第3話
【追放エナジー】を得たララクは、過去に仲間だったものたちのスキルを全て受け継ぎ、使用することが可能になった。
今から行うスキルも、かつての仲間・巨漢のダブランが使用していたスキルだった。
「ギガクエイク!」
少年ララクは決意を込めて拳を握り締め、それを力強く地面に叩きつけた。瞬間、大地が震え、拳が触れた場所から放射状に亀裂が走り出した。その亀裂は生き物のように蠢き、デスラフターたちに向かって一直線に進んでいった。
亀裂は音を立てながら広がり、乾いた地面を引き裂くように進んでいく。砂埃が舞い上がり、亀裂の進行を示すかのように、地面が揺れ動く。
「ギッギギギ!?」
デスラフターたちは不意の出来事に驚き、後ずさりしながらも鋭い牙をむき出しにして威嚇の声を上げた。
だが、亀裂は止まることなく、ますます広がり、デスラフターたちの足元に迫っていた。地面は裂け、さらに大きな亀裂が次々と生まれ、まるで大地自体が怒りを表しているかのようだった。デスラフターたちは逃げ場を失い、混乱している。
「ゼマさん、お願いします!」
ララクは仲間のゼマに攻撃の指示を送った。
ゼマとデスラフターたちとの距離は、まだかなり離れている。地面が割れたことにより、接近するにも足場が不安定。
しかし、彼女にはこの距離からでも攻撃する術があった。
「ぶっ飛びなっ! 【ホーリースイング】」
ゼマが握るクリスタルロッドが、急速に熱を帯びて輝き始めた。透明な水晶が内部から白黄と発光し、熱が伝わって周囲の空気を揺らめかせる。その輝きは荒地の中で一際目立ち、そして美しく煌めいていた。
彼女はその場で、クリスタルロッドを振り払った。すると、棒がまるで蛇が体を伸ばすかのように滑らかに伸び始めた。透明な水晶の輝きがさらに強まり、光の帯が周囲に広がる。ロッドはさらにその長さを拡張していき、デスラフーたちの体にたどり着いていった。
これは【伸縮自在】と呼ばれるスキルが、クリスタルロッドに内蔵されているからである。これもララクの力の一部であり、武器に【スキル付与】というスキルを使用することで、自由自在に伸縮するロッドが出来上がった。
『ギャャギヤァ!!」
強烈な光を放つロッドが、デスラフターたちの灰色の体に直撃した。触れた瞬間から、ロッドの熱がハイエナの毛皮に移動し、真っ赤に染め上げていく。
攻撃がヒットした瞬間、衝撃波が荒地を駆け抜け、デスラフターたちが宙に舞い上がった。
獣たちの咆哮が空に響き渡り、その身体は高く放り上げられ、四つ足をばたつかせていた。
ここから最後仕上げをするのは、ララクの仕事だった。自分たちをもう襲えないところまで、ハイエナたちを追い払うために。
「【ストロングウィンド】!」
ララクは体内に眠るエネルギー・魔力を放出させて、それを吹き荒れる強風に変化させていく。半透明な緑色をした魔法の風は、無防備な獣たちへ襲い掛かる。
咆哮を上げる彼らの身体は、無慈悲な風に捉えられ、遥か彼方まで吹き飛ばされていく。地上であれば発達した足腰で踏ん張り抵抗できるが、空中では風の気の向くままに流されるだけだった。
砂埃が舞い上がり、デスラフターたちの姿は次第に小さくなり、やがて見えなくなった。風の轟音だけが残り、荒地に静寂が戻った。
「ララクさ、これ、あいつら無事なの? 落ちた瞬間、死なない?」
一瞬で戦闘が終わり、ゼマは少し退屈そうにしながらそう言った。彼女は、吹き飛んだハイエナたちが地面に落ちて、ぐしゃぐしゃになるところを想像してしまった。
「……たし、かに。やりすぎましたかね。
け、けど、ハイエナ種は生命力が凄まじいと聞きますし、無事、だと、願いましょう」
圧倒的な力を見せたララクだったが、急に過剰攻撃だったのではないかと後悔し始める。超常的な力を得ても、精神的な本質はそこまで変化はしていなかった。
ララクはかつての仲間の力を受け継ぐ【追放エナジー】によって、比較的な進化を遂げていた。
名前 ララク・ストリーン
種族 人間
レベル 53
アクションスキル 一覧
【ヒーリング(Ⅰ)】【エアスラッシュ(Ⅶ)】【フィジカルアップ(Ⅸ)】【スピードアップ(Ⅶ)】【スラッシュムーブ(Ⅱ)】【クイックカウンター(Ⅱ)】【挑発(Ⅴ)】【ディフェンスアップ(Ⅶ)】【カウンターブレイク(Ⅳ)】【ギガクエイク(Ⅳ)】【シールドアタック(Ⅳ)】【ウェイトアップ(Ⅳ)】【サーチング(Ⅵ)】【ウィンドブレイク(Ⅴ)】【スピントルネード(Ⅳ)】【空中浮遊(Ⅳ)】【嗅覚強化(Ⅱ)】【ウィンドカッター(Ⅵ)】【ウィンドスラッシュ(Ⅸ)】……NEXT
パッシブスキル 一覧
【追放エナジー】【剣適性(Ⅹ)】【盾適性(Ⅸ)】【魔力上昇(Ⅹ)】【身体能力上昇(Ⅹ)】【防御力上昇(Ⅹ)】【俊敏性上昇(Ⅹ)】【体力上昇(Ⅶ)】……NEXT
これが今ララクが所持するスキルのほんの一部である。彼が所属していたパーティーは100個。そこにいた冒険者全てとなると、膨大なスキル数になる。
けれど、それだけ多くなると、被っているスキルも数多く存在する。そしてそれらのスキルは1つにまとめられ、その数と本人のレベルによって強さが変化する。
それを現した数値が(Ⅹ)や(Ⅴ)などの数字である。
「っま、ちょっとだけど、ぶっ飛ばせてスッキリした~。ただ歩いてるだけじゃ、体がなまっちゃう」
腕を肩より上にあげて、背伸びをするゼマ。彼女はバトルジャンキー的な部分が少しあり、ストレス発散のために戦いを望んでいる。
「……ふぅ、それじゃあ先を急ぎますか。
確か、もうすぐのはずです。豪魔が住む砦は」
彼らには目的地があった。この荒野の先にある豪魔と呼ばれる人種が暮らしている場所だ。世界を旅している彼らは、今はそこを目指していたのだ。
笑うハイエナたちを退けた2人は、酷暑の荒野を歩き進んでいった。
◇◇◇
「ギギギギィ!」
ララクたちによって遥か彼方まで吹き飛ばされたハイエナ・デスラフターたち。風景の変わらない荒野の中をさまよっていた。
もう一度、狙った獲物を捜しに行こうかとも考えたが、遠すぎるのとまた返り討ちに遭うと諦めていた。
「ギッギィィ!?」
そんな彼らの足元が、再び大きくて揺れ始める。小さな地震が起きたような、そんな振動だった。
まさか奴らが追ってきたのか、とデスラフターはよぎる。しかし、さきほどララクが発動した【ギガクエイク】と違い、乾いた大地に亀裂が走るようなことはなかった。
振動が次第に大きくなっていくと、リーダーと思われる一匹が避難指示を出そうと群れを確認する。
すると、自分を含めてデスラフターの数が5匹しかいなことに気がつく。
「ギッギ!」
仲間のデスラフターの鳴き声が聞こえそちらを振り向くと、また一匹姿を忽然と消していた。
そして気が付いた時には、リーダーの一匹しかその場には残っていなかった。
「……ッギ、ギィ!」
なにかとてつもなくまずいことが起きている。そう感じたリーダーはすぐさま逃走しようとした。
その瞬間、そのデスラフターの足元から奇怪な青黒い色をした大量の腕が湧き出たのだ。
それらはすぐさまハイエナの四肢を掴み、地面に引きずりこんでいく。荒野の大地だったはずのそこは、濁った水たまりのような色に変化していた。
そしてあっという間に、デスラフターの姿は全て荒野から消失していた。
彼らを吸い込んでしまった奇妙な腕も、どこかへと消えていた。
するとハイエナたちがいた場所に、1人の男が歩いてきた。
その男は闘技用のスーツのようなものを着ており、そこからはみ出した首、手、そして顔は真っ黒な皮膚をしていた。
宝石のような青い光を放つ瞳が、黒い素肌にとても映えていた。
もう1つ、特徴的なのが、白髪の頭部から飛び出た黒い2つの角だ。
「……まだだ、まだ、いざなわなければ」
若い男はぼそっとつぶやき、その場を後にした。
黒き肌と発達した筋肉。そして角。
これらの特徴を有する種族の名が「豪魔」である。
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