第8話 願望
黒木君が言った言葉は私の心に深く残った。
『深く考えないこと。』
難しいな。
深くって1cm?10cm?それとも1メートル????
って、バカか私。
考えない事って意外と難しい。
またまた眉間にシワを寄せていたらしい。
保育園へ幸を迎えに行ったら
「ママ、おでこが変!」
と言われた。
おでこが変。どういうこっちゃ。
先生に挨拶をし、手をつないで歩いて帰った。
「ねえ、なんで今日は歩いて帰るの?車は?」
幸が不思議そうに聞いてくる。
「たまには良いじゃない。天気もいいし、2月になって少し暖かくなったし。
運動にもなるし!」
「もう保育園でいっぱい走って疲れてるのにぃい」
幸がほっぺたをぷくっと膨らませた。
「そんないっぱい走ったの」
「庭をぐるぐるぐるぐる走ったよ。もうこーんなに!!!」
右手でぐるぐる走る様子を再現してくれた。
自分がどれだけ疲れているか、伝えたくてたまらないのだろう。
「そっかぁ、それはそれは、疲れてるとも知らずにゴメンね。
今日だけ、我慢して歩いて帰ろ。明日からはまた車で来るから。」
「うん。お願いね!」
くぅ!人が下手にでればその口かい!
5歳児め。
覚えてろぃ!(歌舞伎風)
家に着き、次は太雅が帰ってきた。
お風呂を沸かし、その間にニコの散歩。
お風呂へ入り、夕飯。片付け。歯磨き。
そして宿題の丸付け!
ぜーんぶ終わってやっと自分の時間。
専業主婦になってから、さらに時間の使い方が上手くなった。
今までは夜の8時半ぐらいまでかかっていたのが、
今では7時半ぐらいには全てが終わる。
最近になって、やっとストレスが無くなって来てるのを肌で感じる。
悩みも無く、子供との時間を大切に、大事に、過ごせてる。
夜の7時半。主人が帰って来た。
「ただいまー」
「お帰り~!」子供たちが主人をお迎えする。
「お!今日の晩御飯は肉だな??」
においを嗅ぎ、ニコニコ台所へ来た。
「ぶー!!残念でした。肉でぇす!」
にやにやして答える。
「当たっとるやないかーい!」
主人が笑う。お笑い好きな主人。家では冗談ばかり言う。
友達も多くて、人望もある人。いつも私を笑顔にしてくれる。
「お腹すいたぁ。先ご飯でも良い?」
「良いよー。」
ハンバーグにエビフライ。ポテトサラダにコーンスープ。
主人が大好きな、大人版巨大お子様ランチ!(笑)
「いえ~ぃ。ハンバーグ♪」
子供かって突っ込みたくなるぐらいの満面の笑顔。
うーん。こんな笑顔、食事の時ぐらいしか見たことないぞ?
「今日は何して過ごしたの?」
ギクリ。
婚活行ってたなんて、言えない。いや、このことは墓場まで持って行く。
「司とランチしてた。なんかいい人いるみたいよ。まだ友達らしいけど。」
半分は事実だから、許して、パパ。神に誓って、私は不貞行為はしておりません!!!
「へぇ、結婚式の時に友人代表で挨拶してくれた子だよね。
まだ独身だったんだ。あんな綺麗な顔立ちしてるのに。」
「そうなの。すごく子供も好きでね、友達思いで
とっても優しいんだけど、未だに独身。男も見る目が無いよねー。
今は雑貨屋さんの店長まで任されてるんだよ。」
「すごいじゃん!仕事ばかりで出会いが無かったパターンじゃねぇの。」
話しながらも、ペロッと夕飯全てを食べ終わる。その速さ10分。
噛んだってより、飲んでるんじゃないの。
「かもね。縁も無かったのかもしれないし。でも、今年は良いスタートきれそうじゃない?
良い人見つけたみたいだし。」
「どこで知り合ったんだろうな。何してる人だろ。」
婚活と言う言葉は口が裂けても言えないが、、確か、サラリーマンとか言ってた気がする。
「なんだろうねえ。」
下手に答えるより、良いだろうと思い、知らないふりをし、主人のお皿を片付けた。
幸が話に割り込んでくる。
「今日は、ママと歩いて帰ったんだよ~」
「歩いて?ん?なんの話し?」
私に聞いてくる。
そう。幸は肝心なところが抜けて話してしまう所がある。
まだ6歳だから仕方ない事だが、時々通訳がいる。
「あぁ、保育園の帰りね。天気が良くてお散歩日和だったから、歩いて迎えに行ったの。
気分も良かったしね。」
「ほんと、だいぶ良くなったね。表情が明るくなった。
天と地の差だよ。」
主人が嬉しそうに言う。
「じゃぁもう働けるかな。次病院行ったら、先生仕事のOKくれるかな。」
希望をもって主人に聞いた。
「あはは!それは無理だと思うなー。俺が見てても、まだ薬で明るくなってるだけだと思うもん。先生が言う通り、ほんと、焦らずゆっくり、仕事の事考えずに過ごした方が良いと思うよ。それに、言おうか悩んだけど、美羽は人間不信になってる所あるよ。」
う。それは自分でも気づいていた。
しれ~っと在宅で働ける仕事なんて探していた。
そしたら人と関わらなくて済む。そう思ったからだ。
主人はよく私を見ている。
そして見透かされている。
仕事をしたい気持ちはあるが、人と関わるのは怖い。
そう思う時点でまだ治ってないのだ。やはり働けないのだ。
昔の私なら、その不甲斐なさで涙を流していただろう。
だが今は、薬のおかげだろう。涙は出ない。
「だよね。」
その一言で終わる。
『深く考えない事』
黒木君から言われた言葉。それが自然と出来るようになったら、
私はうつと卒業できるかもしれない。
『ゆっくり焦らずね』
医者から言われた言葉。一つずつが頭の中で繋がっていく。
私はその日から日記を書くことにした。・・・が、
飽きやすい私。何か出来事があった時だけノートに書き込むようにした。
主人の的確な判断。
黒木君や医者がくれたアドバイス。
友人の支えやいつも笑わせてくれる子供達。
自分を変えて行くのは、一人じゃ無理なのかもしれない。
そんな事に気づかされた1日だった。
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