ケリーの章 ㉓ 待ちわびていたプロポーズ
いつの間にか眠っていたようで、スープの匂いで私は目が覚めた。パチリと目を開けると、ローラさんがトレーに食事を乗せて立っていた。
「あら、目が覚めたの?眠っていたから後でまた来ようと思っていたのだけど…」
私はベッドから起き上がった。
「美味しそうな匂いで目が覚めたんです。…ひょっとして、もうお昼なのですか?」
「ええ、そうよ。12時半になったの。どう?具合は?」
「はい、だいぶ楽になりました。ヨハン先生のお薬が効いたのかも知れないです」
「そうね。顔色もいつものように良くなったし…でもまだ今日は休んでいないと駄目よ。昼食を置いておくから食べなさい。トレーは置いておいていいから」
「ありがとうございます」
頭を下げるとローラさんは笑みを浮かべて、「また後でね」と言って階下に降りていった。
パタンと扉が閉まり、テーブルの上には湯気の立つ昼食が乗っていた。早速ベッドから降りて室内履きを履くと私はテーブルの上に向かった。
「…美味しそう」
トレーの上にはコーンスープにミルク粥、デザートにプディングが乗っていた。
「デザートまで作ってくれたなんて…嬉しいわ」
早速、私はローラさんの手作りの昼食を食べ始めた―。
****
かなり具合が良かったので、私は食べ終えた食器の乗ったトレーを持って階下へ降りて行った。
厨房を覗いて見たもののそこには誰もいない。
「…ローラさん…いないのかしら?それにヨハン先生も…」
するとリビングの方で話し声が聞こえてきた。ひょっとすると2人ともそこにいるのかもしれない。私はリビングへ向かった。
リビングの扉は少し開かれており、隙間からヨハン先生とローラさん。そして何故かオリバーさんにアメリアもいる。
「え…?オリバーさん…?」
扉をノックして開けようとした時、オリバーさんの声が聞こえた。
「…一体どういうつもりだよ。ヨハン」
その声は苛ついている。
「…どういうつもりって?」
ヨハン先生の声だ。
「ねぇ、ヨハン先生…ケリーにお見合いさせたんでしょう?」
ローラさんがヨハン先生に話しかけた。
「うん、お見合いさせたよ。トマスさんのたつての願いだったからね」
「どうしてそんな事させたんだよ。ケリーはずっとこの診療所にいたいと思っているのに!」
「だっていつまでもこのまま置いておくわけにはいかないだろう?ケリーはもう20歳なんだ。僕はアゼリアからケリーをお願いしますと託されていたんだよ。ケリーの幸せの為にはお見合いさせるのが一番だと思ったからだよ」
「バカ野郎!アゼリアはそういう意味で言ったんじゃない!ケリーを幸せにしてやって欲しいって意味でお前に託したんだよっ!」
「そうよ。大体ケリーの気持ちも確認しないで勝手にお見合いの話を進めるなんてあんまりじゃない」
「僕はケリーの幸せを考えてトマスさんに託したんだよ。2人は僕の目から見てもおい似合いだよ」
ヨハン先生…っ!
ヨハン先生に言葉に胸が締め付けられる。
「おい!ふざけるな。ケリーの気持ちを知っていてそんな態度を取るなら…俺は許さないぞっ!」
ますます苛立つオリバーさん。するとアメリアが言った。
「ヨハン先生ー。ケリーお姉ちゃんはね、ヨハン先生の事が好きなんだよ〜」
ア、アメリア…!
すると…。
「ああ、ケリーはね、僕のことを年の離れたお兄さんとして好きなんだよ?勿論僕もケリーは好きだよ。何しろアゼリアから託された…大切な妹だからね。だからケリーはいつまでもここにいてはいけない。結婚して幸せな家庭を作るのを見届けるのが僕の務めだと思っているんだよ」
「それは違うわ!ケリーは…!」
するとヨハン先生は静かに言った。
「2人とも、聞いてくれるかい?実は僕にもお見合い話が来ているんだよ…」
「!」
もうそこから先は話を聞くことが出来なかった。ソロソロと後ずさると、私は厨房へ向かい…気づけば勝手口から外へ飛び出していた。
そんな…嘘ですよね?ヨハン先生。
ヨハン先生は…やっぱり結婚するから…私が邪魔だからお見合いさせたのですか…?
あれ程晴れていた空は…今にも泣き出しそうな雲に覆われていた。
そんな空の下を私はあてもなく、涙をこらえて走っていた―。
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