第7話 師匠が可愛くなる
俺は経験値10000倍のことを師匠に話した。
いや、それが何? て言われるだけなことはわかってるけど、報連相大事だもんな。
一応報告した。いや、軽く笑われることはわかってたけどね。
「で、なんじゃ? 今度はどんなスキルを手に入れたのじゃ?」
ほらね。魔王の師匠にとってはとるに足らないことなんだろうな。
俺はまたそんな当たり前のことをという感じで言われるのが嫌で軽く言った。
「いや、それがしょうもない経験値10000倍のスキルが身についたんですよ」
「は?」
え? 何? この反応?
「いや、今日のレベルアップで経験値10000倍のスキルが手に入って。師匠もきっと持ってるんでしょ? は、はは」
「は、はは」
「やっぱり持ってる感じですね。ですよねー」
「な、訳あるかー!?」
「ええっ!?」
いや、俺もう基準が良くわからん。
「まったく、お前という奴は、これは……」
ヤバい。師匠がいつものヤツを発症しそうだ。
「べ、別にアルの勘違いだからな! アルが凄いスキルを授かって嬉しくて、今すぐ襲って既成事実つくろうとか! 既成事実を盾に無理やりお付き合いしてもらって恋人なるとか! お似合いの2人になるとか、未来のお嫁さんになるとか! 結婚式の招待客は早めに相談した方がいいとか! 思っている訳じゃないからな!」
いや、後半は妄想をこじらせてるよね? 魔王様? 可愛いでち。
だけど、今晩が大変だ。
俺は師匠にオーク肉の生姜焼きを振る舞って、その日は就寝した。
けど。
なんか重いでち。
「んん?」
俺は身体に何か柔らかいものが乗っていることに気が付いて、目を覚ました。
目を開けると、目の前に美少女が。
いや、師匠がいた。
「な、何やってるんですかぁ!? 師匠!」
俺が叫び声を上げるのはこれで二度めだ。
どうせ、また夜這いに来たんだろう。
だけど、師匠はガチなので上手く言いくるめればいい。
俺の目的はあくまで合意あるヤリ逃げなのだ。
流石に大恩ある師匠にただのヤリ逃げするほど無情にはなれない。
合意なら、平気だけど。
「師匠、ホント、何やってるんですか?」
「い、いや、ただの夜這いだ。アルがドンドンいい男になってしまって、他の女の子に取られる前に既成事実を作らなければと思ってな」
恥ずかしそうに言う師匠はめっちゃ可愛いが、やってることはほぼ痴女だよな?
「いや、俺、夜這いされても既成事実認めませんよ。ただの遊びだと言い放ちますよ。いいんですか? それに夜這いされたって、言いふらしますよ」
「や、ヤメテ。そんなことされたらもうお嫁にいけない!!」
いや、多分もう手遅れだと思う。
師匠は100歳を超えておきながら、処女とか、もう、かなりのダメ人間だ。
初めてのキスは師匠の師匠で、相手は女の子だったらしい。80年位前だし。
自由に読んでいいと言われた膨大な書庫の本の大半はBLだったし。
基本引きこもりで、これで出逢いなんてある訳もない。
その上、小屋で朝起きるとお風呂にも入らないで、半裸の下着姿でうつ伏せで寝てたりする位ズボラだ。初めて見た時は死んでしまったのかと思って、焦った。
もちろん料理は何も出来ない。魔物の肉を火で炙って、塩だけで食べる。
飲み物は街で大量に買い込んだ酒のみ。
洗濯はもちろん出来ない。
服が汚れると、風呂と合わせて川で泳ぐとかいうダイナミックぶりだ。
これ、大半の男が無理。
「でもな、お前も流石に我に親近感が湧いたじゃろ? だからな、ほら、なんなら先っちょだけでも、な?」
女の子が自分から先っちょだけとか誘うのもう、完全に痴女だと思う。
だけど、師匠に親近感が湧いていたのは事実だ。
だけど、俺は女の子へ気持ちが動かない。いや、男が好きだとか、もちろん違う。
人並みに女の子への性欲もある。
ただ、女の子を信じることが出来ないんだ。
17年も連れ添った幼馴染の女の子に殺されそうになったからだろう。
「師匠! 俺にとって師匠は大事な人なんです! だからそんな簡単に手は出しません、キリッ」
俺は真面目な顔で師匠にそう告げた。本心は師匠、チョロイからこれでポーとなって言うこと聞くなと思っていた。
そして案の定。
「……わ、我のこと。大事な人……そんなの初めて言われたぁ~」
ホント、チョロいな! よく、これで今まで処女でいられたな!
その後、師匠はおとなしく自分のベッドに戻った。
あくる日、今日も修行に出るため、師匠に朝ごはんを作ってあげて、歯を磨いてあげて、髪をすいて、身だしなみを整えてあげた。
化粧しなくてもこの可愛さ、すげぇな。
それに、途中で俺の顔をチョロチョロと見て、頬を赤くする。
可愛い過ぎるんだけど?
そして、小屋を出発するとき。
「あなた、行ってらっしゃい!」
ヤバい、師匠が妄想の中でおかしくなったらしい。
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