第35話 何故か災害級の魔物が出た
俺と粗暴な男の間に割って入ってくれたのは、装備から見るに高レベルの先輩だろう。
しかし。
「あのね。一体何を言ってるの? それに人のことを物みたいに……それにそうね、歳相応の礼節をもった態度が取れないなんて、きっと惨めな人生を歩んで来たのね」
「て、てめぇ!」
これはタダじゃ済まないな。
アリーも辛辣だし。
粗暴な冒険者は明らかに頭に血が昇っている。
そして。
「偉そうなこと言ってるけど、その装備じゃ底辺冒険者でしょ? 人のことより、先ずは自分が偉くなったらどうなのかしら?」
「お前! 黙って聞いてりゃ!」
そういうと、粗暴な男はアリーに近づき、殴りかかってきた。
仕方ない。
俺はスキル身体強化を(極小)にして素早く近づいてアッパーカットをお見舞いする。
ゴオオオオオオン
何故か爆音が聞こえる。
「……へ?」
「ぬぽおおおおおおおお!!」
間抜けな俺の声に反して、男は忽然と姿を消した。大きくもっと間抜けな悲鳴だけを残して。
「アイツ……何処へ行ったんだ?」
「う、上よ、アル君!」
上を向くと、男がはるか高い空に吹っ飛んでいた。
「……は?」
俺は意味がわからず、目をぱちくりさせる。
い、いや、スキル身体強化(極小)を使っただけだぞ。それでただこの男を殴った。
人間を殴ったのは初めてだが、大型の魔物だと、吹っ飛んだりはしなかった。
これじゃ、まるで神級の身体強化(極大)で殴ったみたいじゃないか?
身体強化(極小)て、ちょっとだけ強くなるヤツだよな?
おかしい。
たしかにおもくそ殴ったが、普通、あんなに吹っ飛ぶか?
俺はただ、アリーを守ろうとして殴っただけだぞ。
「え?」
「へ?」
「は?」
その場にいる誰もが、素っ頓狂な声をあげる。
さっきまで知らぬふりをしていたギルドの人たちも、すっかり度肝を抜かれてしまったようだ。
ぽかんと口を開けて、穴が空いたギルドの屋根から飛んでいる男を目で追っている。
「…………あぽあぽあぱあぽぽぽぽぽぽぉ!!」
放物線の最高位で悲鳴をあげた男が、上昇から落下に軌道を変えると、落ちてきた。
情けない悲鳴をあげながら、見苦しい姿のまま、万歳して手足を大の字にして地面に激突する。
――― ドォォォォォン!!
男は床に地面深くまで窪んだ穴を作って入ってしまった。
万歳の形の人の形の穴が地面に開いている。漫画以外で初めて見た。
流石に死んでいると、気分が悪いので、生死を確かめに穴を覗くと、男はまだ生きているようだ。ぴくぴくとゴキブリみたいに手足を動かしている。
いや、殺意はあったけど、予想外の威力だし、よく考えたら、アリーに未だ何もしていなかった。未遂の人間を殺してしまうのは、例えこのこんな馬鹿でもあんまりだとおもったから、正直、ちょっと安心した。
「ち……ちょっと! アル君!」
アリーが驚いた顔で俺を見ている。
普通、喜ぶところだと思うが?
アリーは続けて俺に質問してきた。
「ア、アル君……いま、な、なにをしたの?」
いや、それは……
俺は正直困った。実際、俺にも良く分からん。
「身体強化(極小)のスキルを発動して殴っただけだ。当たりどころが良かったようだね」
「「「そんな訳があるかぁああああああ!!」」」
何故かギルドのみんなに突っ込まれた。
「そんなこと言ったって、マジそうなんだよ!」
身体強化(極小)て、ほんと、ちょっとだけ身体能力が上がるだけのヤツの筈だが……
俺は段々自信が無くなってきた。
俺は穴に入っている男に治癒の魔法をかけてやって、錬金術の魔法でギルドの屋根と床を修理しておいた。
そして、ギルドを後にした。
何故か、ギルドの先輩方が道を譲ってくれるのは不思議だ。
「アル君、ありがとう! お礼言っとくね♪」
ギルドを出る時、アリーが俺に言ってくれた。
顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにして。
これは脈ありだな。
俺はこのチャンスを逃す手はないと思った。
「ねえ、アリー? 今日の夜、俺に一発ヤラしてくんない? 別にさっきのお礼にとかじゃないよ」
「……殺すぞ」
ドコォォォーン
俺はアリーに強烈なアッパーカットをもらった。
どうも、アリーは身体強化(強)あたりを持っているようだ。
「アル君、あのね。私はアル君のこと好きだけど、そういうアル君は嫌いよ。そもそも出来もしないことを言わない方が良いわよ。アル君らしく無いからね」
「へぇ?」
俺らしくない?
全ての女を敵と思い、逆に言うと俺は女の敵だ。
俺らしく無いってどういう意味だ?
「それと、私、この国の王女だから、あまりそんなこと言っているとどうなっても知らないからね」
「はぁ!?」
王女って、何?
王女って、普通、王都の奥のカーテンとかで仕切られたところで、顔さえ見ることのできない、まさしく深層の令嬢だろう?
それが何で街の中ほっつき歩いていて、ましてやなんで冒険者なんてしてるの?
アリーて、虚言癖があるのか?
「アル様。アリー王女殿下をよろしくお願いします。あなたなら何の心配をいらないでしょうが、私も影からいつも見守っておりますので」
ぺこりと頭を下げたのは、さっき俺たちを庇ってくれた先輩冒険者だった。
「私はアリー様の護衛の騎士ミュラーと言います。以後お見知りおきを」
ええ?
マジなの?
俺、ついさっき一国の王女に一発ヤラしてって言っちゃったけど、それって駄目なヤツだよな?
俺は恐る恐るアリーに聞いた。
「ねえ、どうなっても知らないって、具体的にどんなことになるの?」
アリーは可愛く人差し指を唇にあてて、思案してこう言った。
「多分、斬首刑じゃないかな?」
「ええっ!?」
俺、ヤバすぎん?
そんな時にこんな声が聞こえて来た。
「災害級の魔物が出たぞー!!!!」
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