第16章 近郊路線の営業開始
第61話 帰領後の御仕事
ローラの家、つまりスティルマン伯爵家には予定通り2泊3日滞在した。
勿論婚約も正式決定した。
あと土産の森林鉄道名物は特にジェームス氏に大変喜ばれた。
どうやら奴を懐柔するには肉があればいいらしい。
さて、それはともかくとしてだ。
帰領したらやるべき事がある。
裏切り者の始末だ。
とりあえず帰った後、改めて実家に赴く。
報告ついでに愚痴を少々言わせてもらうつもりで。
まずは悪の根源、ウィリアム領主代行から。
婚約成立等の報告をした後、攻撃開始。
「僕の知らない間に随分と話を進めていたんですね」
「リチャードは鉄鉱山再建と近郊鉄道、更に鉄道公社で忙しいようだったからね。それにスティルマン家関係については全部任せると言われていたしさ」
駄目だ、口で僕がウィリアムに勝てる訳は無い。
腕力ではもっと勝てると思わないけれど。
忙しさと現状逃避でスティルマン家関係を全権委任していたのも事実だし。
「それに婚約成立を含め、何一つリチャードにとって悪い話ではないだろう。違うかい?」
その通りなのが癪に障る。
それに
『何ならリチャード、今からでもいいからお互いの立場を交換しないかい?』
あの冗談にしては凶悪な台詞の衝撃は未だに残っている。
だからまあ、文句もこの程度までという事で執務室から退散。
父はそこまで悪に関与していないようなので報告だけ。
次の
リビングで本を読んでいるところを捕まえる。
「ローラの件、最初からこういう話だったとは聞いていなかったぞ」
「私はそう言ったつもりだけれど。それにローラ、いい
概して男性は女性に口で勝てないように出来ている。
事実、婚約が成立してしまっただけに何も言えない。
結果的には何一つ文句を言えないまま、実家から撤退。
仕方ない、このやるせない思いは仕事にぶちまけよう。
マルキス君が操縦するゴーレム車の中から星空を見ながら思う。
久しぶりに森林鉄道の一番列車に乗って巡視も悪くない。
しかし今は晴れている。
あれは雨の翌日に行くのが正しい。
ならガナーヴィンで新たに出来た課題を工房でぶちまけよう。
路面鉄道とかコンテナシステムとか。
そんな訳で翌日、午前中は真面目にお仕事。
ガナーヴィンに行っていた間にたまっていた決裁書類等を処理。
ついでに鉄鉱山から来ていた専決書類も決裁。
そう、僕はまだ鉱山長併任のままなのだ。
立て直しで僕がやるべき事はほぼ終わり、ほとんどの事は現幹部に任せてはいるけれども。
そして午後。
僕は予定通り工房に顔を出す。
「あ、公社長。婚約おめでとうございます」
いきなりマリオ君にそんな事を言われた。
どうやら僕の個人情報は平工房員にまで流れているようだ。
「誰だそんな情報を流した奴は」
「既定事項だろう。今更問題は無い」
どうやらカールの模様だ。
何せこいつは見学会での話を一通り聞いている。
事情は知っている筈だ。
しかしこういった事を公に話すという事は今までなかった。
何故だ、心変わりしたか?
「昨日、領役所経由で領主代行名義の文書が来ましてね。リチャード公社長の婚約と工房や運輸部の今後の独立商会化、スティルマン領への進出についての説明があったんです。こういう事情で組織が変わるし業務も増えるがよろしく頼む的な感じで」
キットの説明で状況を把握。
あの
何というかもう勘弁してほしい。
「それで新たな課題を持ってきたのだろう。早く出せ」
何だかな、そう思いつつ僕はガナーヴィンの宿屋で描いた路面鉄道の資料、更に書き込み入りガナーヴィンの地図等の資料を出す。
「更に新たな形態の自走客車も作る事となった。道路上を運行するのに適した形の車両だ。これは……」
ガナーヴィンの交通上の問題点からはじめて、
「なるほど。簡素な乗降施設からも乗り降り出来て、ゴーレム車と同等以上の加減速性能を持つ自走客車か。確かに都市内交通として便利だろう」
「路線の予定はその地図の通りだ。若干変化するかもしれない。何せ道路上に作るから普通の鉄道のようにはいかないだろう。急カーブと急こう配にある程度対処できるように作ってくれ」
カールとキットは地図と資料に目を通す。
「この道路では両方の端に線路を敷設すると思っていいんですね」
「ああ。道路の両端に線路を敷設する形だ」
キットに僕はそう返答。いわゆるダブルサイドリザベーションと呼ばれる形式だ。日本だと札幌市電の狸小路駅付近がこんな感じだな。
「この街はゴーレム車の駐車問題があるんですよね。それなのに大丈夫ですか、端一車線を線路用にして」
「ああ。むしろ駐車させない措置という意味もある。向こうの領主代行の案だ。
路面鉄道は市街地の渋滞対策という意味も大きい。これでゴーレム車の路上駐車を減らすつもりだそうだ」
「なるほどね。そして他の道路もそうすると曲がりきれない場所があるから、東西方向は敷設する道路を変えていると」
キットは納得した模様。
そして次はカールが口を開く。
「この計画では専用の自走客車に貨物列車を連結するようだ。しかし貨物が多くなるとこれでは対処しきれないと思うが」
「貨物運搬専用の車両については需要を見て判断だ。何時でも作れるようにしておいてくれれば助かる」
「理解した」
「あとこれでゴーレム車が減ったらガナーヴィンの工房が困りませんか。下手したら反対運動くらいやられそうですけれど」
「コンテナとその周辺機器類については仕様を公開して一般の工房に作らせる予定だ。工房の仕事が増えればそういった文句は出ないだろう」
問題点はほぼ考慮済みだという自信がある。
2泊3日の間、結構話し合ったのだ。
あまりジェームス氏との話が長いとローラがむくれるので、途中お出かけしてお勧めの店に行ったり、遊覧船に乗ったりもしたのだけれども。
※ リザベーション ダブルサイドリザベーション
リザベーションとは路面電車の準専用軌道として、道路と路面電車の軌道敷の境界部をカラー舗装や段差等で区切り、線路を敷設するもの。非常時以外には一般の自動車は軌道内に進入できない。
サイドリザベーションはこの準専用軌道を道路端に寄せて敷設しているもの。利用者にとっては歩道から直接軌道交通に乗降可能で便利。このサイドリザベーションの対義語はセンターリザベーションで、道路中央に準専用軌道を敷設する方式。
ダブルサイドリザベーションとは複線の線路を、それぞれ道路の両端に準専用軌道として敷設したもの。利用者にとっては利便性が高いが、車両が駐車・停車しにくい、または出来ない為にあまり普及していない。
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