闇属性だけど脚光を浴びてもいいですかー追放された少年暗殺者はワケあり闇美少女たちと真の勇者に成り上がる
ミオニチ
【第1部 輝く月】
1章 青い月の瞳。
第1話 追放と夢の終わり(前編)
「ノエル・レイス。君とは今日これまでだ」
乾杯を終えた直後のことだった。
告げられたその衝撃に、カップを握る僕の手から一気に力が抜け落ちる。「あっ」と思った時にはもう遅かった。
カシャンッと乾いた音を立て、陶器のカップは床に落ちバラバラに砕け散った。中に入っていた葡萄ジュースがこぼれ、床に広がっていく。
この街の冒険者のあいだで一番評判だという酒場兼食事処の個室部屋。
途中で助っ人に駆けつけた新たな仲間の歓迎も兼ねた、世界に君臨する人類の脅威たる魔王の一体を討伐した【光】の勇者パーティーの祝いの席。
よく冷えたエールを流しこんだあとで、パーティーリーダー【光】の勇者ブレンは対面に座る僕を見て、その整った顔をきつくしかめた。
「はあ。なにをやっているんだ、ノエル」
「けっ! あいっかわらず、どんくせえ【闇】野郎だな!」
「そのように食べ物を粗末にするなど、卑しい【闇】の育ちが知れますね」
「ほ、本当なんですか? こんなまだ成人もしていないような子ども! しかもよりによって劣等の【闇】属性がこの【光】の勇者パーティーの一員だったなんて!」
ここぞとばかりに僕の向こう側に並んで座るほかの勇者パーティーがブレンに追従し、次々になじってくる。
「ご、ごめん! いま片づけ」
「いや、そのままでいい。どうせ長くはかからない。あとで店員に片づけさせるから、いまは座れ。ノエル、話を続けよう」
謝罪し立ち上がろうとした僕を制して、ブレンは静かに首を振った。
座りなおすときにちらりと目に映ったこぼしたばかりの床に広がる丸い染みは、まるで血のように赤かった。
「今日、俺たちは新たな仲間を迎えいれた。【光】属性の
なにか、あるような気はしていた。
いつもなら違うテーブルにひとり用意される僕の席。それが今日は同じテーブル。ただし、僕以外はみんな逆側の席に並んで座っている。これでなにもないなんて思えるほど、僕の神経は太くはなかった。
けど、それでもこんなにあっさりと追いだされるなんて、とても納得できない。
「待って、ブレン! 僕はいままでこの勇者パーティーに自分なりに貢献してきたつもりだ! メイン
「はあぁぁ? メイン
ダンッ! とテーブルを強くたたく中身が入ったジョッキの音に、僕の体がビクッとはねる。
座っていても威圧感を覚えるような巨漢を誇る【光】の聖騎士パラッド。その嫌悪と侮蔑の視線が上から僕を見下ろした。
「てめえがやってるのは! 必死で戦ってる俺たちの影から、獲物をかっさらってるだけだろうが! このクソったれ【闇】属性の寄生虫野郎が!」
「ええ。ノエル。そのとおりです。貴方はいつも安全なところに隠れては、ブレンやパラッドを盾にしてばかり。信じられますか? わたくしはこの一年、ブレンやパラッドと違い、貴方に一度も回復をかけたことがないのですよ? メインアタッカーが聞いてあきれますね。恥を知りなさい。ただの汚い闇討ちでしょう? まあ、もっともわたくしとしては、魔物と同じ汚らわしい【闇】属性の貴方に回復などかけたくありませんでしたので、その点ではよかったといえますが」
美しく整った顔に冷ややかな笑みを浮かべながら、【光】の聖女マリーアが糾弾の言葉を並べ立てる。
「そ、それは違うよ!? 暗殺者が最も力を発揮する方法が、相手の意識外からの攻撃ってだけで……! そうだ! 今日の魔王戦だって、それで僕が致命傷を与えて……!」
「それは違います!」
今日新たに勇者パーティーに入ったばかりの少女、【光】の
「魔王にトドメを刺したのは、私です! あなたは私が駆けつけたとき、魔王のすぐ目の前で無様にひざをついて一歩も動けず、ただ震えてただけじゃないですか! それを、よくもそんな嘘を……! 最低……! なんでこんな恥知らずなひとがいままで勇者パーティーの一員だったんですかっ!」
「そ、それは! 全身全霊の一撃を放ったあとの反動で一時的に! それに、あのとき僕の一撃でもう魔王はすでに瀕死で、だれにでもっ!」
「グダグダうるっせえんだよ! この寄生虫野郎っ!」
「うわあっ!?」
興奮のあまり椅子から立ち上がりかけたところを思いっきり蹴りをいれられ、バランスをくずす。床の上に広がった赤い染みに僕の体が落ち、べちゃりと着ていた黒いコートを濡らした。
「いい加減に気づけや! このクソったれ【闇】属性の寄生虫野郎! てめえは遅かれ早かれ追放する気だったんだよ! まさか一年もかかるとは思っちゃいなかったがな!」
「ええ。これでようやくせいせいします。おぞましい【闇】属性の暗殺者など、いまや最高の冒険者として名高い人々の希望たるこの【光】の勇者パーティーにはふさわしくありませんから。まったく、ブレンの気まぐれのせいで」
じろりとマリーアににらまれたブレンは、ひょいと軽く肩をすくめた。
「そんなに責めなくてもいいだろう? マリーア。暗殺者といっても、正式にはノエルはまだなる前。ひとりも人を殺してはいないんだからな。それに一年前、俺たちに並び立てる【光】の仲間がすぐに見つからなかった以上、それまでのつなぎはどうしても必要だった。それには、この【闇】属性のノエルが俺たちにとってもっとも都合がよかったんだ。だって、
そう告げるブレンの口もとには、薄く冷たい笑みが浮かんでいた。
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