第37話 アリーと祝賀会

俺はスキル『身体強化(大)』を発動してジャイアントアントの主を不知火流奥義で斬りつけた。


それだけなのに……


何故か主は真っ二つになっていた。


あの甲殻、めっちゃ硬い筈だ。


それこそ聖剣とかじゃないと傷一つつけられない筈。


なのに俺のセールで出ていたなまくらの無銘の剣で斬ったのに、何で?


「あ、あのアル君、一体今度は何したの? 大丈夫、私はアル君の味方だから正直に言っていいよ?」


「いや、ただ身体強化(強)発動して斬っただけだよ。多分、みんなの攻撃で主の甲羅にヒビとか入っていて、めちゃくちゃ運よくクリティカルヒット出たんだろうな、は、はは」


「「そんな訳あるかぁ!!」」


何故かバーニィさんとクルゥさんに怒られた。


「まあ、アル君の非常識さを改めて知ったような気がするの」


「同感だ」


「全くです」


何でみんな共感してるの?


俺だけその共感から外れてるよね?


ここは俺も何か皆と共感したい。


すると、俺はあの嫌な感じのダニエルという男が目に入った。


呆然自失、といった感じだが、俺は彼を少し見直していた。


こいつは街の人の為に、命をも捨てようとしてたんだ。


根っからの悪人じゃないのかもしれない。


そういえばパーティから追放されたとか言っていたな。


なんか共感できるかも。


俺はへたり込んでいるダニエルに近づいた。


「ひ、ひぃ!! こ、殺さないで!」


見るとダニエルはおしっこ漏らしていた。


主を前に勇敢に戦ったのに、俺の顔見ただけでおしっこちびるとかマジでやめてほしい。


☆☆☆


ジャイアントアントの主討伐が終わった後、アリーと二人で祝勝会を開いた。


まあ、ギルドの隣の飲み屋さんだから、みんなの注目が痛い痛い。


俺とアリーは飲み屋さんの渾身のご馳走に舌鼓をうっていた。


いや、ジャイアントアントのお肉、思いの外美味いの。


そんな一時の平和な時間を楽しんでいる時、あのアリーを振ったフィンという男とエルという女の子がやって来た。


「アリーちゃん! 良かった! 無事だったのね!」


エルという女の子は会うなり、アリーにぎゅっと突然抱きついて来た。


「わ、私、アリーちゃんが強い魔物と戦ったって聞いて心配で心配で!」


「あ、ありがとうエルちゃん、心配してくれたんだね。やっぱりエルちゃんは私の親友だよ」


おい! 親友とか言いながら後ろで黒い短剣抜くな!


俺はアリーの後ろにさりげなく回って短剣を収納魔法で回収した。


一瞬、アリーが後ろを振り返り、ぎっと睨む。


「わ、私、アリーちゃんのこと一生の親友だと思うの、だからこれからも仲良くしようね」


「うん、私の親友はエルちゃんだけだよ。一生友達だよ」


いや、こいつお前のこと殺そうとしてたぞ。


俺は祝勝会での惨劇を無事回避して、その場をうまく切り抜けたけど。


「じゃあ、アリーちゃんを私達が独占しちゃだめだよね。今日のMVPだよね。もう行くね」


「うん、今度こそ……いや、また会おうね」


今度会った時こそ殺すという意味かな?


アリーちゃん……怖いでち。


「エルちゃん、今日は街のホテルの最上階のスイート取ったんだ。行こう」


「うん、ありがとう、フィン君」


げっ! アリーの幼馴染はとんでもない爆弾を投下して去って行った。


「ねえ、アル君、あれ私に見せつけに来たのかな?」


「い、いや、そういう訳ではないと思うよ」


いや、多分そうだな。


ホテルの最上階のスイートで今日二人は初めて結ばれるとかだろう。


エルちゃんという女の子も怖ぇ、あとあのフィンという男の鈍感ぶりも怖ぇ。


「アル君ありがとう。もう少しであのクソ乳女を滅多刺しにするとこだったよ」


何を殊勝な顔で言ってるのかな? こいつ、ほぼ犯罪者一歩手前だよな?


「でも、せめて……せめてあの乳を握り潰したかったな。身体強化(大)で」


コイツ、真顔で何言ってるんだ?


☆☆☆


アリーの鈍感系の幼馴染のおかげで楽しい筈の祝勝会の雰囲気が壊れた。


いや、アリーが闇落ちした。


「ねえ、エルちゃんて、きっとフィンの身体だけが目当てだよね? あのでかいクソ乳でフィンのこと誑かして、きっと想いを遂げたらさよならする気なのよね?」


「いや、女の子はそういうことは考えないと思うよ」


いや、そういうこと考えるの男だよ。


例えば、俺。


「ううん。アル君は女の子に幻想持ちすぎだよ。私だって、いやらしい目でいつもフィン君のこと見ていたもの」


アリー、そういうことは密かに心の中に秘めておけ。


「ねえ、エルちゃん、フィンの身体を楽しんだら、フィンのことあっさり捨てるのかな?」


「いや、そういう子には見えなかったよ」


俺は正直に言った、そもそも女の子って、身体目当てで一発やって捨てるとか考えるか?


「ううん。エルちゃんは違うの。あの子はきっとこめかみに666とか刻印がある悪魔の子なの。きっとフィンのこと捨てて、フィンは真実の愛に気がつくと思うの」


いや、話に無理がありすぎる。


何より未練タラタラでもう止めて切ないから。


「あ!? 店員さん。アントのお肉、追加でお願いします。あと、サラダも追加お願いです」


「アリー、そんなに食べて平気? アリーはスタイルいいんだからね」


「えっ? サラダ食べれば平気だよ。サラダ食べるとお肉のカロリー0になるんだよ」


サラダへの根拠のない信頼厚いけど、きっと違うと思う。


「私、太ったことないし」


そんな全国の女性を敵に回す発言は謹んだ方がいいと思うな。


「ねえ、アル君……私って17年間何してたんだろうね。3ヶ月前に出会ったばかりの女の子に寝取られるとか……エルちゃん紹介したの私だし」


自殺行為をしてただけだと思うよ。流石に言わないけど。


「子供の頃にね。フィンの誕生日にいつもケーキを焼いてあげてね。二人で食べたの。でも……もう一緒に食べることは二度とないよね」


そんな重いコメントは返事に困るから止めて。


こうして、俺とアリーは気がつくと、すごい量のお肉とサラダとお酒を飲んでいた。

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