第27章 夏休み前
第106話 キットの新情報
またキットが新たな情報を仕入れてきた。
「今度はマシオーア領とマルケット領を繋ぐ鉄道か」
キットは頷く。
「ええ。これは新聞情報になります。あと、ついでに現在マシオーア領で運行している鉄道についての報告書も入手してきました」
「ありがとう。じっくり読ませて貰おう。この資料はあとでキットの処へ戻せばいいか?」
「ええ、それでお願いします」
渡された資料は地方新聞2紙と、王立研究所発行の報告書。
しかしキットはこの資料をどうやって入手したのだろう。
ここ最近はずっと出社していた筈なのに。
いつもながら謎だよな。
そう思いつつ、キットが商会長室から退室した後、これらの資料をじっくり確認してみる。
まずは新聞、マシオーア新報とマルケット週報の2紙だ。
マシオーア新報はあの馬車鉄道もどきが開通した時にも読んだな。
そう思いながら目を通す。
一面に『新時代の交通機関! 第二街道を走る』とある。
見出しから路面鉄道なのかと思って読んでみると、路面では無く専用軌道だ。
どうやら第二街道沿いを走るという事を言いたいらしい。
既に走っているという訳では無い。
これから工事にとりかかるという事のようだ。
区間はマシオーア領ゴルメスからマルケット領ドロイディカまで。
ゴルメスはマシオーア領の南東端の街で、以前訪れたエルダスから南東
ドロイディアはマルケット領最北部の街で、
いずれも第二街道沿いだ。
つまりこの路線は第二街道沿いにマシオーア領とマルケット領を縦断する形になっている。
総延長は
王都から北部まで海岸沿いに結ぶ、第二街道に沿った鉄道か。
これはなかなか面倒な事になるかもしれない。
現在、国の中部から北部へ運送は船かゴーレム車を使用している。
船は最新鋭のゴーレム船でも時速
ゴーレム車は天候にそこまで左右されず、長距離でも時速
この路線が完成し技術水準がうちのシックルード本線並と仮定。その場合、鉄道がある区間は2~3時間程度で、一度に
運賃水準さえ適正なら、中部以南から北部への輸送の覇権を握ることが可能だ。
ただこの新聞にはこれ以上の記載がなかった。
もう1紙、マルケット週報の方も同様だ。
ならという事で王立研究所発行の報告書を見てみる。
こちらの内容はマシオーア領ザクレスからエルダスに至る鉄道について。
つまり以前僕が乗った、あの馬車鉄道もどきだ。
読んでみるとあの鉄道、僕が乗った時よりかなり進化したようだ。
馬車鉄道ではなくゴーレム機関車で牽くタイプの鉄道になっている。
線路の規格はうちの本線規格と同様。
つまり
機関車はうちのクモ401と同じ猫型ゴーレム仕様だが、ゴーレムや機関車の大きさがうちのものより遙かに大きい。
クモ401は森林鉄道規格で作ったが、向こうは本線規格で作っている。
その差だろうか。
それとも他に何か僕が気付かない何らかの方法論を使っているのだろうか。
これならそこそこ出力がありそうだ。
うちの回転式ゴーレムほどではないだろうけれど。
現物を見に行きたいがやめておこう。
間違いなく背後におそらくマリウム商会、そしてマールヴァイス商会がいるだろうから。
それにしてもこの路線は……
どうしても国内縦断鉄道、なんてのを考えてしまう。
勿論今の段階ではそこまで行かない。
第二街道に沿ってこれ以上鉄路を伸ばすには他の領地を通らなければならないからだ。
スティルマン伯爵家、ダーリントン伯爵家、ハドソン伯爵家、そして王都周辺の国王直轄領。
だからここから先はそう簡単に進まないだろう。
それでもガナーヴィンからバンドンまで第二街道経由で行く経路の半分以上に達している。
物流の流れが間違いなく変わる。
レティシア姉のところ、ハンティントン子爵家はどう出るだろう。
そんな事を考える。
ハンティントン子爵家は第六街道の行き来を活発化するためアルコ峠のトンネル掘削を目論んでいた。
峠の反対側の領主、ブローダス子爵家とも話をつけてある様だった。
冬に部下を視察に寄越した後、音沙汰はないけれど。
もしハンティントン子爵家が第六街道沿いに鉄道を敷設するつもりならば。
そしてトンネルの先、ブローダス子爵領まで通す話をつけられるなら。
スティルマン領ガナーヴィンからブローダス領南端のパロチャージまで第六街道沿いに一気に路線を敷設できるかもしれない。
そうすればガナーヴィンから王都バンドンまでの7割をカバーできる。
北部と中部の輸送という面では今度出来る第二街道沿いの鉄道より優位に立てる筈だ。
しかしまだ今のところそういう話はない。
でもそういった事態に備えて準備はしておこう。
シックルード本線以上の長距離に対応した、より高速で走れる線路施設や車両等を。
駅間も遠距離になるので意思伝達の為に、キットが開発中の通信装置も必要になるだろう。
僕の方から各関係領主に話を持って行くつもりもない。
領主家相手に僕の方から工作を仕掛けるつもりもない。
今のところはあくまで研究開発をして技術的準備をしておくだけ。
そして現在、北部大洋鉄道商会の方には他にもやるべき事はある。
まずは観光開発。
海水浴場、ロト山ハイキングコース、ラングランド大滝ハイキングコース。
これらが7月に揃って営業開始となる。
臨時列車も運転される予定だ。
更にシックルード領内とスティルマン領内にそれぞれ2路線ずつ残っている、ローカル線計画の準備なんてのもある。
これら4本のローカル線は冬頃に開業予定だ。
まもなく計画路線部分の土地収用が終わるかなという段階。
土地収用と工事は各領主家の手配だが、こちらも車両や安全設備、人員等を準備しておく必要がある。
宅配便を含めた運輸事業も路線開通と同時に展開予定なので、そちらの方の準備も。
個人的には夏休みの御嬢様方来襲なんてのも本決まりとなった。
招待状も実家経由で送付済み。
他には森林公社のラングランド開発なんてのも進んでいる。
石灰石鉱山は徐々に採掘場所を拡大しているし、森林開発・整備事業が動き始めたなんてのもある。
木材資源の搬出は森林をある程度整備してからになるけれども。
何もなく基本的に順調なのは鉄鉱山くらいだろうか。
こちらはようやく定員を充足し、最盛期と同様の採掘作業が始まったところだ。
いずれにせよ、真面目に報告や決裁をやっていると結構忙しい。
一応商会内や公社等の体制を変え、部下への業務移譲範囲を増やして、僕の仕事が減るようにはしているのだけれども。
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