君の声
「映画、観たい」
君の小さな声は、僕の頭に届いた後、冬の雪空に消えていった。
「何観たいの?」
「うーん、悲しい話」
なんかあった? という言葉は飲み込んで、ネットで情報を漁る。
「これなんかどう?」亡くなった犬と家族の話だった。
「それにしよ。それ観たい」
「今?」
「うん、今」
僕はレイトショーのチケットを取って、着替えて、出掛ける支度をした。玄関へ向かうと、君はいつもより綺麗な服を着て、スマホをいじって待っていた。
「遅い」
「ごめん」
「行こ」
「うん」
僕らは、無言で駅に向かった。
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