季節になった為か、温かい煮込み料理が増えたように感じます」


 そう言っているローラが取ってきたもののメインは、キノコと根菜類メインのクリームシチュー。

 いかにもローラが好みそうな料理で、ぶれないなと感じる。

 まあ僕もサケだのワカサギだの中心で、やっぱりいつもと変わらないのだけれど。


「素材そのものはそれほど前と変わらないかな。料理の種類は入れ替わっているけれど」


「重点的に使う素材はある程度固定されているのでしょう。入手しやすい、領内で扱いやすい等の理由で。

 これだけ料理の種類があれば、それで充分だと思います。国内の素材も使えるのですから」


 なるほど、確かにそうかもしれない。

 それは現在の皆様の様子を見ればわかる。


「確かにそうだな。現にみなさん、高級料理を食べ慣れている筈なのに興味津々という感じだしさ」


「気持ちはわかります。貴族外交でパーティ慣れすると高級料理に飽きてしまうんです。何処のパーティや舞踏会でも開催者の面子があるので質を競います。ですから結果として似たような高級料理ばかりとなってしまうんです」


 なるほど、そういう事もある訳か。

 貴族外交はローラに任せきりだから知らなかった。


「あとは御兄様方、楽しそうですね」


「同窓会みたいなものだろ。元々この結婚式はそういう企画だったようだしさ」


 御兄様方というのは僕とローラ以外の友人枠の皆さん。具体的には、

  ダーリントン伯夫妻、ジェームス氏夫妻、アンブロシア・イザベラ・ローチルド領主代行、カール、そしてうちのウィリアム兄とセリーナさん

というメンバーだ。

 現在は空いているテーブルに取ってきた料理を並べて話し込んでいる。


「そう言えばあとでジェームス義兄さんと話したい事があったんだ。夕食後でも明日朝でもいいからアポとって貰っていいかな」


 僕自身が行って頼んでもいい。

 でもローラに頼んだ方がマルケット子爵が警戒しないだろう。


「わかりました。夕食が終わる前に話しておきます」


「ありがとう。頼む」


 マルケット子爵が言っていた、スティルマン領との話はついているというのを確かめておく必要がある。

 あとマルケット領の動向等についても。


 さて、最初に取ってきた料理については僕もローラも概ね食べ終わった。

 僕自身はこれでほぼお腹いっぱいだが、ローラは僕より食べる。

 だからここはこう行動しておこう。


「それじゃそろそろ次の料理を取りに行こうか」


「そうですね。一緒に行きましょうか」


「ああ」


 2人での行動の方が安全だ。

 妙な話題で話しかけられないという意味で。


 ◇◇◇


 その後同窓会テーブルから流れてきたカールと話をしたり、父が取ってきすぎて苦労しているのを手伝った後。

 夕食を終えてロビーへと戻ってきた。


 なおジェームス氏との話し合いについては、ローラがこう伝えてくれた。

「今夜は御兄様方が集まって話し合いをするそうです。ですので明日の朝7の鐘に約束してきました」

 

 陰謀の反省会でもするのだろうか。

 微妙に怖い内容になりそうだ。


 さて、ロビーには号外の他、夕方に発行される新聞が追加されていた。

 早速一番新しく詳しそうなのを手に取ってみる。


 ○ ローチルド家の結婚式及び第三騎士団視察に行啓する予定だったアルガスト皇太子夫妻、及び結婚式に同行予定のエッティルー第二王子殿下が乗車予定だった騎士団車両が襲撃された。


 ○ 乗車直前に襲撃情報があった為、騎士団車両は無人、ダミーゴーレム等のみで運行し、襲撃を受けた。


 ○ 襲撃したのは親衛騎士団部隊150名で、出動した第一騎士団により全員拘束された。発表によると死者はなし。負傷者は親衛騎士団53名。第一騎士団8名。


 ○ アルガスト皇太子殿下は会見を開き、『背景に10月に実施された貴族人事に不満を持つ勢力による扇動があった』と発表した。

   また事実関係の調査及び証拠保存の為、親衛騎士団長シンプローン公爵以下親衛騎士団幹部60名以上を時間停止魔法により拘束した事も明らかにした。


 ○ 行啓予定だったアルガスト皇太子殿下、及び随行予定であったフェーライナ参謀総長は予定を取りやめた。第三騎士団視察は後日に改めて実施される予定。


 内容はこんな感じだ。

 僕の予想ではこの事案はきっと『予定通りに発生』したのだろう。

 2年前のジェームス氏暗殺未遂事件と同じで。


 いや、あれより更に計画的な気がする。

 ローチルド家の結婚式で皇太子殿下、第二王子殿下、改革派であるフェーライナ伯の3名がまとめて動くという、守旧派にとっては絶好の襲撃機会としか思えない場をわざわざ作ったのだ。


 わざと作った機会なら、事前情報の収集もそれなりに計画的に出来ただろう。

 幾つかの情報を並行的に流し、漏れている場所を突き止める事によって敵側の人員をあぶり出すとか。

 襲撃の事前計画を入手するのも簡単とは言えないだろうが、全く何もない所から探るよりはよっぽど楽だ。

 一般には知られていない諜報戦用の魔法なんてのもあるらしいし。


 ふと思い出す。


『他にも第一騎士団の輸送・展開訓練や軍務卿であるアルガスト殿下の新生第三騎士団巡視。更には新しい時代が来つつある事に気づいていない一部貴族の皆さんへのデモンストレーションなんて目的を詰め込んでいるようだけれどね』


 ウィリアム兄が言っていたデモンストレーションとは、この事件の事を意味していたのだろうか。

 確認できる機会は無いだろうけれど。

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