第46話 スタンピード発生

俺とリーゼはいい感じになったけど、惜しいところで下心が出てしまった。


いや、最初から下心があった訳じゃなくて、あれは全て俺の本心だったんだけど。


ほんと、俺って女の子の涙に弱いのな。女嫌いの筈なのに。


「ご主人様、早く起きるのです」


リーゼは何故か俺を毎日起こしに来るようになった。


それに、特に貴族達の刺客とかもなかった。


まあ、例の男から聞き出した情報でアリーが牽制してくれてるからだろう。


アリーは顛末を聞いて酷く憤慨していた。


まあ、女の子にはとうてい許せる話じゃないな。


何よりリーゼが奴隷にされてしまったのは学園の子弟がやはり関与しているようだ。


そのうちケリをつけておかんとな。


そしてアリーがリーゼの実家に話をつけてくれるそうだ。


リーゼが貴族の娘だと証明されれば、奴隷から元の貴族に戻れる。


それまでに合意ある一発やっとかんとな。


俺、色々損しすぎてるような気がする。


「リーゼ、ちょっと待って、スライムを回収するから」


「まったくご主人様は、一体この子達はなんなんですか? ロリコンは顔を見ればわかりますけど、さらったりしてはいけないのです」


「勘違いしないでくれよ。俺、そんな趣味ないし、この子達は召喚魔のスライムなんだ」


リーゼは胡散臭げに俺とスライム達を見る。


しかし。


「本当ですよ。私達スライムですよ。私はアイリスです」


「私はアル様の2号さんのベティです」


「私はプリーストのクララです」


「私はアル様の4号デリカです」


「アル様の2号さん?」


ヤバイ、リーゼがベティの2号さん発言に気がついてしまった。


全く、この子はなんでこんなに愛らしいのにそんなこと言うの?


何より俺の社会的地位が重度のロリコンになったらどうする?


多分、誰も口聞いてくれなくなる。


怖。


そんなことを思い、ビビってると、突然サイレンがなった。


「こ、これは!?」


これはと言いかけたところで突然アリーが俺の部屋のドアを開け放った。


「た、大変よ! アル君! 第一種非常体勢え!」


アリーの言ったことは俺にもすぐ理解出来た。


第一種非常体勢、それはスタンピードの発生を意味していた。


スタンピードとは魔物の異常発生及び異常行動。


多くの人が魔族の仕業と考える大量の魔物の突然の異常発生と街などへの行軍。


俺は師匠から聞いたが、この現象はただの自然現象だ。


だが、原因は解明されておらず、自然に人から忌み嫌われる魔族の仕業とされた。


「アリー、リーゼ! 行くぞ!!」


「うん、わかってるアル君」


「はい。ご主人様!」


スタンピードのおかげで幼女スライム2号の話が誤魔化せた。


けど、スタンピードって、めちゃくちゃやべえ話なんだ。


数千あるいは何万もの大小様々な魔物が一路、人が住む街を目指して突き進んでくる。


王都から救援は来ると思うけど、規模がデカいとあっと言う間に街が壊滅する。


田も畑も……いや、男も女も、そして子供も……


全て食い尽くされる。


俺たち冒険者の義務。


災害級の魔物への対応と同じく、全員の戦闘が義務付けられている。


そのため、俺たちは税の課税がない。


戸籍が無くても冒険者になれる。


冒険者はメリットも大きいがデメリットもあるのだ。


もっとも、スタンピードに出会う確率なんて、驚くほど少ない。


前回のスタンピード発生は50年近く前だ。


俺たちは冒険者ギルドに直行した。


「やった。アル君達、すぐに駆けつけてくれたのね? アル君がいれば心強いわ」


冒険者ギルドの受付嬢のエフィさんがギルドに入るなり声をかけて来た。


「スタンピードの規模はどれ位なんですか?」


俺は一番の関心事項のスタンピードの規模について聞いた。


この戦いが絶望的なものか、何とかなるももなのか?


全てはそこにかかっている。


「それについては俺から説明しよう」


俺たちに話に割って入って来たのは、ギルド長のバーニィさんだった。


「スタンピードの規模は発見した冒険者の話だと、10km以上先から見て一面だったそうだ」


「10km先で一面?」


それは絶望的な話だった。


数千程度なら街の冒険者達単独でもなんとか排除出来る。


数万なら防戦に徹して王都からの救援を待つ籠城戦で何とか勝機がある。


だが、10km先から見て、地上も空も全面魔物だらけということは。


少なく見積もっても数十万の魔物が発生したということだ。


俺はゴクリと唾を飲み込んだ。


「すでに街の領主は戦闘可能な男には戦いへの志願兵を集い、住人には王都へ向かって避難指示を決定した。じき、この街はパニックになる」


「そ、そんな絶望的な……」


「いや、領主は王都に近衛騎士団の転位召喚を要請した。1日だ。1日持ちこたえれば、援軍が来る」


しかし、いくら精強な近衛騎士団が到着したとしても数十万の魔物相手では……


住民の避難の時間を稼ぐということか?


近衛騎士団は帰還も転位魔法で帰れる。


だが、街の冒険者の俺たちは?


「わかってくれ、アル君。冒険者に成り立ての君には心苦しい。未来がある若者にこの戦いを強いるのは俺も辛い。だが、これは全ての冒険者の義務なのだ」


「わかっています。俺も冒険者の端くれ、微力ながらお手伝いさせて頂きます」


俺に気持ちに微塵の揺らぎはなかった。


何故なら勇者パーティーもまたスタンピードへに対応は義務であり、俺は前から覚悟はあった。


そんな俺の決意に水を刺す人間が現れるなんて夢にも思わなかった。


そう、あの男が現れるまでは。


「なんだ、どこかで見た顔だと思ったら、足手まといのアルじゃないか?」


ギルド中に突然無遠慮な声が響いた。


声の主は勇者エルヴィンだった。

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