第4話 ピンチヒッター (改訂版)

 疾風怒濤メンバーの戦う意志を感じたのか、ケルベアスはついに動き出した。筋肉の詰まった4本脚を使って、地面をえぐりながら突進してくる。


「やるぞ! 【フィジカルアップ】!」


「ああ。【フィジカルアップ】!」


 運動能力を一時的に強化できるスキルを、前衛の2人が使用した。


 ガッディアは大盾を構え、後ろにいるレニナを守る態勢に入っていた。


 そして、デフェロットのほうは防御ではなく攻撃を仕掛けるつもりのようだ。


「くらえ、【エアスラッシュ】!」


 両手で剣を大きく振り上げて、その場で勢いよく振り下ろす。

 すると、切っ先から三日月形の半透明なものが射出される。これは、デフェロットの斬撃を魔力を使って実体化させたものだ。

 そしてそれを、相手に向かって放つのがスキル【エアスラッシュ】だ。

 剣を使用する冒険者なら、覚えていることが多いスキルで、汎用性が高く威力もまずまずある。


 一撃では意味がないと、何度も何度もその場で【エアスラッシュ】を、突進してくるケルベアスに浴びせる。


「私もやるよ!」


 後方にいたレニナが、デフェロットと同時攻撃をしようとスキルを発動する。

 まずは、【空中浮遊】で上空へと飛ぶ。遥か遠くまで飛ぶのではなく少しだけ浮遊することで、いつでもガッディアの盾に隠れられるようにしている。


「【ウィンドカッター】!」


 手のひらをケルベアスに向けると、彼女の前に突風が吹き荒れる。そして、そのまま半透明の緑色をした風たちは、標的に向かっていく。

 形は【エアスラッシュ】と酷似しており、効果も似ている。

 違うのは、【エアスラッシュ】が剣や使用者の運動能力に比例して威力があがるのに対して、【ウィンドカッター】は使用者の魔力によって威力が変化する。

 後者は武器がなくても発動できるが、そのぶん少しだけ魔力の消費量が高い。


 大量の斬撃と風の刃が、ケルベアスにヒットしていく。

 土ぼこりが起き、攻撃されたケルベアスの突進は静止した。


「よし、このままいくぞ」


 動きが止まり、自分たちの攻撃が効いていると思ったデフェロット。

 しかし、土ぼこりが収まり、ケルベアスの姿を再確認すると、その状態に驚かざるを得なかった。


「む、無傷!?」


「そ、そんな私たちの攻撃が……」


 森の主 ケルベアスの強靭な肉体には傷1つなかった。ケルベアスは人間と違って鎧などは着用していない。なので、素の肉体性能が桁違いに高いということだ。


「おいレニナ。なんかあいつの弱点、ねぇのかよ」


「ちょっと待って。【サーチング】」


 レニナは所持スキルの【サーチング】を発動する。これは、相手のスキル画面を映し出すことができるものだ。

 他にも詳細なデータを分析することも出来るスキルもあるが、相手がどのスキルを使えるのかが分かるだけでも、戦闘を有利に運ぶことができる。


 レニナの前に、ケルベアスの情報が載ったスキル画面が出現する。



 名前  不明

 種族  ケルベアス

 レベル 60


 アクションスキル 一覧

 詳細不明


 パッシブスキル 一覧

 詳細不明


「だ、ダメ! たぶんレベルが高すぎて見れない。

 こいつ、レベル60なのよ!」


「レベル60!?」


 デフェロットのレベルは45だ。

 レベル差は5以内であれば、戦略や状況によってどうとでもなると言われている。

 しかしそれ以上、ましてや10以上離れているとなると、先ほどのようにダメージが入りづらくなってしまう。


 さらに、スキルは基本的に使用者のレベルによって効果の強さが変わってくる。なのでレニナのレベルでは、上級モンスター・ケルベアスのデータを見ることが出来なかった、ということだ。


「おい2人とも! 俺の後ろにさがれ!」


 無傷で2人のスキルを耐えたケルベアスは再び走り出す。

 それを見たガッディアが集合をかけた。


 ガッディアは大盾を地面へと突き刺す。固定することで吹っ飛ばされないようにするためだった。

 大盾は3人の体を隠すには十分すぎるほどで、ケルベアスの視点からだと盾が地面に突き刺さっているようにしか見えない。


「グルォォォォォ」


 3つの口で雄たけびをあげるケルベアスは、大盾に突進して頭突きを繰り出す。3頭での頭突きの威力はすさまじく、すぐに大盾は後ろへと引きずられていく。


「うぉぉぉぉぉぉ」


 ガッディアは自分を鼓舞する意味も込めて腹から声を出し、脚を限界まで踏ん張る。

 後ろにいる2人にダメージはないが、少しずつ盾が下がってきている。

 ケルベアスの突進を受け止め切れていないのだ。


「このままではまずい! 【ウェイトアップ】!」


 茶色のオーラがガッディアと大盾からほとばしる。スキル【ウェイトアップ】は、対象者の重さを増やすことが出来る。

 体重が増えれば動きが鈍くなるが、逆に押し倒されにくくもなる。

 なので、ガッディアのような仲間を守る役割の冒険者は使用することがある。


 さらに重くなったガッディアの体と大盾は、さらに地面へとめり込んでいく。


 しかし、それでもケルベアスの動きを止めることは出来ない。


 ケルベアスは盾に頭がぶつかってもなお、大きな前足を動かして前進しようとしている。

 これを止めるには、盾を使って後方に吹き飛ばすか、攻撃を相殺させて静止させるしかない。

 だが、そんな余裕がガッディアにあるはずがなかった。


「グロォォオォォ!」


 なかなかしぶといガッディアにしびれを切らしたケルベアスは、さらにスキルを使用する。使用したのは【猛烈突進】。これは前しか進めない代わりに、威力の高い突進をすることが出来る。

 通常の突進ではらちが明かないと考え、ゼロ距離でスキルを発動したのだ。


 ケルベアスは赤黒いオーラに包まれる。

 これによって、先ほどとは比べ物にならないほどの威力を発揮する。

 スキルは生物の中にある魔力を使用して、超性能の技や魔法を放つことが出来る。


 さらに、ケルベアスのレベルは60と高い。


 それに対して、ガッディアのレベルは48だ。

 耐えきるのは困難だ。


「ぐあぁぁぁぁ」


 【猛烈突進】を防ぎきれなかったガッディアの盾と体は後ろへと吹っ飛ばされる。さらに、その後ろにいるデフェロットとレニナにも攻撃はヒットしてしまう。


「ぐわぁぁぁぁ」


「きゃぁぁぁぁ」


 叫び声と共に、3人は遥か後ろへと吹っ飛ばされる。そして、地面へと到達すると、勢い余って地面を転げまわる。


 たったの一撃で、彼らの体と装備には相当なダメージが入ってしまった。


 土にまみれた3人はすぐに起き上がることが出来ない。こういった場合に、ヒーラーがいると、かなり戦況は変わってくる。

 今の状態では、回復薬のポーションを飲む余裕もなさそうだ。


「グルゥゥゥゥ」


 喉を鳴らしながら、一歩一歩近づいていくるケルベアス。3つの頭で、3人のことを目で捉えたままだった。


 まずは厄介だと感じたのか、ガッディアを捕食しようとしている。


「す、すまない。……俺のことはもういい。この隙に逃げるんだ」


 かすれた声で2人へとガッディアは投げかける。


「っく、ふざけんな。逃げたくても、逃げれっかよ。こんな、状態でよ」


 デフェロットの鎧にヒビが入っており、彼の体もボロボロだった。ケルベアスとのレベルの違いを考えれば、当然の結果だ。


 もっと悲惨なのが、レニナだ。彼女は前線に出ることはないので、防御力ではなく魔力を高めるローブを装備している。

 ローブの性能として、風や炎などの魔法系と呼ばれるスキルには強いのだが、【猛烈突進】などの純粋な物理攻撃には極端に弱い。


「……さ、最悪なんだけど」


 レニナは先ほどの衝撃で、一番ダメージを受けていた。瀕死、とまではいかないが、かなりの損傷のはずだ。

 【空中浮遊】を使えば動けるが、頭を打ったようで意識がはっきりとせず、スキルを上手く使えないようだ。


「……無念だ」


 自分の命を諦め、ガッディアが瞼を閉じようとした、その時だった。


「【エアスラッシュ】」


 その言葉と共に、どこからともなく半透明な緑色をした三日月形の斬撃が飛んでくる。


 そしてそれは、ガッディアを食べようとしたケルベアスの首元にヒットする。


「グルゥオォォオォォワァァァ」


 真っ二つ、とまではいかなかったが、ケルベアスの左の首元に切れ込みが入る。そこから大量の黒い血が流れだす。

 かなり深く斬撃の切り込みが入っており、普通ならこれで絶命している。その首と繋がっている頭は、目が閉じられていて機能が停止ししている。


 しかし、もう2つ頭があるので、ケルベアスは再起不能になっていなかった。


「首固いなぁ。もう少し、威力を上げないと」


「……き、キミは」


 ガッディアは斬撃が飛んでいた方向に首を動かす。

 するとそこには、太い木の枝に立っているララクの姿があった。


【あとがき】

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