第18章 ガナーヴィンの鉄道化
第69話 領主代行2名の不審行動
港直結のモレスビー港駅で、ダコタ=ナム貨物線への乗り入れや、車輪付コンテナによる貨物搬入をささっと見学。
「この車輪付コンテナはガナーヴィンのフォーデン・ゴーレム車製造所で開発されたものです。これとガナーヴィン市内の鉄道網を使用する事によって、市内どの場所にも1時間半以内で荷物を搬送する事が可能となります」
「それは身体強化魔法を使用しての値ですか? そして所要時間の内訳は?」
その質問は想定内だ。
「無論身体強化していれば楽ですが、身体強化無しでも通常の人力リアカーを引っ張れる方なら同じ要領で動かす事が可能です。
所要時間は
○ 荷物発送元から貨物を載せる駅まで
○ 列車の待ち時間を
○ 目的地直近の駅まで鉄道でかかる時間を、この路線で最も時間がかかりそうなダコタ港駅~クリークタワー下駅まで、乗換まで計算して約
○ クリークタワー下駅から目的地まで
と計算しました。
あくまでこれは最大所要時間で計算したので、実際はより短い時間で運べるものと思われます」
「費用はどれくらいかかるのかな」
「人だけでしたら
○ 路面鉄道線やダコタ=ナム線は
○ スティルマン領内なら最大で
○ シックルード領内まで行っても最大で
となります。
貨物でしたら大きさにもよりますが、先程の車輪付コンテナでしたら運搬担当者の運賃を含み、この料金の5倍となります」
「このコンテナは最大どれくらいの重量まで大丈夫かね」
「概ね
それより重い場合は大型コンテナや貨車貸切等の用意もございます。貨車貸切の場合は路面列車路線の場合は
また人、貨物どちらの運賃も試験実施期間中はスティルマン伯爵の御好意により割引補助があります。概ね半額から7割程度の運賃で利用できる予定です。
12月7日から人及び貨物の輸送試験を実施いたします。試験実施期間はやや列車本数が少なくてご迷惑をかけますが、この機会に是非一度鉄道による移動及び運送をお試しいただければと存じます」
日本の鉄道貨物は速達性と利便性でトラック便に敗北した。
だから此処ではそれらがゴーレム車に劣らない事をアピールする。
それにしても我ながらよく言葉が出てくるよなと思う。
勿論主要部分は昨日頑張って暗記したのだけれども。
「それでは御質問が無ければ車両に戻ります。座席の向きが変わっておりますのでお気をつけ下さい。
また席にはお弁当とお茶が用意してございます。ハリコフを過ぎると地上に出て車窓の風景が楽しめるようになります。またグスタカール高原を上る途中にガナーヴィンと湖が一望できる場所を通過致します」
なお復路にはおやつも用意している。
本当はシンカンセンスゴイカタイアイスにしたかったがご老人も多いし甘党以外も多そうなので変更。
ぬれ煎餅と石炭かりんとうだ。
勿論ぬれ煎餅は銚子電鉄風濃い味で、かりんとうは京都鉄道博物館風味である。
この辺は僕の前世の記憶を元にブルーベルに尽力して貰った。
石炭はこの世界にはないので、大量に作るなら別名を考える必要がある。
まあその気はいまのところ無いけれど。
列車に戻る。
シートは今度の進行方向向きへと倒され、テーブルが出された状態。
テーブルには特製弁当、窓際には汽車土瓶が置かれている。
「それでは発車いたします。なおトイレは後方、扉を開けた先左側にございます。個室で1室しかございませんのでよろしくお願いいたします」
これで僕のお仕事は一段落だ。
案内という事で確保した先頭の1人席から運転席側、つまり前方向の展望を楽しませて貰う。
思ったより早くトンネル出口が見えて来た。
出てすぐ先程通ったハリコフ駅の反対側ホームを通り、車両基地の横を過ぎてガナーヴィンの街の外へ。
この辺りは基本的には湿地帯だ。
しかも水に塩分を含んでいる。
その為育てられるのは一部の米や野菜類程度。
しかも地盤が悪いので実際はそれらすら栽培される事は少ない。
土属性魔法使いを集団運用すればある程度固い地盤を作る事は出来る。
まさにそうやって出来たのがガナーヴィンという街だ。
しかしそうやって地盤を固めると作物を育てるには適さなくなる。
そういう意味では難しい場所なのだなと思う。
ジェームス氏の『弱い街』という意味がよくわかる。
さて、それはともかくとして弁当を食べるとしよう。
今回も森林公社の一番電車巡視で得た副産物? をメインに使っている筈だ。
蓋を開けて、そして思う。
さてはブルーベル、
まず握り寿司8個。
うち4個は鹿肉の生で、残り4個は山マスの生。
いやこの香りは山マスの酢締めだろうか。
ワサビ醤油もどきのソースをつけて、まずは鹿肉の握りから。
うむ、見た目通りの美味しさだ。
次は山マスの方、うん、こちらはやはり酢締めだ。
違う方向性なのだがこちらも美味しい。
他におかずはミニカツ、ドミグラスソース風の味で煮た牛肉、卵焼き。
一応ニンジンとサヤインゲンも付け合わせ程度には入れてある。
しかしメインは肉と魚だ。
何と言うか、微妙に胃腸に優しくない感じがする。
ただ来賓のほとんどは男性。
そしてこの国の偉い男性、高齢であってもタフな輩が多い。
試乗会にまで来るような連中はほぼ間違いなくそうだ。
だからこの肉々しい弁当はきっと正解。
魔法でさっと車内を確認したが、皆さん美味しそうに食べている。
肉食のジェームス氏はどうだろう。
予想以上だ。
弁当、もうほとんど残っていない。
そう言えばジェームス氏、うちのウィリアム兄と同じく健啖家だった。
一応この弁当、そこそこ多めだけれど足りただろうか。
そう思ったらウィリアム兄が立ち上がって、ジェームス氏の方へ。
なにやらこそこそ会話した後、後方の車両へと向かう。
弁当は当然予備を持ってきているし、ウィリアム兄はその事を知っている。
そして後ろの車両にスタッフとしている連中は当然ウィリアムの事をご存じだ。
だいたい弁当を作ったブルーベル自身、元は実家のキッチンメイド。
まさか……そう思いつつ、2人の動向を魔法で追う。
やはりウィリアム、ブルーベルから弁当をせびりやがった。
それもジェームス氏の分を含めて2つ。
こちらへ戻ってくると弁当2個目がバレる。
そう思ってか、2人とも向こうの空いているシートに並んで居座った。
どうやらそこで追加分の弁当を食べる模様。
奴ら、妙に仲がいい。
ひょっとして今回の話より前から知り合いだったのだろうか。
なら僕の知らぬ間に裏で話が進みまくっていた事も頷ける。
どうやら僕は貴族年鑑で奴ら2人の関係をしっかり調べるべきだったようだ。
今となってはもう遅いけれども。
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