第27話 次の発展案

 森林公社は新体制になった。

 鉄道の運行は従来のゴーレム車による運搬や製鉄場高炉のケーブルカーと統合した運輸部へ移行。

 工房からも主任2名と係員3名が異動した。


「1年以内には戻して下さいよ」


「わかっている。何とかする」


 カールの奴がそう安請け合いする。

 しかし何とかするのはカールではなく僕の仕事だ。

 仕方がないので運輸部長である元陸運部長のクロッカーと、運輸部副長に就任した元水運部副長のミルカに後で根回しをしておこう。


 ただ人が足りない事には戻す事も出来ない。

 だから領役場や国王庁商務局、更には各学校にも求人依頼を出しておく。

 ゴーレム操縦が可能な魔法使いを少しでも確保する為に。


 給与をはじめとした待遇面ではこの国トップクラスと自負している。

 しかしいかんせん田舎の職場で知名度も無い。

 こういう時、ふと鉄鉱山の事を思い出してしまう。

 鉄鉱山あっちは長年の採用の蓄積でそれなりにゴーレム操縦者がいるから。


 ただ羨ましがっていても仕方ない。

 増えるまでは何とか工夫して凌ぐしか無いのだ。


 そんな折り、ようやく新機関車が出来上がった。


 今度の新機関車は今までの凸型ではなく箱形。

 動力のゴーレムを目一杯大きくした結果こうなった。

 

 デザインは箱形なら大井川鐵道井川線DD20形や黒部峡谷鉄道のEDV形かDD形あたりをするのが正しいのだろう。

 今までの流れ的に。


 しかし今回はあえて前面デザインを湘南型に似た2枚窓構成にしてみた。

 気分的にはEF58形電気機関車。

 しかし電気や空調関係が無いから屋根が低くすっきりしている。

 更に少し細面なので何と言うか独特だ。


 強いて言えば三岐鉄道北勢線で使っている200系に似た感じだろうか。

 それともトミーテックの猫屋線のキハかな。

 どちらとも塗色はかなり違うけれども。 


 その塗色は前面の下半分がクリーム色で、他は側面を含め赤色。

 要はEF58形・新型直流電機標準色の、青色部分が赤色になった状態。

 他の車両との統一という関係でこうなった。


 この機関車のメリットはこんな感じだ。

  ➀ 操縦者の視界さえ確保出来ればどちらが進行方向でも運行可能

  ② 今までの機関車と比較して10倍以上の出力


 ➀により前後区別無く使用可能で転車台の必要が無い。

 また編成が短く先頭の機関車から後ろ方向の視界が確保可能なら、機関車が1両でも推進運転で運行可能。


 ②によりフィドル川出合から港まで行くメインの貨物列車の編成両数を更に増やす事が出来る。

 しかも機関車と反対側に運転台とブレーキ制御レバーがついた制御客車をつければ機関車1両でも問題無い。

 更に今までのように港で機関車を付け替えたりしなくてもいい。


 この制御客車、外見は前後が新型機関車と全く同じデザインで、横方向は中央に扉、その左右に2枚ずつ幅広の窓がある形。

 ゴーレムがない代わりに客室があって人が乗れる。


 客室の座席配置は山側を進行方向とした場合の右側が2人掛け、左側が1人掛け、中央が通路兼補助席。

 これが8列で、更に乗せたい時は前の助士席、後ろの操縦席と助士席を使える。

 つまり操縦者以外35名が着席可能。


 なお扉は中央の1箇所だけで、客室と前後運転室の境に壁はない。

 基本的にうちの従業員を乗せる予定だからこれでいいのだ。


「ただこの機関車、慣れるまでは前のより難しいですね。自分の目で見て、ゴーレムを操作する形ですから。ゴーレムの操作感もかなり違いますし」


「ああ、運転訓練がそれなりに必要だろう。今週は本線貨物列車と続行運転で訓練走行、来週から投入だな」


 なお、これで本線貨物列車が新型に入れ替わっても次がある。

 朝の会議で伐採部長から次の要望を受けているのだ。


「ゴーレム操縦者の余裕が出来、運送可能量も増えたら資源管理する森林を更に増やす予定だ。フィドル川支線延長、フィドル川出合と石灰石鉱山の間の支線敷設要望がある」


 今までは水運で運べる量が伐採する限度量となっていた。

 最近はそれすら水運で運べなくなっていたけれども。

 しかし鉄道運送化で運送可能量が多くなり、また安定化した。

 だから今まで以上に伐採する範囲を広くしたいそうだ。


「なら支線用の小型機関車を作ってもいいだろう。フィドル川出合やライル河川港、資材置き場で貨車の入れ替えをするにもちょうどいい。短編成用、または平坦な操車場用なら出力がここまでなくてもいい」


 つまり入替用機関車か。

 ならやはりこのデザインだろう。


「ならこんなのはどうだ。運転席は横向きについているタイプだ」


 今までの機関車と同じ凸型で、運転席を横方向に向け配置した図を描く。


「なるほど、左右に動く感覚で前後に動かせる訳か。悪くない。これは全長4腕8mにする必要はないんだな」


「長距離の列車運送を考えないからな。短い方が都合がいい」


「わかった。あと何ならこういうのはどうだ。ゴーレムと操縦室付きの貨車だ」


 カールがさっと絵を描く。

 なるほど、電動貨車みたいなものか。

 京急の黄色い電車とか阪神201・202形、 叡山電鉄のデト1000形、近鉄のモト90のようなタイプだな。

 確かにそれも便利だろう。


「確かにいいな。運転台を片方にすればぎりぎり3腕6mの規格丸太も積める。でもこれで出力は確保出来るのか」


「これでも今の機関車の2倍以上だ。問題は無い」


「運輸部と伐採部に希望調査しておきましょう。路線の敷設希望と新型機関車についてですね。明日には紙にしてそれぞれ副長に連絡しておきます」


 なら僕が根回しする必要はない。

 本来、僕は人相手の折衝や根回し等は得意ではない。

 鉄道の為にやっているだけだ。

 キットがやってくれるなら楽でいい。


※ 湘南顔

  湘南顔とは鉄道車両の前面デザインの一種。運転室に上半分をやや斜めに傾けて2枚の大窓を配置したもの。元祖は1950年に登場した国鉄のモハ80系。

  この時代の鉄道車両デザインに流行りまくり、電車だけで無くディーゼルカー、機関車までこのデザインを採用した車両が続出した。本文中に出てくるEF58形電気機関車もその1つ。

  

※ 電動貨車

  今回の場合は運転台がついていて自走可能な貨車の事。京急の黄色い電車(デト11・12形)、阪神201・202形、 叡山電鉄のデト1000形、近鉄のモト90形はいずれも無蓋車に電車っぽい運転室をつけた形状。

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