第115話 堕ちた光。
『本当によかったわい……! 次の体の
……え?
僕にとっては意味不明な【死霊魔王】のその宣言。
だが、その異変はすぐに起きた。
「……がっ!? ぐ……ああああっ!?」
「ぐがあああっ!?」
「い、いやあぁぁぁっ!?」
グランディル山の頂の遺跡、その3か所からいっせいに絶叫が上がったのだ。
僕のよく知る声。かつての【仲間】。【
その声の主のひとり、一番近くの【光】の勇者ブレンにバッと視線を向ければ、這いつくばったその体には、無数の死霊の手が絡みついている。
『まずは、ひとぉつ!』
「う……がっ……ぐっ……がっ……!?』
その【死霊魔王】の声とともに彼方から、まだ生きているのが信じられないほどの全身血で染まった巨漢の聖騎士パラッドの体が装備している大盾とともに無数の死霊の手により運ばれてくる。
そして、空中に浮かぶ真っ黒な
「ふ、ふざ……け……! こ、このパラッ……ドさま……がっ!? や、や……め……ぐ!? べごぎゃぼがげがごっ!?」
――その中から骨や肉がめちゃくちゃに砕かれ、へし折られるような異様な音がパラッドの絶叫とともに聞こえてきた。
『ふぉっふぉっふぉっ! 見てのとおりじゃ! 魔王たるこの儂は、死して劣化した死霊からだけではなく、生者からも奪えるのよ! 素材となるものを儂に屈服させることでな! ふたぁつ!』
「がぁぁぁぁっ!?」
次に異変が起きたのは、【光】の勇者ブレン。全身に絡みついた死霊の手がその体を持ち上げようと――
「ふざ……けるなぁぁぁ! おおおぉぉぉ!」
――満身創痍のその体にどこにそんな力が残っていたのか。ブレンの全身に【光】の魔力が迸る。
そして。
ドシャッ!
「はあっ……! はあっ……! ぐ、ううがぁぁっ!」
死霊の手から逃れたブレンの体がふたたび地面に落ちた。
……ただし。
『ほう? まさか、まだそんな力が残っていたとはのう。腐っても勇者といったところか。じゃがまあよい。一番欲しいものは手に入ったしの』
「ふざ……けるな……! 【死霊魔王】……! それは、俺の……! ぐ、うぅおぉ……!」
そう。もっとも大量の死霊の手が絡みついていた、勇者のあかしたる聖剣を握っていた右腕を犠牲にして。
『さて。最後はおぬしじゃ! みぃぃっつ!』
「いや、いやぁぁぁぁっ!? は、剥がれ、剥がれるうぅぅっ!?」
3人目。そこでは異様な光景が起きていた。その美しく整えられた長い爪が割れるほどの強さで地面にしがみつく聖女マリーア。
その背中から、徐々に徐々にマリーアの形をした白い影が引き剥がされ、その逆にしがみつくマリーアの姿が黒く塗り潰されていく。
『あ、あぁ……!? いやぁぁぁぁぁぁっ!?』
そして、ついに完全に白い影が引き剥がされると、さっきまでマリーアだったはずの【真っ黒に塗りつぶされたなにか】が、その場に崩れ落ちた。
『あ、ああぁぁっ!? わ、わたくしの顔……!? 体……!? 声も……!? あぁぁぁっ……!?』
姿はおろか、声すらもくぐもって変質した、もはや人間なのかすら判然としないなにか、それが変わり果てたいまのマリーアだった。
そして、聖剣を握ったまま引きちぎられた【光】の勇者ブレンの右腕とともに、聖女マリーアの白い影が真っ黒な襤褸の広げる空洞の中に吸いこまれる。
その入り口がふたたび黒の襤褸に閉じられると、今度はボコボコとめちゃくちゃに表面が波打ち始めた。
その異様な光景に、僕を含めだれひとり目を離すことができるものはいない。
……そして。
「うふふふふふふ……!」
黒い襤褸が爆ぜ割れ、高笑いとともにふわりとその存在がいま地へと降り立った。
【闇】を凝縮したような艶然とした黒衣――その上に、まばゆく輝く堕ちた【光】をその全身にまとって。
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