第105話 模倣。※

 そうだ……。


 あのとき、俺の【聖光十字斬シャイニング・クロス】から始まった怒涛の連続攻撃で、俺たちは【獣魔王】を――


『はあっ! はあっ! い、いまだっ! 【獣魔王】の魔力制御が乱れているうちに、一気にっ! ブレン! パラッド! マリーア!』


 ――いや、違う……? 俺の攻撃の前に、だれかが【獣魔王】の半身を、あの強固な魔力防御を突き破って……?


『レイス流暗殺術奥義! 【虚影零突破ゼロハイド・ストライク】!』


 ノ、エル……? ノエル……だと……? 


 じゃあ、じゃあなにか……? いまの俺たちのこの状況は、だれひとり【屍獣魔王】に対抗できず、無様に地べたに這いつくばっているこの状況は……!


 ノエルひとりが、あの【闇】属性の暗殺者ひとりがいない――ただそれだけの違いで、つくりだされたというのか……!?


 現状を打開する鍵を得るため、当時無我夢中だったために断片的にしか覚えていない、かつての【獣魔王】との戦いの記憶を必死に探っていた【光】の勇者ブレン。


 だが、彼がそこで発見したのは、自らの尊厳を根底から覆しかねない絶望的な事実だった。


 だが、その事実こそが――



「ふざ……けるな……! ふざ……けるなあぁぁぁっ……!」


『ヌゥッ……!?』



 【死霊行軍デススタンピード】の始まりにして終着点たる、天高く朝陽が上るグランディル山の頂の遺跡。


 【黎明の陽デイブレイク】の面々が倒れ伏す中。黒き獅子の巨躯【屍獣魔王】ザラオティガの前で、まばゆく輝く聖剣を手に【光】の勇者ブレンがゆらりと立ち上がった。


 その表情は鬼気迫り、目には血走った【光】を帯びている。


「俺は……! 俺は……【光】だ……! この世界の頂点に立つべき、最上の【光】……! 俺以外のすべては……ただ俺を輝かせるためだけに存在する……! それが……たかが【闇】属性の暗殺者がひとりいないくらいで……? ふざけるなよ……!」


 まったく人々の希望にはふさわしくない、あまりにも利己的で傲慢な勇者ブレンの本心。


 だが、いままで人あたりのいい仮面の奥にひた隠しにしてきたその本心を吐露したことこそが――


「たしか……こう……だったな……!」



 ――そのふたつこそが【光】の勇者ブレンの新たな扉を開く。



『ヌゥゥゥゥゥッ!?』


「おおおおおおっ!」


 いままで聖剣の刀身全体を薄く覆っていた【光】の魔力。そして、自らの全身に行き渡る【光】の魔力を、勇者ブレンがその切っ先の一点と右腕一本に集中していく。


 それは、まさしく模倣だった。


 かつて自らの深層心理に刻まれた【獣魔王】の半身を砕いた技を、自らが追放したあの【闇】属性の暗殺者ノエル・レイスの奥義のをいま――



「待たせたな……! 【屍獣魔王】ザラオティガ……! くらえ……! これが俺の……【聖光極点突破シャイニング・ストライク】だ!」



 ――恥も外聞もなく、【光】の勇者ブレンが自らのものとして盗みとる。



『グオオオォォォァァァァッッ!? コ、コレハ、マサシク……アノトキノ……!? イ、イヤ……!? ソレ以上ノ……!? 灼、灼ケル……!? ヒ、【光】ガァァァァァァァァッ!?』


 切っ先から奔る一条の【光】。それは交差した【屍獣魔王】の両腕の魔力防御を貫き、その先の腐った肉体、そしてその中心に位置する【核】をも貫いた。


 そして、断末魔とともに【屍獣魔王】の体は崩れ落ち、またたくまに塵へと還る。



 だが、それは――



「ふぉっふぉっふぉっ……! 礼をいうぞ……! 人間……! いや、儂の期待に応えてくれた褒美にその名、覚えてやろうではないか……! のう、【光】の勇者ブレン……!」


「なに……!?」


「さあ……! 〝蹂躙〟のザラオティガ……! これでおぬしを縛る妄執は消え失せた……! もはやあらがえぬぞ……! さあ来い……! 哀れで惨めな獣の死霊……!」



 ――すべてこの高笑いを上げる貧相ながらんどうの髑髏。


 【死霊行軍デススタンピード】の元凶たる【死霊魔王】〝玩弄〟のネクロディギスの手のひらの上。その計画どおりに。






※今後の展開のために、【魔王】たちに二つ名を追加しました。

 過去話についても、編集済みです。


♦♦♦♦♦


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