第51話 俺にかかっていた魅了の魔法

俺のイージスシステムのスキルのおかげで冒険者達と第5波もしのいだ時、思わぬ人と再会した。


それは殺したいほど憎んでいた筈の、あのクリスだった。


「私は剣聖のジョブを持っています! 私も街の防衛に参加させてください!」


「ク、クリス……」


クリスは俺達冒険者団を前に大声で言った。


当然、俺にも聞こえた。


そしてクリスの目に俺が入ったようだ。


「アル? アルなの? あ、会いたかったぁ! 私、必死に探してたんだよ!」


「俺を殺すためにだろ?」


「えっ? アル? 一体、何を言ってるの?」


俺の怒声に気がついて、アリーとリーゼが俺に声をかけてくる。


「アル君、知り合い?」


「ご主人様……なんか声が怖いよ」


それはそうだろう。


殺したい。


そう思っていたヤツが目の前に現れたんだから。


「クリス、助かるよ。自分から姿を現してくれるとはな……今……殺してやる!」


「な、なんで? アル、どうしたの?」


とぼけやがって。


本当は俺を殺すために近づいて来たくせに。


「ちょっと、アル君! おかしいよ。アル君がおかしいよ」


「アリーさんの言う通りです。ご主人様らしくない」


俺らしくない?


何を言ってるんだ?


俺が何のためにひたすらレベルを上げてきたのか?


全てはクリスに復讐するためだ。


俺は収納魔法からすらりと聖剣を抜いた。


「今、その首を刎ねてやる。せいぜいあがくんだな!」


「う、嘘よ! アルがそんなこと考えるとかおかしいよ!」


「おかしくないさ。人は変わる。俺はお前に裏切られて、違う人間になったんだ!」


クリスは俺の剣気に圧されたのか震えている。


「アル君! やめて! 変だよ!」


「そうです! ご主人様はおかしい!」


何もおかしくない。


俺を裏切り、俺を殺そうとしたクリス。


殺して当然だ。


俺は。


チン


と鞘から刀を指で弾くと。


不知火流一の太刀。


紫電一閃


『陽炎』


クリスの首を刎ねるため、切りかかった。


だが。


俺は刀を振り切れなかった。


刀身はクリスの首の皮1枚一歩手前のところで止まっている。


「何故だ! 何故俺は殺せないんだ! こんなに憎いのに!」


クリスは呆然としているが、涙は見せていない。


俺の唯一の弱点。


女の子の涙を見た訳でもないのに、何故?


「それはお前の本心ではないからじゃ」


「し、師匠?」


忽然とそこに現れたのは、俺の師匠、魔王アルベルティーナだった。


「アル、お前に話していないことが一つあってな。お前には『魅了』の魔法がかかっている」


「み、魅了?」


魅了の魔法とは人の心を操る外道の魔法。


使った者は厳しく罰せられる。


「アル、お前はおかしいとは思わないのか? 話を聞く限り、お前の幼馴染は本当にあの堕ちた勇者にお前を殺すように言ったのかな? どこに証拠がある? 勇者の言葉しか論拠はないではないか? お前はあのクズ勇者を信じて、幼馴染は信じられないのか?」


「えっ?」


確かにクリスがエルヴィンに俺を殺すよう頼んだというのはエルヴィンの言葉だけだ。


だが、俺はどうしてもクリスを信じられなかった。


「……だけど、俺はクリスが信じられない。憎い」


「そ、そんな……アルが……アルが」


「そなた、安心しろ。今、魅了の魔法を解いてやる」


「あ、あなたはあの時の?」


クリスと師匠が知り合い?


俺は次々と起こることに、ただ驚くばかりだった。


そして師匠は俺の前でディスペルの魔法を唱えた。


すると。


「……あ、ああ。お、俺は」


俺は思わず膝を折り、地面に手をついて泣き出してしまった。


そうだ。クリスが俺を裏切る筈がない。


なんでそんな簡単なことがわからなかったんだ?


師匠の言う通りだ。


クリスがエルヴィンに俺を殺すよう願ったのはヤツから聞いただけだ。


そんなのどこに信じるところがある?


ヤツの言うことなんて信じられない。


だけどクリスは。


実際、クリスは俺を探しにやって来てくれた。


「ク、クリス。ごめん。俺、とんでもないことを思っていたよ」


「アル? いつものアルなのね!」


俺は愛しいクリスを抱きしめたい。


ただ、ただそう思い。前へ進もうとした。


だが。


「へぇ?」


何故か両方の腕を誰かが引っ張っている。


見ると右腕はアリー、左腕はリーゼが引っ張っていた。


「あの、アリー、リーゼ、何するの? 俺、幼馴染で恋人のクリスのそばに早く行きたいんだけど?」


だが、アリーもリーゼも一向に腕を離してくれない。


「なんで? アリー? リーゼ?」


「なんで? なんでアル君に幼馴染の恋人なんているのかな? 私、聞いてないよ? 私のことはどうするつもりなの?」


は?


何言ってんのアリー?


「そうです。私の心をこんなにぐちゃぐちゃにしておいて責任とってくれないんですか?」


え?


リーゼ、何言ってんの?


責任って、アリーはヤラせてくれなかったし、リーゼだってやらせくれないじゃん。


だが、二人の言葉を聞くとクリスがジリジリと俺のそばに来て。


「アル、これはどういうことなのかな? 私という者がいながらこの子達は何?」


「た、ただの友達と性奴隷だよ。やましいところなんてぇ……ひぃ!!」


クリスが怖いよう。ガクガクぶるぶる。


目が闇落ちしたアリーみたいだった。


「アル君、わたしに一発ヤラせてって言ったわよね? 私はいいよって言ったわよね?」


「いや、あれは……」


あれは未遂だろ?


「リーゼはご主人様の性奴隷でしょ? 私のことどうするの? 私の心はもうご主人様のモノよ。私のことどうしてもいいのよ。だから、今日の夜……にでも」


いや、ちょっと待て。


俺はとんでもない事態に陥ったような気がするぞ。


はっ!?


気がつくと、クリスがもう目の前に迫っていた。


やだ、怖いでち。


「たった1ヶ月の間姿を消したかと思えば浮気かぁ!! 村一番の美人の幼馴染の私という者がありながら、浮気かぁ!! フツメンのクセに生意気よぉ!!」


ドッコっん!!


と言う音と共に俺が空に舞い上がっていた。


クリスに凄いアッパーカット食らって空を飛んでいることに気がついた。


俺、どうしよう?

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