第107話 落ちる陽。※

 【死霊行軍デススタンピード】の始まりにして終着点たる、天高く陽が上り、時刻は昼に差しかかりはじめたグランディル山の頂にある遺跡にて。


「がっ……はっ……!」


「なんじゃなんじゃ、最近の若いものは情けないのう。たかだか全身の骨を砕かれたくらいで。のう? 【光】の勇者ブレン」


 たったいま【屍獣魔王】の死霊を加工してつくった異形の巨腕によって自ら握り潰した勇者ブレンに親しげに語りかけるのは、がらんどうの髑髏――【死霊魔王】〝玩弄〟のネクロディギス。


 戦いは、いや一方的な蹂躙は――すでに終わっていた。



 【腕】だけに集中したことで【屍獣魔王】はおろか、生前の【獣魔王】にすら匹敵する膂力。自らの【闇】の魔力に加え、周囲の死霊を自在に操る能力。


 そう。当然ながらあの圧倒的な攻撃力を誇る【死霊将軍デスジェネラル】の【死霊滅波デスウェイブ】さえも【死霊魔王】は使うことができる。それも、自らの魔力防御をはがさない完全な形で。


 そして、彼ら【黎明の陽デイブレイク】の中で最も威力の高い【光】の勇者ブレンの【聖光極点突破シャイニング・ストライク】さえも【死霊魔王】の【闇】の魔力を集中した【盾】を破れない以上――



「…………」


「あ……。う、あ……」


 ――それはもはや戦いなどとは呼べず、ただ【黎明の陽デイブレイク】がどれだけ持ちこたえられるかというだけのものでしかない。


 倒れるたびに回復薬を服用し、敵わずとも全力で立ち向かうことを敵であるはずの【死霊魔王】に強要されるその拷問にも似た時間は、しかし長くは持たずあっさりと終わりを告げた。

 


 あとにはもはや絶命していてもおかしくないほどに痛めつけられ、大量の血だまりの中に沈む、うめき声すらあげない聖騎士パラッド。


 その肢体に傷こそつけられなかったものの、まるで惨たらしい凌辱でも受けたかのように憔悴し、焦点のあわない赤い瞳で虚空を見つめて意味のないうめきを上げて座りこむ聖女マリーア。


 ドシャッ。


「がっ……!」


 そしていま、全身の骨を砕かれ、もはや自慢の聖剣を振ることはおろか立ち上がることさえもできなくなった【光】の勇者ブレンが無造作に地面に落とされた。


「ふむ……。終わりか……。正直もの足りんの……む? ひい、ふう、みい……おや? おかしいのう? たしか、もうひとりいた気がしたのじゃが……?」


 



(う、うぅぅっ……!)


 朽ち果てた遺跡の中。


 天井のない一軒の家跡の壁際で、うずくまる緑色の短い髪の少女はぽろぽろと涙をこぼしながら、口元をおさえて嗚咽を噛み殺す。


 星弓士せいきゅうしステア。


 【闇】属性の暗殺者ノエル・レイスと入れ替わりに【黎明の陽デイブレイク】に加入した最後のメンバーにして、血のにじむような修練によって後天的に強い【光】に目覚めた少女。


 ステアの体には外傷はおろか、ほとんど魔力を使った形跡すらなかった。


 

 それは、彼女がとっくに戦意を失っていたからにほかならない。


 それも【死霊魔王】との戦いの前、【屍獣魔王】のときには、すでに。






♦♦♦♦♦


本作を面白いと思って頂けましたら、是非タイトルページで☆による評価、作品フォローや応援をお願いいたします!


読者様の応援が作者の活力、燃料です!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る