第24章 観光客で収入増加?

第94話 観光開発の妄想

 春休み第一弾の日帰り旅行は上手く行ったようだ。

 帰り、スウォンジーに向かう急行列車の中でそんな事を僕は思う。


 メッサーへ行く途中にある高い橋の上から見る景色。

 これはローラだけでなくパトリシアも喜んでくれた。


「これって何度も此処を往復してみたくなるよね」


「そうですね。昼だけでなく夜、灯りがついた頃の景色も見てみたいです」


 そんな感じで。


 また訪れたメッサーの街も良い感じだった。

 ほどよく田舎で、でも割と活気がある。

 特に高級な店なんてのは無いが、入った食堂で出た魚メインの料理も美味しかった。

 市場で美味しそうな魚を買うことが出来たのも良かった。


 ただ僕が一番記憶に残っているのはメッサーの砂浜で2人と話した内容だ。


「山ばかりの場所で育ったからかな。こういう海辺って楽しいよね。砂浜でのんびり海を見ているだけでも何かいいなって感じるもの。

 夏で暑い時期だと此処で泳いだり出来るのかな」


「ガナーヴィンも昔はもう少し浜が残っていて、夏にはそこで涼む人もいたみたいです。ただ私の記憶がある頃にはもうほとんどの海岸が埋め立てられてしまっていました。だから私自身は見た事がありません。


 ただ確かに夏にこんな浜で水に入ったりのんびりしたりするのは楽しいかもしれない、そう感じます」


 勿論僕がこんなやりとりで思いついたのは海水浴。

 そして海水浴を含めた観光需要だ。


 この世界は21世紀日本と比べ交通手段が発達していない。

 高価でそのくせ決して速くないゴーレム車か、比較的安価だけれどとんでもなく遅い船か。


 だから観光旅行なんて概念も一般的ではない。

 金持ちが夏や冬に避暑、避寒旅行に行くくらいで。

 そもそも一般人は歩いて行ける範囲しか移動しない。

 それが普通だ。


 しかし此処には鉄道がある。

 既に山の中のスウォンジーから湖岸のガナーヴィンまで鉄道が運行している。

 そしてもうすぐもっと山奥のラングランドや湾内とは言え海沿いのメッサーまで開通予定。


 この鉄道を観光にも活用出来ないだろうか。

 スキーはまだ無理でもハイキングや海水・湖水浴なんてのは需要を開発できないだろうか。


 本当は今すぐにもローラとその辺りについて話し合いたい。

 しかし今日は歩き回ったり列車を乗り継いだりで少々疲れている模様。

 ローラだけでなくパトリシアも寝てしまっている。

 行きと同様、座席を向かい合わせにして窓側に2人、通路側に僕と荷物という感じで配置しているから問題はないけれども。


 焦る事は無い。

 明日はラングランドの森林鉄道に行く予定だ。

 そこで海や湖側だけでなく山側の観光についても聞いてみればいいかもしれない。


 でもラングランドはまだ開発を始めたばかり。

 やや遠いし観光には適さないかな。

 ならハイキングもまずは近場、ロト山あたりが無難だろうか。

 あそこならそれなりに人も入っているし。


 少し観光開発について考えてみよう。


 まずは海水浴から。

 場所はやはりメッサーがいいだろう。

 湖より水が綺麗だし。

 

 ただ少し距離が気になる。

 ナム駅からメッサー北駅までは、ジェスタ西駅からハリコフ駅までとそう変わらない距離だ。


 しかし列車を今乗っている本線急行並みの速度で走らせれば、モレスビー港駅から半時間30分程度で着けるだろう。

 何ならシックルード領内から専用直通急行なんて出してもいい。


 現地には整備された浜辺と海の家が必要だろう。

 あとプールなんてのを作ってもいいかもしれない。

 着替える場所や食事をする施設なんてのも欲しいところだ。


 だいたい海の方についてはイメージが出来た。

 次はハイキングの方だ。


 場所はやはりロト山だろう。

 西側にガナーヴィンや湖、更に海まで広がる景色が楽しめる筈だ。


 観光ロープウェイかケーブルカーなんてのも是非作りたい。

 うちの商会で技術が確立しているのはケーブルカーの方。

 だからまずはそっちだな。


 散策路やビジターセンター、休憩所や食事処なんてのも整備が必要だ。

 でも鉄道路線を新たに10離20km増やすのよりは楽だろう。

 既にアクセスする鉄道駅はある事だし。

  

 観光地が出来たらお土産物も必要だろう。

 キーホルダーとかもいいし、その場所の食べ物なんてのも欲しい。

 地名を書いたペナントとか地名の焼き印を押した木刀なんてのはどうだろう。

 案外受けるかもしれない。


 開発してお金が回る話なら、領主家にとっても悪くはない筈だ。

 ローラやパトリシアと話して、何なら領主代行のところへ話を持ち込んでもいいだろう。


 スティルマン領の開発ばかりだと陰謀お兄様ウィリアムが拗ねるかもしれない。

 なら森林鉄道の体験乗車会なんてのを企画してもいい。

 ガナーヴィンから専用列車を仕立てて、車内で特製お弁当を食べるなんてのを含めた体験型旅行ツアーにしてもいいかも。


 うまく行けば定期的に開催してもいい。

 ついでにシックルード領の名産品なんてのもお土産につけて。


 ひょっとしたら森林鉄道の体験乗車会でこの世界にも鉄が増えるかもしれないな。

 ならば鉄向けに鉄道車両のパンフレットを作ってもいい。

 北部大洋鉄道商会の全車両のイラストと性能表記付きで。

 

 うむ、これは一般用というより僕が欲しい。

 私費で作ってみていいだろうか。

 需要があるかどうかは別として

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