第6話
「やあ、こんにちは。待たせてしまいました?」
「いえ、ちょっと早く着いちゃったので」
先週と同じカフェで、今度は私が先に待っていた。
かなり早い時間に来たけど、笹倉さんは待ち合わせの時間よりも二十分も早く現れた。時間にルーズでないのはあの人とは違う。でも悪びれずに笑いながら近付いてくるのは……。
私ったら何考えてるんだろう。
「柴岡さん、コーヒーはブラックが好きなんですか?」
「ええ。甘い飲み物は苦手で。笹倉さんのは今日もすごく甘そうですね」
「あはは。よく動き回る仕事だから、甘い物が欲しくなるんです」
「大変なお仕事ですね。私が頼んでおいてあれなんですけど」
「でもやりがいのある仕事ですよ」
そう言って力こぶを見せてくれるのは、きっと彼の癖なんだろう。
歯を見せて笑うのが少年のようだ。
最初は私よりも少し年上だと思っていたけれど、もしかしたらちょうど同じくらいの歳なのかもしれない。
「調査の進展具合ですが」
「はい」
「津田さんと思われる人が見つかりました」
「!」
「と言ってもご本人が見つかったわけではなくて、十年ほど前に特徴が似ている人がいたという事なんですが」
「はい」
「柴岡さんのお話とは少し違うところもありますので、もう少し詳しく調べてからご報告しますね。今日は途中経過で、簡単ですが僕も一応がんばってるぞって報告に来ました」
「そうですか。ふふ。ありがとうございます」
「来週の報告を楽しみにしていてくださいね」
笹倉さんは軽く手を振ってから私に背を向けた。
来週がくるのが、とても楽しみです。
呟いた声は彼に届いただろうか。
けれど一週間後、笹倉さんは来なかった。
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