ケリーの章 ㉙ 待ちわびていたプロポーズ
翌朝―
「ん…」
ふと目が覚め、心臓が止まりそうになった。目の前にヨハン先生の寝顔があったからだ。そして昨夜の記憶が蘇る。
そうだった…私とヨハン先生はお互いの気持ちを確かめ合って、それで…。
信じられなかった。幸せ過ぎて今も夢をみているみたいだった。夢ならどうか覚めないで…。
「ヨハン先生…愛しています…」
そっと呟くと、パチリとヨハン先生は目を開けた。
「え?せ、先生?!」
「僕も愛しているよ。ケリー」
ヨハン先生は笑みを浮かべて私を抱き寄せると言った。
「ケリー。…今更だけど…僕とどうか結婚して欲しい」
「!」
思わず目を見開いてヨハン先生を見つめると先生は照れたように言った。
「プロポーズの返事…今聞かせて貰えると嬉しいんだけどな…」
「ヨハン先生…」
昨夜、散々泣いたのに…再び私の目に涙が浮かんできた。そんな事…聞かれなくても答えは決まっている。
「はい、喜んで…!」
だって、私はずっとその言葉を待っていたのだから。
「ありがとう、ケリー」
ヨハン先生は笑みを浮かべて、私に顔を近づけて来る。
ヨハン先生…。
私とヨハン先生は誓いのキスを交わした―。
****
「ケリー。それじゃ僕はトマスさんの処へ行って来るよ」
スーツ姿のヨハン先生は私に言った。
「あの…でも、私もお詫びに行った方がいいのでは…?」
するとヨハン先生は困った顔で私を見た。
「僕が嫌なんだ。他の男性から好意を寄せられた目でケリーを見られるのが…ましてやトマスさんはケリーの事を好きだったから…ごめん。これは完全に僕の嫉妬だね。だけど、それ程僕はケリーの事を…」
「ヨハン先生…嬉しいです。そんな風に言って貰えるなんて…」
私は改めてヨハン先生の愛の深さに感動していた。
「トマスさんに、殴られる覚悟で謝って来るよ。帰ってきたらデートに行こう?」
デート…その言葉に赤くなる。
「はい…楽しみにしています…!」
ヨハン先生の帰りは相当遅くなると思っていたけれども、拍子抜けする位、あっという間に1時間もしないうちに帰って来た。先生の話ではトマスさんはとっくに私の事を諦めていたそうなのだ。それは初めてお見合いした日に、すでに見抜いていたらしい。けれど私が断って来ない事に付け込んで、強引にデートに誘っていたことを白状し、逆にヨハン先生に謝ってきたという事だった―。
****
「それにしてもヨハンは素直じゃないよな~。俺は始めからヨハンがケリーの事を好きな事に気付いていたって言うのに…」
仕事の合間に診療所に顔を出しに来たオリバーさんがコーヒを飲みながら言った。
「え?そうだったのですかっ?」
私はその言葉に驚いた。
「当り前だろう?一体何年あいつと付き合いがあると思っているんだよ。いつ2人がくっつくか、ずーっと俺は待ってたのに…まさか3年もかかるとは思っていなかったよ。それで?いつ結婚式を挙げるんだ?」
「はい、来月挙げる事になりました。あ、でも結婚式でありませんよ?ただ教会で結婚証明書にサインするだけですから」
「え?本当にそれだけなのか?俺だって一応結婚式は挙げたのに?」
「はい、そうです。私がそれでいいと言ったんです。」
トマスさんやヨハン先生のお見合い相手の女性の事を考えれば盛大な結婚式を挙げる
のは申し訳ない気がして、私が式は挙げなくていいとヨハン先生に申し出たのだ。
その事をオリバーさんに説明すると、神妙な顔つきで言った。
「そうか…でもそんな事気に病む必要は無いと思うけどな…でも2人で決めた事なら俺は口出しする権利は無いから」
そしてオリバーさんは残りのコーヒーを一気に飲み終わると立ち上がった。
「それじゃヨハンによろしく伝えておいてくれよ。来月が楽しみだな?」
それだけ言い残すとオリバーさんは帰って行った。
そして…あっという間に一月が経過した―。
****
青空が澄み渡る4月のとある日曜日―。
今日は私とヨハン先生の結婚式だった。結婚式と言っても神前で永遠の愛を誓うだけの簡単な挙式予定だった。
「おはよう。待ってたわ、ケリー」
教会の礼拝堂に到着するとシスターエレナとシスターアンジュが待っていた。
「あの…どうしてこんなに時間が早くなったのですか?」
私は2人に尋ねた。予定では11時に教会で簡単な挙式をする予定だったのに、今の時刻は午前9時だった。
「ええ、それが少し訳ありでね…」
シスターアンジュが何故か意味深に言う。
「?」
首を傾げていると、突然扉が開いてローラさんが礼拝堂に入って来た。
「え?ローラさん?ローラさんもこの時間に来ていたのですか?」
「おはよう、ケリー。待っていたわよ」
ローラさんは笑みを浮かべながら言う。
「え…?」
一体何の事だろう?
「ほらほら、早くいらっしゃい」
するとローラさんは手を引っ張って礼拝堂から私を連れ出し、控室へと連れて来られた。
「え…?」
私はそこで目を見張った。何とその部屋にはハンガーに掛けられた美しいウェディングドレスがつり下げられていたからだ。しかもそのドレスは…。
「こ、これは…!」
そう、このウェディングドレスはアゼリア様がカイザード様と結婚した時に着たドレスだったからだ。
「ケリー。そのドレスは私達がアゼリアから預かっていたのよ。いつか…ケリーが結婚する日まで預かっていてほしいと」
背後で声が聞こえ、振り向くとシスターエレナが立っていた。背後にはシスターアンジュもいる。
「このウェディングドレスを預かった時に…アゼリアから手紙も預かっていたの」
シスターアンジュが手紙を差し出して来た。
「て、手紙…ですか…?」
震える手で受け取ると、封筒は少しだけ黄ばんでいた。3年の月日が封筒を変色させてしまったのだ。
宛名には『ケリーへ』と書かれている。
アゼリア様の字…!
私は震える手で手紙を開封した―。
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