理科珈琲室

 うちの学校には『理科珈琲室』と呼ばれる理科準備室がある。いつもそこにいる科学の先生は、僕の憧れだ。

「先生、お待たせしました」

「ご苦労さん」

 放課後。理科室の掃除を終えた僕は理科準備室へ向かう。入室するなり、珈琲のいい香りがした。

「今日も美味しい珈琲を用意したよ」

 そう言って笑う先生は、窓から差し込む光で神々しかった。

 先生の向かいにある椅子に座って、珈琲入りのビーカーを受け取る。

「いただきます」

「どうぞ」

 一口飲むと、あたたかくて心地いい苦さが全身に染み渡る。小さく吐いた溜息は、少し白くなって消えてった。

「冬だね」

「そうですね」

 僕は、どんな時間よりも、この穏やかなぬくもりが好きだ。

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