【短編】格闘ゲームの世界に巻き込まれた私を、誰か助けてください!

上下左右

プロローグ ~『急激な眠気』~


『サクラ~、また告白されたんでしょ。しかもサッカー部のエース、下田先輩』

『ええ~、いいなぁ。でもサクラのことだから断ったんでしょ?』

『みたいよ。私たちに譲って欲しいよねぇ』

『ねぇ~』


 霧島桜はスマホのチャットツールを眺めながら、溜息を漏らす。彼女は誰もが認める美女だった。絹のような滑らかな黒髪と、雪のような白磁の肌、腰はキュッと絞られているのに、胸だけは大きい。


 さらに性格も温和で親切。両親は会社を経営しているお嬢様だ。部活動の女子バスケでは全国大会に出場し、勉学では全国模試一位の秀才である。


 これでモテないはずがない。高校では千年に一人の美女と評され、告白された回数も千を超えた。


 だが彼女は誰とも恋人になろうとしない。かぐや姫より難攻不落だと、大袈裟に語る者までいる始末だ。


(好きでもない人と恋人になるのは無理ですよ)


 桜は周囲の評判に反し、自分のことを平凡な少女だと思い込んでいた。だから恋人にも特別を望まない。容姿も勉学も運動も普通で構わないのだ。


 ただ恋人にするなら心から好きだと思える相手が良い。サッカー部のエースでも、面識のない相手と恋人になるのはお断りだ。


『私の事より、皆さんはどうなのですか?』

『それなら私の話をきいてよ~。実は彼氏と喧嘩して……』


 グループチャットが友人の恋バナで盛り上がっていく。日常の些細な問題を解決するため、皆で相談に乗ってあげる。


(仲直りできるように応援してあげましょう)


 友達には幸せになって欲しい。そう願いながら、チャットを打ち込もうとした瞬間、画面に見覚えのないアプリがインストールされていることに気づく。


(なんでしょう、これ……)


 アプリ名は《格ゲー世界》。見覚えどころか聞いたことすらないアプリだ。


(起動するのはさすがに危ないですよね)


 機械には疎い桜でも、最低限のネットリテラシーはある。


(今日はもう眠いですし、明日の朝、知っている人がいないか聞いてみましょう……)


 意識が朦朧とするほどの眠気に襲われ、欠伸を漏らす。幸いにも今はベッドの上だ。本能に逆らわず、そのまま瞼を閉じるのだった。


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